最終章 戦いの果て
桐生と遥はアレスに向かった。
桐生達より先に伊達と須藤がミレニアムタワーに来ていた。
屋上にあるヘリコプターの前にいる。
「急ぎましょう、伊達さん!」
「時間が無いです、早く!」
伊達が言う。
「須藤、お前・・」
「こんな事して大丈夫なのか?」
「横浜で伊達さんに言われて気になったんです。」
「それで自分で神宮を内偵してみたら、神宮が世良と繋がっている事が分かりました。」
「あの100億は神宮の金だったんです。」
「ですが私にはもっと別の裏があるように思えるんです。」
「神宮はあの金を取り返して何に使うのか・・」
「別の組織と繋がっているのかもしれない。」
「東城会とMIA・・それ以外の組織の影を感じるんです。」
「刑事の勘って奴です。」
「ま、私も伊達さんの弟子ですから。」
「私達も自分の目で確かめに行きましょう。」
桐生と遥がアレスの中に入ると、由美がいた。
「由美・・」
由美が驚く。
「一馬!・・遥!」
遥が由美に駆け寄る。
「お母さん・・お母さんなんだよね?」
遥を抱きしめる由美。
「遥!ごめんね・・」
「辛い思いさせてごめんね!」
「私ね、お母さんね、本当はあなたと一緒にいたかった。」
「でもね、自分がお母さんだって言う事が出来なかったの。」
「いいよ、お母さん。分かってるから。」
「私、嬉しいよ。」
桐生が遥の頭を撫でる。
「良かったな、遥。」
由美が桐生に体を寄せる。
「お帰りなさい、一馬。」
「ああ。遅くなって悪かったな、由美。」
ヘリコプターの音がした。
「きっと彼が来たのよ。」
「奪われたものを取り返しに。」
ビルの屋上にあがるとMIAのヘリコプターから神宮が降りてきた。
「久しぶりじゃないか、由美。」
「それに遥。」
「こうして会うのは初めてだね、桐生一馬君。」
「初めましてと言うべきか。」
「さようならと言うべきか。」
「フフフ、君には苦労させられたよ。」
由美が言う。
「100億を取り返しに来たのね。」
「ああ、そうだ。当然の話さ。」
「それは元々私の金だからねえ。」
「それに他にも色々処分しにきたのさ。」
神宮は遥に銃口を向けて引き金を引いた。
桐生はとっさに遥を庇い、右肩に被弾してしまった。
「神宮ぅ・・お前!」
「お前・・どうして・・」
「どうして自分の娘を撃てるんだ?」
「馬鹿な男だ。」
「まあヤクザなど皆こんなもんか。」
「仕方ない事さ。」
「その子供は私にとって邪魔者でしかない。」
「私の今後、いや、この国の今後の為には必要のないものなのだよ。」
桐生が言う。
「自分が愛した女と出来た子をどうしてそんな簡単に・・」
由美が言う。
「一馬、この人にはそんなこと言っても無駄よ。」
「この人の頭の中にはそんな感情は無いの。」
「自分が出世することしか考えてない。」
「何を分かったような事を言っているんだ。」
「私に捨てられた女に何が分かるというんだ?」
「知ったような口を叩くんじゃない。」
由美が言う。
「私には分かるわ。」
「どうして世良さんがあなたを裏切ったか。」
「あなたは国のため、政治のためと言って全てを切り捨てて生きている。」
「でもね、それは全部言い訳。」
「結局は自分がのし上がるための理由でしかない。」
「そんな信念はすぐに嘘と分かってしまう。」
「ふざけるな!」
「お前や世良ごときに私の何が分かるというのだ。」
由美が言う。
「あなたには何を言っても無駄ね。」
「自分が恥ずかしくないの?」
神宮が由美に銃口を向ける。
「随分な言いようじゃないか。」
「でももうそんな事はどうでもいい。」
「ここでお前等は終わりなんだからなぁ。」
そこに寺田が組員を連れてやってくる。
「そうかなあ、まだ終わってへんのちゃうか?」
「これで力は五分五分や。」
「風間さんの意思はまだ生きとるんやで。」
神宮が高笑いをする。
「これだから頭の無い極道は困る。」
「やれ!」
近江連合の組員が寺田を拘束する。
「そうだよ。」
「私は東城会から近江連合に鞍替えしたんだ。」
