第12話


 俺の歓迎会の翌日。ハーディーン討伐の冒険へ旅立つ日になった。


 朝食を食べ、装備の確認後、城のエントランスに来た。

 アルフィンも既に支度が終わっているのか俺より先に来ている。


 アルフィンの装備品は、赤色と白色のドレスに似た服装と、ラクス皇后が使っていたネックレスと左手にピンク色の腕輪をしている。どれからも魔力を感知出来ることから、魔力付与により様々な効果があるんだろう。


「いよいよ出発の時だな。険しい旅になるであろう。幾重もの危険もある旅だ。そなた等にだけ、危険を背負わせてすまぬな。

 だが、そなたらにだけ頑張らせるつもりはない。トランスヴァールに出来るだけの力を尽くさせてもらう。困った時は頼ってくれ。

 旅立つにつれ、これを渡しておく」


 ユルゲン陛下から貰った物は。

 各国の国王、党首に宛てた書状。

 300万リラ(マギア・フロンティアの貨幣らしい)


「書状には、そなたがこの世界に来た経緯とハーディーン討伐の旅に出ている事、力を貸してもらえる様に我の紋章を刻んでおいた。魔力を紋章に集めると映像が出て内容を表示する様になっておる。用紙にも魔力付与されておるから余程のことでなければ破けはせん」


 魔法を使った手紙か。

 自分たちでも説明は出来るが、この世界最大の国の国王からの方が信憑性とかあるだろう。

 そして、300万もくれたよ。凄いなユルゲン陛下。

 おい、見たか。某RPGの王様。これが、本物の王様だぞ。


「色々と気を使って頂いてありがとうございます」


「なに、これぐらいの事はさせてくれ。そなたにアルフィンの事は任せた。あの子は器量もいい。見たところそなたに気があるのも分かる。大事にしてあげてくれ」



 陛下が小声でアルフィンに聞こえないように言う。陛下気づいてたか。


「アルフィン。お前は今日まで本当に真っ直ぐと素直に育ってくれた。治癒魔法の鍛練も良く頑張ったな。亡くなったリアラも喜んでいるだろう。

 遂にその力を使う時が来た。見事ハーディーンを倒し、タクト殿と無事に帰ってきてくれ」


「はい……御父様……。今日までありがとうございました。必ず役目を果たし帰って参ります」


 ユルゲン陛下と見送りに来てくれた、人達に頭を下げ城を出る。アルフィンもユルゲン陛下も目元が赤くなっていた。



 城を出て、街の北門に向かっている。シズクと合流するためだ。

 北門に到着すると、シズクはいた。

 昨日会った時と同じ鎧と、刀を腰に差している。これが通常装備なのだろう。


「あ、アルフィン様、タクトさん」


 シズクがこちらに気付き駆け寄ってきた。



「シズクおはようございます。これからよろしくお願いしますね」



「シズクおはよう。待たせちゃったかな」


「いいえ。そんなに待っていません。私は待つ時間も好きですから大丈夫です」


「それで、これから何処に向かうのですか?」


 シズクが聞いてきた


「それなんだけど、先ずショップと冒険者ギルドに行きたいんだ。必要な物もあるかもしれないし、ギルドには登録をしておきたいのと、旅に支障がなければクエストも受注したい。クリスタから他の大陸に行く前に。いいかな?」



