第11話地獄の執事
湊はあの後その場の男子を病院送りにした。どうやらバットを奪ってそれで殴り続けたらしい。騒ぎを聞きつけた先生が止める頃にはひどい状態だったと聞きた。
私は泣いている柚子ちゃんの手を握ったまま、教室で座っていた。周りの奴らは不思議そうに見てたけどその時だけは気にならなかった。それよりも湊のことが気がかりでしょうがなかった。でも私に彼を気にかける資格なんてあるのだろうか。
それから湊は私達の前に一回も姿を見せず転校した。先生は親の事情と説明したが、クラスの全員が理由を知っていた。
湊の噂は一瞬で学校全体に広がり、その時期の話題となった。有る事無い事皆んなが言う。湊はサイコパスだ。湊は薬をやっていた。湊の親はヤクザだ。
湊は人殺しだ。
湊に病院送りにされた奴らが帰ってくると、皆んなは彼らを讃えた。よく帰った!大丈夫か!あの悪魔に負けなかった!お前らはよく闘った! それから湊の噂を聞かない日はなかった。
柚子ちゃんと私は何も言わず、ただひたすら沈黙を守り続けた。それしかできなかった。
ある日それまで湊について何も話さなかった柚子ちゃんが、ぽつりと私に言った。
「加藤くんは閻魔様みたい」
柚子ちゃんはその時、絵本を読んでいた。そこには閻魔様が人間の舌を掴んで伸ばしている絵が描かれていた。
「なんで?」
「だって……… 人を殺そうとしたから」
外に居るわけじゃないのに、私の身体は急速に体温を下げて、凍ってしまったような感覚だった。
「違うよ、湊は私を守ってくれたの」
「それでも人を傷つけた」
「それはあいつらだって!!!」
立って声を荒げた自分に驚いたが、私はそのまま柚子ちゃんを見下ろした。
周りが視線が私達に集まっているのがわかる。
「加藤君は……… 人としてやっちゃいけないことをやったよ」
「だから!! それはあいつらも!!」
「ねぇ」
声のした方を見ると、そこには女子が一人立っていた。私をいじめた奴らのリーダー的存在。彼女は一歩一歩私に近づいて、キスしてしまいそうなくらいのところで止まった。彼女の目と私の目は同じ高さだった。
でもすぐに彼女の目線のが上になる。私は椅子に座ったのだ。
「ねぇあんたさ」
冷たい冷たい声が頭上から降り注ぐ。
「あいつの味方なの?」
身体は冷え切って、心も冷え切ってブルブルと震え出す。言葉を紡ごうとする口は、機能を失ってしまったように硬直する。
私は湊の味方! 湊は何も悪くない! 心の中でそう叫ぶ。何回も何回も何回も。私は。
「ねぇ愛奈ちゃんはあいつの味方なの?」
その言葉を柚子ちゃんの口が型どったとは思えなかった。それはとても綺麗な氷柱のように私の心を、胸を、心臓をズバリと刺した。
「違う………よ」
この時きっと地獄で門は叩かれ、閻魔様とやらが私を地獄行きに決定したのだ。
地獄の執事 @ani0401
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