「バックの組織をな。」
「私は着々と進めていたんだ。」
「東城会を捨てて近江連合と協力関係を築く計画をね。」
「寺田、お前は近江連合の五代目に踊らされていただけなんだよ。」
「もう1年前から話は進んでいたんだ。」
「五代目と私の間でね。」
「私は世良が私を裏切る事は分かっていた。」
「彼は融通の利かない男だったからね。」
「理想を求めずっと私を支援してきてくれたが、結局は現実の前にくじけたんだ。」
「君等に政治の話をしても分からないだろうが、国を動かすには金と力が必要なのだよ。」
「私にとって彼はその力だった。」
「だが彼は変な信念のために私の理想から離れていったのだ。」
「数年前、殺してくれたと思っていた由美が生きていると言う事を知った私は世良、いや東城会を捨てる腹心算でいたんだよ。」
「私は近江連合に話を持ちかけた。」
「近江連合としては私の政治力は魅力だ。」
「政治と裏社会、このふたつを牛耳ることができたら日本を操ることなど造作もない事だからな。」
「その100億は近江へと渡る。」
「私としては東城会も潰れてくれて正に一石二鳥という訳だ。」
桐生が言う。
「じゃあ錦も踊らされてたって言うのか?」
「そうだよ。」
「彼に100億の話を吹き込んだのは私だ。」
「出世欲に取り付かれた若造にエサを見せて動かしただけだ。」
「彼は見事にその役目を果たしてくれた。」
「世良の暗殺から内部抗争までね。」
「そして更に嬉しい誤算があった。」
「君だ。」
「君が現れてくれたおかげで東城会は崩壊寸前だ。」
「本当にお礼を言いたい気分だよ。」
「悔しいだろ?だがな、もう遅い!」
「私は近江連合と手を組み、日本国の頂点に立つ。」
「近江連合は裏社会を統一し、その全ての力を私が得る。」
「私の理想が叶うのだ!」
「そんな事はさせないわ・・」
由美は持っていたアタッシュケースを開いた。
アタッシュケースの中には爆弾が入っていた。
爆弾にはタイマーがついていて、起爆するためのリモコンもある。
暗証番号を入力して起爆スイッチの解除ができるようだ。
「もうこれであなたは私を撃てない。」
「これが爆発すれば店の中にある100億も一緒に消えて無くなる。」
「私は100億をあなたには渡さない。」
「一緒に爆発してこの世から消すわ。」
「人間は損得勘定だけじゃ動かない。」
「もっと熱い、もっと強い気持ちがあって初めて動くものなの。」
「昔のあなたにはそんな気持ちがあった。」
「だけど権力を持つことや出世することにあなたは溺れたの。」
「一馬、遥をこっちに。」
由美と遥はアレスの中に入っていった。
桐生が言う。
「これで由美と遥には手出し出来ねぇなぁ、神宮。」
「なあ、神宮。」
「世良会長はな、あんたが何を考えているかなんてお見通しだったんだよ。」
「会長はあんたに気づいて欲しかったんだ。」
「昔の強い信念があったときのあんた自身を。」
「だから自分の命を危険にさらしてまで100億を盗んだ。」
「あんたから取り上げようとしたんだ。」
桐生は世良の遺言状を取り出した。
「あんたは遺言状の存在を錦にちらつかせ内部分裂を画策したんだろうが、本当にあったんだよ。」
「会長と親っさんが命がけで残したんだ。」
「俺は風間の親っさんや世良会長が残してくれたもんを守る!」
遺言状をひろげると、そこには桐生一馬の名前が刻まれていた。
「俺は東城会四代目、桐生一馬だ!」
襲いかかってくる近江連合組員をなぎ倒していく桐生。
そこに伊達と須藤がヘリコプターで駆けつけた。
上空から拡声器を使って伊達が言う。
「無事か、桐生!」
「神宮京平!」
「今四課が逮捕状を請求した。」
「贈収賄、銃刀法違反、殺人教唆・・お前はもう終わりだ!」
神宮が言う。
「こうなった以上全員死んでもらう他無い!」
「覚悟はいいね?」
桐生は襲いかかってくるMIAと神宮を倒した。
桐生がアレスに戻ると由美と遥が出迎えてくれた。
そこに錦山がやってくる。
「終わったか。」
「これでようやく落ち着けるな。」
