ノレスの状態




薄暗い部屋の中でアスタルテはゴクリと生唾を飲み込む。




以前自宅でノレスの部屋に入ったときの感覚が蘇り、多少の警戒心を持ちながら一歩一歩先へと進む。




ふと棚の方へと目をやると、そこには写真立てが置いてあった。





「これは……子供だった頃のノレス?」





写真立てを手に取り見てみると今と変わらない姿のレラシズファティマとナディアスキルがソファに座っており、その間にノレスと思われる仏頂面の少女が座っていた。





ブスっとした表情のノレスを見て微笑みを浮かべていると、ベッドの方から布の擦れる音がしてアスタルテはそちらに顔を向ける。




「ノレス?」





写真立てを元の位置に戻したアスタルテはゆっくりとベッドへ近づくと、そこにはすやすやと寝息を立てるノレスがいた。





あのノレスがこんなにも起きないものなのだろうか……




そう思ったアスタルテが無意識にノレスへと手を伸ばしたその瞬間──────。





カッとノレスの目が開くと共に鋭い手刀がアスタルテの首めがけて飛んでくる……!!





「……!?」





油断して対応が遅れたものの、アスタルテはノレスの手首を握って手刀を止める。





「ん……アスタルテか……どうしたんじゃ…ここはお主の部屋じゃないぞ…」




アスタルテの姿を確認したノレスは眠そうに言葉を続ける。





「誰も入れるなと……言ったんじゃがな…」





仰向けだったノレスはアスタルテの方へ寝返りを打つと、目を開いてじっと見つめる。




「手を放してくれぬか?」

「あっ、ごめん」





手を掴みっぱなしだったことに気付いてアスタルテはパっと手を離す。





「それで? 我に何か用でもあるのか? それとも……夜這いに来たか?」

「え? い、いやそんなんじゃなくて! ノレスの様子がちょっと気になったから……」

「そうか。 アスタルテよ、手を出すのじゃ」

「手を? まぁ、はい」




唐突なノレスの要求にアスタルテは疑問を浮かべつつ手を差し出す。




「うわっ!?」




グイっと差し出した手をノレスに引っ張られ、アスタルテはベッドの中に引きずり込まれてしまう。




ベッドの中はノレスの香りで満ちており、思わず心臓が高鳴る。





「の、ノレス……?」

「お主は暖かいのう……」

「え?」




アスタルテにピッタリとくっついたノレスは心地よさそうに瞼を閉じる。




(ノレスの言葉……同じセリフを前聞いたような……)





アスタルテは記憶の引き出しを高速で整理し、やがて思い出す。




そうだ…! 神のオーラ……!




それはアスタルテが持つスキルで、覚醒中は触れている友好な者を回復させることができるというものだ。




確かあの時のノレスはクエンとの戦いで魔力を消耗してフラフラだったはず……

ノックはおろか、触れる寸前まで私の気配に気付かなかったほど寝ていたという事は……。





「ノレス……もしかしてかなり体力を失ってるんじゃ……」

「…………まぁ、そうじゃな」

「やっぱり……! いつから!?」





ノレスに聞きつつアスタルテはどうしようかと考えを巡らせる。




今は覚醒中じゃないから神のオーラは発動していない……。

でも、覚醒のスキルが無くなって覚醒Lv2になってしまった以上、何が起こるか分からない……。

そのため気軽に覚醒することが出来ないのだ。




(でももし、ノレスが危ない状態だったら……)





アスタルテが悩んでいると、ノレスから声がかかる。




「アスタルテよ、お主の魔力を少し分けてはくれぬか?」

「え、まさかまたあの触手……?」




覚醒状態をノレスに解除してもらった時の記憶がよみがえる。

その時はノレスの触手に魔力を吸い取って貰ったのだが……いかんせん見た目があまりよろしく無く、その後のノレスの怖さも相まってアスタルテに若干のトラウマを植え付けたのだ。





「いや……触手ちゃんを出す気力がないからのう……別のやり方じゃ」

「別の……? まぁいいけど……?」

「決まりじゃな」





ノレスはアスタルテの両脇を掴むと、グイっと持ち上げ枕元に持ってくる。

腕をそのままアスタルテの肩の下に置いてプランクのような姿勢でノレスは覆いかぶさる。




「えっと……これは一体…?」




眼前に迫るノレスの美しい顔にアスタルテはドギマギして目を逸らす。





「んむぅ!?」





すると突然アスタルテの口にノレスの唇が触れ、唇を舌でなぞられる。

唇の力を緩めると、ノレスの舌がゆっくりと侵入しアスタルテの舌に優しくキスをすると抱き着くように絡めてきた。




長く続くことを覚悟していたアスタルテだったが、意外にもすぐノレスの唇は離れてしまった。





「ライゼンとの戦いまでは余裕もあって良かったんじゃがな」

「え、うん。 ってうわ!?」




ぽつりと呟いたかと思えば、アスタルテは再び持ち上げられる。

今度は正座をしたノレスの太ももに座らされ、ノレスの左手がアスタルテの後頭部に回される。




「問題はその後のマギルカだったんじゃ」

「うん。 ……んん!?」





状況を思い浮かべようとしたアスタルテの口が再びノレスの口で塞がれる。




今度は先程とは違い、激しく舌を擦るように口内を蹂躙される。





「あやつは何を考えたのか、とんでもない魔法をぶっ放しおってな」




口を離したノレスは再び囁くように言葉を発した。




すると、ノレスはアスタルテを抱えたまま後ろに倒れ込み、今度はアスタルテがノレスに覆いかぶさるような形になる。





「戦いの傷跡を残すどころか、あんなのを着弾させたら辺りの地形が消滅しかねん」

「そ、そうだったん………っっ」





ここまで来ると流石にアスタルテも予期していた。




ノレスはアスタルテの頭をグイっと引き寄せると再びアスタルテの口内を貪る。

優しく頭を撫でる反面、舌を吸う激しいキスにアスタルテは意識が飛ぶような感覚に陥っていた。





部屋に唾液が交わる水音と吐息の漏れる声が響く。





さっきまでの数倍長く。 そして激しく交わった末、光に輝く糸を引きノレスは顔を離した。




「じゃから我は覚醒し、それを敢えてくらうことで魔法を相殺したんじゃ」

「そ……そう……なんだ……」

「魔界への転送門も簡単な物ではなくての。 トドメにお母様の説教で我は疲れ切っておったのじゃ」

「はぁ…はぁ……の、ノレス……」





ノレスの緩急のあるキスでアスタルテは話が全く頭に入ってこなかった。




目はとろんと垂れ、身体は全身が熱く、呼吸がひどく乱れていた。




「のれすぅ……」




全身の神経が敏感になっていたアスタルテは、無意識に甘い声でノレスを誘っていた。





「アスタルテ……うっ」




アスタルテの様子を見たノレスが抱きかかえようとすると、うめき声と共にベッドに頭を預ける。





「のれす……?」

「うぅ……すまぬ。 一気に大量の魔力を摂取したもんじゃから……魔力酔いじゃ……」




顔面蒼白なノレスは目を閉じると、そのまま寝てしまった。





「え……そんな……のれすぅ……」




一人残されてしまったアスタルテは行き場のない身体の昂ぶりに身悶える。




そしてふとノレスの手に目が留まると、それをじっと見つめるのであった─────。


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異世界転生のキャラクリエイトを《おまかせ》にしたら幼女で最強で200歳で!?!? あすれみ @astarute

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