第3話 外の世界は美しい

✕月✕日



――今日の「グッドオールドサタデー」のラインアップは明るめの曲を用意。なんたってステイホームからゴーアウトサイドに変わった劇的な週末だからね。テーマは「外の世界は美しい」。


 放送局の窓辺には涼やかな色の西洋アサガオの鉢植えが置かれていた。番組のファンからの贈り物だったが、雑種のように耐久性のある西洋アサガオはどんどん伸びて花を増やし、それも朝から夕暮れ時まで咲いている。それでも青空のようなその色は、スタッフにも局への訪問者にも、野外の爽やかな空気を運んでくれた。


――さぁ、今日紹介する最初のメールは、ちょっとうれしいメールなんだ。前に読んだスニーカーがきっかけで幼なじみと再会した彼からのメール。

「こんにちは、DJシュウ。僕は昨日さっそく幼なじみとツーリングに行きました。近くの海抜三百メートルもいかない山なんだけど、こんな低い山でも町で一番大きなショッピングモールが小さく見えて住んでいる町がまるでミニチュアみたいでした。町の向こうに真っ青な海まで見晴らせて感激しました。ソロキャンプしてる人もいましたよ。

 空気はきれいだし、最高でした! これからはゴーアウトサイド。カノジョとのデートもいいけど、仲間同士で行くツーリングもオススメです。あ、( ゚д゚ )彡そう!仕事、続いています」


――そうか。楽しそうだな。写メもある。インスタにもあげてるって。今のコってもうアルバムなんかじゃないんだな。では一曲目、メールの中に出てきた海にちなんでDistant Shoresを。



 さあ一曲目の後は、次もいい予感のするメールなんだ。片想いの相手が友達のカレシだったっていう大学生からまたメールが届いているんだ。相手が自分の事を覚えてないと思っていたんだけど、そうでもなかったようで。メールに引き続いてかける曲はThe More I See You…。


「DJシュウさん、こんにちは。この間は片想いの三角関係っていう複雑な悩みをぶちまけちゃいました。私、欲ばって二人の間に割り込みたいとは思ってないんですけど、最近ちょっといい事が二つありました。

 想い人さんが私の事、覚えてくれてたかもしれないんです。『かもしれない』って中途半端ですよね。例の行きつけのカフェのオーナーさんが教えてくれました。直接彼に聞いたそうです。でもゼミの勉強会で何度か一緒だったんですけど、相手はそうじゃなく、もっと昔に会った気がするって言ってるらしいです。この間紹介された時、正面から見てエクボで何となく思い出したって。オーナーさんは幼なじみかなんかじゃないかって言うんですけど、相手は親の仕事で外国で育ったらしいです。純国産の私ですからやっぱ勘違いかなー。でもいいんです。昔に会った気がするって何かロマンティック!

 そしてもう一つのいい事は、その想い人さんもカフェの常連さんになった事です。甘い物好きなんかなって思ったら、コーヒーと絵が好きなんですって。カウンターの右側に大きな絵があって、だからカウンター右端の席がお気に入りって。それで私もステイホームが終わり、土曜日、日曜日にも営業を再開したので、これからそのお店に行くところです!

 あ、その絵なんですけど、ファン·ゴッホの絵です。カップルが木立の間を歩いている絵。空は暖かい色でそこに綺麗な黄色の三日月が空に埋め込まれてるみたいなんです。浮いてる感じでなく、空と一体化したみたいで、不思議な月だねって言うと、だからいいんだよってその人は好きな理由を教えてくれましたよ。三日月って普通寂しそうだけどこの絵は違うんだって。

 全くの片想いだけど、DJシュウさんやラジオの前のリスナーさん達にそんな女の子がいるって、聞いてもらいたかっただけなんです。あ、でもこんな恋の話、珍しくもないですよね?」

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三日月の国の記憶 秋色 @autumn-hue

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