「何だそりゃ、爆弾か?」
「由美、馬鹿なことはやめろ。」
由美が言う。
「駄目よ。100億はあなたに渡さない。」
「由美、お前そんなに俺のことが憎いのか。」
「まあそうだろうな。当然の話しか。」
桐生が言う。
「錦、お前まだ諦めていないのか?」
「当たり前だ!」
「俺はどんな犠牲を払っても東城会の跡目になる。」
桐生が言う。
「なあ錦、それは無理だ。お前、神宮に踊らされていたんだ。」
「神宮の本当の目的はな・・」
「んな事ぁ分かってる!」
「分かってたんだよ、俺は。」
「言ったろ、桐生。」
「俺は10年前、お前を裏切ったあの日から誰も信用しちゃいねえってな!」
「神宮が俺に話を持って来たときから信用しちゃいなかったんだ。」
「俺は負けたくなかったんだよ。」
「俺はお前に負けたくなかったんだよ、桐生。」
「俺は由美を愛してる。」
「だが由美は一度も俺を振り向いてはくれなかった。」
「由美の中にはお前しかいなかった。」
「10年前の事件の後、俺の目の前からお前という存在が消えた。」
「その時俺は決意したんだ。」
「運命を変えるためにどんな犠牲も払うってな。」
「俺は100億を手に入れ東城会を継ぐ。」
「そしてお前から由美を奪い返す。」
「それで初めて俺の運命が変えられるんだ!」
由美が言う。
「錦山君、やっぱり分かってない。」
「そんな事して何になるの?」
「そうやって変えた運命じゃ幸せになんてなれない。」
「あなたは自分に都合の悪い事から逃げてるだけ。」
「本当に運命を変えたいなら辛いことも全て受け止めて、それでも逃げないで立ち向かう事なんじゃないの?」
「一馬や遥のように!」
「うるさい!」
「どうしてお前は俺を認めてくれないんだ!」
桐生が言う。
「錦、俺にはお前の苦しさが分かる。」
「俺は一番大切にしていたお前達を失った。」
「もう戻ろうと思っても10年前に戻ることは出来ねえ。」
「もうその運命から逃げる事は出来ない。」
「だから、決着をつけよう。」
「俺達の闘いに。」
桐生は錦山をコテンパンに叩きのめした。
「一馬!」
桐生に駆け寄り抱きつく由美。
桐生は錦山から取り戻した遥のペンダントを由美に渡した。
由美は鍵を取り出しペンダントを開く。
するとそこには桐生の写真が入っていた。
「ごめんね、私・・」
「あなたの事、ずっと忘れられなかったの。」
「記憶を取り戻した後も、こうしてあなたの事を。」
「私、弱い女だった。」
「記憶を失ってからも本当はあなたの事だけはうっすらと覚えていたの。」
「名前は思い出せない。」
「でもあなたの笑顔や仕草が浮かんでいた。」
「でも誰だか分からない。全てを思い出せない。」
「そんなあなたの事を待ち続ける事が出来なかった。」
「だから神宮の事を・・」
「でもね、遥は何もかも失った私にとってたったひとつの宝物だった。」
「だから遥とお別れに行った時、思わずこのペンダントをあげてしまったの。」
「私の一番大切なものを持っていて欲しかったから。」
「遥・・私のせいで怖い思いさせてごめんね。」
首を横に振る遥。
「一馬、私まだやらなきゃいけない事があるの。」
由美が柱の影にあるセンサーにペンダントをセットすると壁が横に開き、隠し部屋が現れた。
そこには100億円が現金で積まれていた。
「このお金はあってはならない。」
「だからもう消そうと思うの。」
由美が爆弾の起爆タイマーをセットして部屋を出ると神宮が再び現れた。
「桐生ぅ!」
桐生に向けて引き金を引く神宮。
遥が両手を広げて桐生の前に立ちふさがる。
その遥をさらに由美が庇う。
由美は神宮の凶弾を左下腹部に受け倒れ込んでしまった。
「由美ぃ!」
桐生が由美を抱きかかえる。
「しっかりしろ、大丈夫か!」
錦山が起き上がり、神宮の右下腹部をサバイバルナイフで刺す。
「こんな奴に好きにさせて・・たまるかよ。」
神宮にナイフを突き刺したまま100億が積まれた隠し部屋まで押し込む。
「最後のケジメくらい俺につけさせろや。」
