別れ際の51音

宇佐美真里

別れ際の51音

 あなたは言った。

「いいさ…キミのしたい様にしよう…」

 うしろを歩く私を振り向くことなく言った。

「えぇ…。……。

 おわりなのかもしれないね…これで」


 かのじょは言った。

 きのうの電話で「わからないの…」と。

「くるしいのよ…胸が…苦しいの…」と。

 けっして貴方が嫌いということではないのだけれど…。

 このままでいいのかしらと、ふと考えることがあるの…」


「さん年だな…もう」

「しらないうちに、そんなに経ってしまったわね…」

 すり抜けていった時間は2人を別々の所へ運んだのだろうか…。

「せん週、ワタシが飼っていた小鳥が死んだの…」

「そう…知らなかったよ。聞いてなかったのかな…」


 たち止まり、やっと振り向いた貴方。

「ちがうわ…聞いてなかったのではなく、私が言わなかった…」

 つめたい風が、2人の間をすり抜けて行く。

 てを繋いで歩かなくなったのはいつの頃からだろう。

 とおい昔のことで、思い出すことすら出来ない…。


「なぜ、こんな風になってしまったんだろうな…」

 にらむのではない強い視線で、彼女は俺を見ている。

 ぬぐい去ってしまいたい様な過去すら、俺は思い出せない…。

「ねぇ?2人の3年間って何だったと思う?」

 のびた髪を掻き分けながら、彼女は言う。


 はるの…まだ若干冷たい

 ひざしが、掻き分けた髪を抜け彼女の瞳を照らす。

 ふと、今更ながらに俺は思った。

 へマをしたもんだ…。とんだヘマをしたもんだ…。

 ほほを伝う彼女の涙に…、やっと気付くなんて!


「まだ…」貴方は小さく呟いた。

 みつめる貴方の視線は、私の周りを泳いでいる。

「むりだよな…」再び小さく貴方は呟く。

 め鼻立ちのはっきりとした端正な顔立ちが酷く気弱に映る。

「もう…」


「やっぱり…むりだよな???」

 ゆっくりと、息を吐き出す様に言葉を紡ぐ。

 よく言えたもんだ…こんなこと。


 らくになろう。今まで独りで、前ばかり見て歩いてしまった。

 りゆうばかり考えて…。

 るーるばかり気にして…

 れん愛という言葉に甘えているだけで、

 ろくに彼女の事など見ていなかったんだ…俺は。


 わかれる事も「君のしたい様に…」などと、自分自身は汚さずに。

 お(を)れは、何度彼女の涙を見逃してきたんだろう…。

「んんん…。また一緒に手を繋いで歩きたいよ…」彼女は言ってくれた…。



-了-

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