「はい。わたくしはそれで大丈夫です」



「そうですねタクトさんは昨日こちらに来たばかりなんですよね?それでしたら見ておいた方がいいかと」


「ありがとう。それじゃ先ずはショップかな」


「それではわたくしが案内しますね。城下町は幼いときから遊びに来ていたので詳しいですから」


 アルフィンが案内をしつつ城下町の説明をしてくれた。

 この街は四つのエリアで分かれている。



 商業区

 ここは、主にお店類が並ぶ。

 武器屋、防具屋、アクセサリー屋、道具屋等。

 食料品や服屋といった生活類もここで揃う。

 役所的な公的な建物もここにある。



 住宅区

 ここは名前の通り人々が暮らすエリア。

 一般階級の人達は大体ここに住んでいる




 貴族区

 ここは名前の通り貴族、位の高い人達が暮らすエリア。

 俺が歓迎会で出会った、街の重鎮達は大体ここに住んでいる。




 冒険区

 ここは、冒険者ギルドもここにある。

 魔法学校もここにある。



 この街のエリア毎の説明が終わり商業区に来ていた。

 装備屋を寄ってみたが、それぞれ既に装備は持っているので、必要な物は無かった。

 装備屋の主人から、魔物を完全に殺す前に、魔物の素材を剥ぎ取り、ここに持って来れば装備品に効力を付与出来ると説明してもらった。

 それならカイザーベアの素材なら良い装備品作れたんじゃと思ったが、ユーリが張り切って特大魔法を使ったから肉片も残らなかったのを思い出した。勿体ない。




 道具屋で一応薬草は買っておいた。

 アルフィンがいれば、そんなに使わないかも知れないが、冒険と言えば薬草とかの回復アイテムだよな。

 ちなみに薬草の値段は一個10リラ。10個程購入する。

 食料も保存が効く物を買っておく、野営の道具も一緒に。

 いつも宿を使えるとは限らないしな。



 道具袋も買ったので、その中に食料等は入れておく。

 旅で使うものが増えてくると荷物でかさばるから、魔法で収納とか出来ないのかな。色々と便利そうな魔法作れそうなんだが。

 もし作れたなら楽だよな生活にも使えるし。クリスタに着いたら試しみよう。



 買い物が終わり、冒険区まで来る。



「たしか、ここに冒険者ギルドがあるんだったよな?」


「はい。そうです。ここのギルドが本部的な役割を持っていて、各国のギルドは支部になります。

 他には魔法を学べる学舎と、魔法修練場もあります」


「魔法修練場?」


「魔法を行使出来る場所ですね。街中で中級魔法以上を使う訳にはいかないので。修練場は結界があるので魔法の練習をするにはもってこいの場所になるのです」



 街中で魔法ぶっ放すと建物とか破壊しちゃうしな。

 人にも危険だし。

 修練して覚えた魔法とかも使いたい人達もいるだろう。街出たら魔物もいるけど、普通の人だと戦えない人もいるだろうから、こういう場は必要なんだろうな。



「なんか決闘の場としても使えそうだな。ケンカした人とかの」


「そうですね。どうしても収まり効かない人達もたまにいるらしく、使用する人もいるみたいですね」


「アルフィンとシズクはギルドに登録してるの?」


「わたくしは冒険に出ることはなかったので。街から出るときも護衛が付いていましたので登録する必要がなかったですね」


「私はリアンヌ様の側にいることが多かったので神殿から出る機会もほとんどなかったので登録していません」


 二人は登録してないのか。その必要がなかったらそうだよな。

 そんな話をしていると、前の方の広場で人だかりが出来ていた。

 怒鳴りあう声も聞こえてくる。


「なんだ?」


「人が争っているのでしょうか?」


「行ってみましょう」



 人だかりまで来ると。

 冒険者だろうか。二人の男が言い争っていた。


「てめぇ。もう一回言ってみろ!」


「あぁ?だからてめぇがトラップ踏み抜いたからアイシャが飛ばされたんじゃねぇか!」



「こっちだって身を守るので手一杯だったんだ。仕方ねぇだろうが!」


「まぁまぁ落ち着いてください。言い争っていてもアイシャさんは帰ってきません。これからどうするかを考えましょう。ギルドで依頼として出しますので。実力者が見つかるかもしれませんから」


 うーん。人だかりも増えてきてるし、仲裁する騎士の人達もまだ来てないみたいだから止めるか。


「ちょっとちょっと落ち着きましょう?」


「あぁ?なんだてめぇは」


「あなたは」


「部外者は引っ込んでろ。今イライラしてんだ怪我したくないなら黙ってろ」


「まぁまぁ。こんな街中で騒いじゃ皆に迷惑でしょう?とりあえず場所移動するとかしましょう?」


「てめぇ。引っ込んでろと言ったよな!」


 言い争っていた一人が俺に殴りかかってくる。


「仕方ないな」


 上級魔物より圧倒的に拳の動きが遅かったので、

 それを最小限の動きで回避した。殴った本人は俺が突然消えたと思ったのか、驚愕している。



「凄い」


 シズクが。




「これはやりますね」


 仲裁していた人が。



 それぞれの反応をしていた。

 アルフィンはある種の信頼から驚きもせず当然との顔をしている。


「……な、何だお前は」


「落ち着きましょう?ね?」


 少し魔力を纏い威圧感を出す。


「わ、分かった」



 分かってもらえたようだ。

 ここだと目立ちすぎるのでギルドにある、個室に移動することにした。

 仲裁していた人はギルドの職員で個室まで案内してもらう。

 色々手順をすっ飛ばしがまぁいいか。


 言い争っていた理由はこうだ。

 ケンカをしていた、二人は冒険者でアイシャさんとトランスヴァールとクリスタの中間辺りにある、ダンジョンに行っていた。

 ダンジョンには当然魔物もいて、苦戦しながらも攻略していた。

 奥に進むにつれて魔物のレベルも上がり、回復アイテムも底を見え始めた時、一際強力な魔物が現れた。最初は討伐する方向で戦っていたらしいが、直ぐに逃げる事に切り替えたらしい。


 だが次第に追い詰められ、地面にあった転移トラップを踏んでしまい後衛のアイシャさんが転移されてしまった。助けに行きたくてもどうしようもなく、命からがら逃げ出して来たらしい。

 街に帰って来たものの、直ぐに責任を押し付けあいケンカになった際、ギルド職員のクロウさんが仲裁に入ったと。


「と言う訳なんです。ギルドとしても直ぐに救助に向かいたいので、救助依頼を出したのですが、ダンジョンの敵も中々強く、それに伴う実力者は直ぐに確保出来なくて困っていたんです」


 なるほど。この人達だけでも逃げられたのは幸運だったのだろう。この世界には実力差がハッキリと発生する。実力がないと大切な人も護れないのだ。

 アルフィンとシズクを見ると、俺の目線に気づいた様で頷いてくれた。

 俺は一つ頷きクロウさんに言った。


「その依頼、俺達が引き受けます」


「それは、ありがたい。先程の身のこなしであなたは只者ではないと思いました。引き受けて頂けるなら本当に助かります。

 それでは、直ぐに向かってください。馬は既に用意していますので利用してください。あと、ギルドには登録されていますか?」


「いえ。まだ登録していません」


「それでは戻られるまで登録カードを作っておきましょう」


「ありがとうございます。それじゃアルフィン、シズク行こうか」


「はい。急ぎましょう」


「全力で救助させてもらいます」


「俺達も連れて行ってくれ。ダンジョンまで案内させてくれ」


  先程もめていた男達が言った。


「それでは一緒に行きましょう」


 急ぎでダンジョンに向かった。




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転生したら世界を救ってほしいとお願いされました なお吉 @afafnaonao

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