変態男子は後輩に誘惑して欲しい (中)

「へっ……?今なんて……」


「いや、言葉で表しにくいなら実際にやれば良いんじゃないかなって――」


「なに言ってるんですかっ!バカなんですかっ!」


「ちょちょ急にどうしたの琴花ちゃんっ!」


「絶対嫌ですっ!絶ぇぇぇぇぇ対に嫌ですっ!」


「わ、分かったからちょっと落ち着いて琴花ちゃんっ!」



真っ赤な顔をして詰め寄って来る琴花ちゃん。

……俺自身、かなり動揺している。こんなに感情をむき出しにしている姿は初めて見たからだ。

どうしよう、どうすれば良いんだ。



「なーんで私がセンパイをゆーわくしなきゃなんですかっ!」


「い、嫌なのは分かるけどさっ!これも全部橘さんのためだからっ!」


「……っ!……ま、まぁそれはそうですね……橘さんのお悩みを解決しないといけないですもんね……」



下唇を噛み、急にしおらしくなる琴花ちゃん。分かってくれたのか……?



「じゃあ、センパイはそこに座っててくださいっ」


「う、うん。分かった」


「……」


「どうしたの?」


「……一回、目を瞑ってください」



俺は指示された通りに、座りながら目を瞑る。

すると前方から、しゅるしゅるという音と、ぷちぷちという音が聞こえてきた。

明らかに衣擦れの音と、ボタンを外す音――って、え?琴花ちゃん一体なにしてるのっ!



「一応準備は出来ました……あっでもまだ目は瞑っててくださいね……!」



トコトコという足音が近づいてくる。

それを聞いて胸が高鳴り、思わずゴクッと生唾を飲んでしまう。

だってさ。ここまで成り行きで来てしまったが、良く良く考えたら俺今から好きな子に誘惑されるのだよ。そんなの平静を保っていられるものかっ。


そんなことを考えてると、ふいに横からガラガラと椅子を引く音が聞こえて来る。



「センパイっ」


「はっはい!」


「その……もう目開けて良いですよっ」



そう言われて、俺は目を開ける。

そして隣を見ると、こちらに背中を向けて椅子に座る琴花ちゃんが見えた。



「……センパイに一つ忠告です」


「なんでしょうかっ?」


「これからすることはあくまで橘さんのためにします……だから決して、センパイをゆ、ゆーわくしてるわけではないので、間違っても欲情とかしないでくださいねっ……?」



弱弱しい声色でそう告げて来る琴花ちゃん。



「約束する。心に誓って」


「じゃ、じゃあ行きますよ……」



胸の高鳴りがピークになる。

やべぇ。まじで破裂しそう……――ん?



「ど、どうですかっ?」


「ど、どうなのかな……。くすぐったいかな?」



今なにをされているのかと言うと、相変わらず後ろを向いたままの琴花ちゃんが右手で俺の太ももをさすっているのである。



「襲いたく、なっちゃいますか……?」


「うーん……あんまりしないかも」



……正直、もっと過激なものなのかなって思っていた。別にこれがドキドキしないわけではないんだけど、これだけだとそういう気持ちにならない。



「そうですか……」



琴花ちゃんが俺の太ももから手をどける。



「なんかその、ごめんね?せっかく琴花ちゃんにここまでしてもらったのに……」


「いっいや大丈夫ですよ。私の力不足が悪いんですし……」


「……」


「……」



俺と琴花ちゃんとの間になんとも言えない気まずい空気が流れる。


こう、なにか伝えたいんだけど、なかなか言葉に出来なくて。

はぁ、どうしよう……。



「センパイ?」


「ん?」


「もし私が……センパイのこと好きだって言ったらどうしますか?」


「へっ?」



突然のことに声が裏返る。思考が止まる。


――えっ今、琴花ちゃん告白して来た……!?



「琴花ちゃんっ。今のど、どういう――」


「センパイっ……!」






春が終わりを告げ、辺りが少し蒸し暑くなって来た五月の中頃。



夕暮れが照らす部室で、俺は想い人に抱き着かれた。








〈あとがき〉

ドギマギしている琴花ちゃんが可愛いですねぇ~。(何目線)



明日の午後四時ごろに第六話を更新させて貰います。是非ご覧ください!










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変態男子はカノジョが欲しい しろき ようと。(くてん) @Siroki-Y

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