神宮が持っていた拳銃を拾い上げた錦山は爆弾が入ったアタッシュケースに向かって発砲した。
ミレニアムタワーの最上階が大爆発し、神室町に100億円の雨が降った。
空から降り注ぐ100億円の雨に発狂する人々。
桐生達は物陰にいたおかげで助かったようだ。
「由美・・由美、しっかりしろ。」
「ごめんね、遥。」
「やっと・・お母さんって言ってもらえたのに。」
「由美、10年前・・いや、それよりずっと前から言えなくて済まなかった。」
「好きだった。お前の事が。」
桐生は以前由美にあげた指輪を取り出した。
「一馬、これ・・あなたが持っていてくれたの?」
桐生が言う。
「シンジが。シンジの奴が死ぬ前に錦から奪い返したんだ。」
「良かった。また返ってきた。」
「あなたが私にくれたたった一つのプレゼントだもんね。」
「ありがとうね。」
「私結局・・全てから逃げてたのかもしれない。」
「あなたからも。錦山君からも。」
「でもね、私・・後悔は無いの。」
「あなたを忘れないために、また記憶が無くなってしまっても思い出せるようにってこの刺青を入れたの。」
「月下美人。一夜でもいい。一目でもいいからもう一回・・一馬に会いたかった。」
「その夢が叶ったの。」
遥の方を見る由美。
「遥・・いい?」
「遥はどんな事があっても逃げちゃだめ。」
「逃げたら私みたいに幸せ逃しちゃうから。」
「いい?絶対に逃げちゃ・・だめ・・」
由美は絶命した。
「お母さぁん!」
泣き崩れる遥。
そこに警官達がやってきた。
「動くな!そのまま手を上げろ!」
「桐生一馬だな!」
「おい、やめろ!」
伊達と須藤がやってきた。
「事情は後で話す。お前等銃を下げろ。」
伊達が言う。
「桐生、お前は悪くねえ。」
「だがこのヤマで逮捕されたらもうシャバに出れん。」
「俺についてこい。」
桐生が言う。
「もういいんだ、伊達さん。」
「由美も錦も風間の親っさんももう皆いない。だから・・」
「ひと思いに逮捕してくれ。」
「ふざけるな!」
「お前の闘いはまだ終わってねえはずだ。」
「かけがえのねえものを守り続けろ!」
「逃げるんじゃねえ。」
「お前がムショに行けばこの子はまた一人だ。」
「お前、それでもいいのか?」
「伊達さん・・」
桐生と遥は伊達と一緒にその場を立ち去った。
数日後、東城会の屋敷から桐生が走って逃げてくる。
「会長!待って下さい!」
「おい桐生!こっちだ!」
伊達が待機していた車に乗り込む桐生。
「じゃあお前等、しっかりやれよ。」
伊達は急いで車を走らせた。
「ちゃんと終わったのかよ。」
「襲名式と引退式は。」
「ああ。義理は果たしたつもりだ。」
伊達が言う。
「しかし聞いたことねえよな。」
「組長の襲名披露と引退式が同時なんてよ。」
「で、五代目は誰にしたんだ?」
「まあ世良会長や親っさんに恥ずかしくねえ奴にしたよ。」
「意外な奴だよ。」
寺田が車で追いかけてきた。
追い抜きざまに桐生に挨拶して走り去っていく。
「おい、もしかして寺田が五代目なのか?」
「ああ。奴ならきっちり東城会を立て直すさ。」
神室町の劇場前で車を降りる桐生。
「じゃあ、行くぜ。」
「もう戻ってこないのか?」
桐生が言う。
「さあなぁ。」
「また伊達さんから呼ばれる事があれば来るかもしれないぜ。」
「そうか。だが残念ながらそれは無いと思うぜ。」
「俺は暫く子供と暮らしてみるよ。」
「今までになかった家庭ってのを楽しんで見るさ。」
桐生が言う。
「おう、じゃあなおさら俺が居ないほうがいいな。」
「ああ。もう胃が痛い毎日とはおさらばだよ。」
二人は力強く握手を交わした。
「じゃあな。」
「もう警察の世話になんじゃねえぞ。」
桐生が言う。
「大丈夫だ。あいつと一緒なんだからな。」
遥がニッコリと微笑みながら桐生の方に駆け寄ってきた。
「すまない。待たせちまったな。」
「おじさん、帰ろう。」
龍が如く-劇- 前髪天使 @maegami_tenshi
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