第2話 青い鳥に思いを託し

自粛という曖昧な言葉により生業の継続が危機に曝された各企業はある程度は応じながらも継続に向けての不断の努力は行っていた。

この「自粛」という魔法の言葉は容易に人通りを失わしめ、夜の街から活気という名の血液を奪い去った。

その根本がどこにあるのかといえば後ろ指をさされるのを忌避する心理にあり、自粛要請という摩訶不思議な四字熟語が登場する頃には既にその土壌は完成していた。

三月に入り、飲み屋では閑古鳥が鳴く。

二月の下旬の時点で既に閑散としたものがあったが、三月の景色は完全に違っていた。

ショットバーでは貸し切りを数時間にわたり享受することができ、ガールズバーでは開店後数時間が経っているにも関わらず、その日の最初の客になることもあった。

愕然とするような環境の中で、私もまた「自粛要請」という名の縄を受け動きを封じられることとなる。

その時の怒りは、

「負けてたまるか、此畜生!」

という品性の欠片もない一言に凝縮されており、今思えば我ながら恥ずかしい限りである。

ただ、ここでの「怒り」は抑えつけようとする力よりも、何もできない自分へ向けられた。

だからこそ「書く」という行動に繫がったのであるが、そのためには情報が必要となる。

その中で、新たにSNSを始めた企業が多くあることに気付かされた。


今回のコロナ禍はなんといっても急速に事態が悪化し、体力をつける暇もなければ先を見通すことができない中での闘いを強要されるというのが特徴である。

熊本であれば熊本地震が大きな災害として思い起こされるが、それでも、復興に向けて動き出すタイミングを見出すことはできたのである。

それが今回はいつ収束するかもわからず、対策も分からない。

一方、何かをするにも元手が必要であるが、そのような余裕が少ないのもまた現実である。

広告をマスメディアに出そうと思えばそれなりに費用がかかる。

だからこそ、比較的容易に始められるSNSの利用が増えたというのは当然の帰結といえよう。


その中でもまず目についたのは藤崎宮は表参道の日本料理店である「きた川」さんである。

どうしても宣伝や案内に専念しがちな企業アカウントもある中で、他企業の案内もしながら少しずつではあるがフォロワーを増やしている。

この店もまたテイクアウトを始めていたので伺ったのであるが、その丁寧な対応はツイッターで見るものと遜色ないものであった。

そして、当日の注文で求められる海苔弁当をいただいたが、安易な廉価販売に頼らぬ姿は旨味に係数を与えて至福と成す。

香の物に加えて海苔の下に隠された昆布が真中で高菜に変化を遂げるのもまた心憎い。

そして、照り焼きひとつで私に酒を勧めようとするが、これは職場での昼飯であって生殺しもいいところとなる。

通常営業に戻られてからの呟きはまだないものの、ぜひ店の在り方ともども続いてほしいものである。


また、長崎県は佐世保市のラウンジである伊勢グループもまたSNSを始めた。

このお店を知ったのは旧海軍艦艇を擬人化した某ゲームのイベントの際に投稿した写真を見つけていただいたおかげなのであるが、お陰様で再び佐世保を訪ねる理由ができた。

夜の街は観光業と時をほぼ同じく苦境に立たされているのだが、それが我が故郷の長崎ともなるとその深刻さを増す。

その中でも苦境に負けず、希望を捨てず、感謝を忘れず、西の軍港で詠う女性の声は人魚のように心ある惹きつけて止まない。

そして、そのような中で何かを判じることなく紡ぐ言葉は何よりも美しい。

いずれ時が至れば即ち訪ねずにはいられない店であり、言葉を交わさねばならない人である。


青い鳥が人々に幸を齎すことを願って止まない。


【店舗情報①】

「表参道 きた川」

〒860-0842 熊本県熊本市中央区南千反畑町12-25

営業時間:11:30~14:30/平日 17:30~21:00(日曜日・祝日 17:00~20:30)・月曜定休

電話番号:096-312-1608

※現在、予約営業中心


【店舗情報②】

「ラウンジ伊勢」

〒857-0878 長崎県佐世保市山県町1−23

営業時間:0956-24-0334

電話番号:月~土 20:00~2:00

※営業時間変更有

※現在、基本金・土のみ営業

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アマビエの足跡を求めて 鶴崎 和明(つるさき かずあき) @Kazuaki_Tsuru

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