第4話 再開と

 自分の通帳を慌てて取り出す。いくら持ってるっけ。スマホで検索する。世間様から褒められた大学生じゃないのは承知しているが、バイトはかなりしている。通帳と渡航費を見比べた。いける。どたどたと階下に行く。

「母さん父さん。俺、春休みオーストラリア旅行するわ。」

唖然とする両親をそのままにしてまた部屋に戻る。それからはあっという間だった。


 俺は飛行機の中で思い出していた。

「遼、世界はまん丸なんだよ。だから今離れてもまた会える。私、また会いたいなってこの地球儀に願ったの。」

別れ際の言葉だ。その時は何だこいつと思っていたが、海外に行くことを最後まで直接言い出せなかったからあんな言い方をしたんだろう。でも、あいつも馬鹿だなと思う。そんな言い方したって当時の俺がわかるわけないじゃないか。


 オーストラリアにつき、彼女の家へと向かう。日本のスケールじゃないと感心しつつインターホンを押す。不審がる声。当たり前だ。急に知らない日本人の男が訪れてきたら警戒もするだろう。どちらさまでしょうか。英語を聞くことはできるが喋ることはできない俺は日本語で返す。

「亜美さんの小学校の同級生の矢島遼です。」

沈黙と、呼び声と、階段を駆け下りる音。玄関を開ける音。そして、門を開ける音と少女。

「馬鹿じゃないの?」

泣きながら怒ってきた。

「もう忘れられちゃったかと思ってた。」


 懐かしい昔話に花を咲かせているとだんだんわかってきた。人の記憶とは不思議なもので、大事でも消し去ってしまったりする。消し去るだけでなくて、後悔していることだと嘘の記憶を作り出すこともある。俺の場合は前者であり、亜美の場合は後者だった。亜美の中では「遊びに来てね」と言いながら住所を渡したことになっていたそうだ。

 亜美が周りくどいことをしてくれたせいで二人の時は止まったままだった。でも、もしかしたら、これから動き出すんじゃないか。

「遼、ずっと好きだったの。」

彼女は泣きながら笑っていた。

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遠いあの子から貰った地球儀 雑賀草 @weaselslap

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