第六章 再会








―1996年 錦山組事務所―



妹・優子の位牌の前で割腹自殺をしようとしている錦山。

短刀を握りしめた直後、松重がやってくる。

「なんだ、いるんじゃねえか。」

「おう、組長さんよ。」

「またシノギ広げることになったからよ。」

「金、使わせてもらうぜ。」

「おいコラ!聞いてんのか?」

「こっちがせっかく動いてやるって言ってんだぞ?」

「てめえ、いい加減にしとけよ?」

「返事もできねえのか?ああ?」

「あのな、おめえはどこまでヘタレなんだよ。」

「ったく、まだツレの桐生のが根性あったぜ。」

「まあヤツがやっちまったことはマズイっちゃマズイとしても、桐生は・・」



錦山は持っていた短刀で松重の腹を刺した。

「誰がヘタレだって?」

「誰が桐生よりも根性がないんだって?」

短刀に力を込める。

「冥土の土産に教えてやる。」

「堂島組長殺ったのは・・この俺だ!」

「覚えとけ。」

松重は絶命した。



「一人殺すも二人殺すも同じじゃねえか。」

「そうだよ・・とっくに道は決まっていたんだ。」

「堂島を殺し、桐生を見捨てたあの時から・・」

「やってやるよ。」

「俺は必ず頂点に立ってやる。」

「そのためなら・・何人だろうがぶっ殺してやる!」



夜通し車を走らせる伊達。

遥は疲れて眠っている。

「そうだ桐生、お前の携帯。」

桐生に携帯を渡す。

「シンジから伝言が入ってる。聞いてみろ。」



桐生は留守番電話を再生した。

「シンジです。」

「さっき錦山組のもんから聞いたんですけど、兄貴の情報、錦の叔父貴に筒抜けみたいで。」

「そばに怪しい奴がいるはずです。お気をつけて。」



「伊達さん、花屋のところに行ってくれないか。」

桐生と伊達は花屋のところに向かった。

「おう、お前。無事だったのか!」

「どうした?」



桐生が言う。

「一つ頼みがある。」

「もっと早く気がつくべきだった。」

「歌彫のところに行った時、錦は俺宛に電話をかけてきた。」

「あいつには俺の動きが見えていたんだ。」

「それに水死体が美月あないならペンダントの秘密は誰から?」

「由美は失踪中。遥と錦山が接触した事もない。」

「なら・・」

「花屋、セレナの4日前の監視カメラの映像を見せてくれないか。」



監視カメラの映像を見る。

桐生と伊達がセレナを出た後、麗奈が電話を持った。

「今桐生ちゃんが出ていったわ。」

「なんか彫師の・・そう、歌彫。」

「ええ・・分かった。それじゃ。」



花屋が言う。

「お前がここに来る前、遥を捜して欲しいって女が来た。」

「この話、覚えてるか?」

「この女だ。」



桐生が言う。

「伊達さん、行こう。セレナへ。」



桐生と伊達がセレナに入るが麗奈の姿が見当たらない。

手紙が残されていた。

「桐生ちゃん。」

「このメモを見ていたらもう分かってるよね。」

「そう、錦山君に情報を流していたのは私。」

「本当にごめんなさい。」

「私、錦山君の事を愛していた。」

「彼に振り向いて欲しかった。」

「あの人が望むことは何でもしてあげたかった。」

「それがどんなにいけない事かは分かってたはずなのに。」

「ほんと馬鹿だよね。」

「でもあなた達に会って何が大切なのかを思い出した。」

「今更だけどね。」

「私は責任を取りに行こうと思う。」

「私なりの責任を。」



桐生の携帯電話が鳴った。

「シンジか?お前どうした?」



「麗奈さんです。兄貴を裏切っていたの・・」

「麗奈さん、セレナに錦山さん呼び出して撃とうとしたんです。」

「今俺と逃げてます。」

「ミレニアムタワー・・賽の河原が見えます。」



桐生が言う。

「シンジ、待ってろ。」

「直ぐに行く。それまで絶対に死ぬなよ!」



セレナに伊達と遥を置いて、桐生は一人でミレニアムタワー方面に向かった。

ミレニアムタワーの側のビルの屋上にいると連絡が入り、すぐに向かう。


シンジは錦山組の組員に左脇腹を撃たれてうずくまっていた。

「兄貴・・」



錦山組の組員の男が言う。

「桐生さん、邪魔しないでください。」

「これ以上あんたに組荒らされたくないんだ!」



「お前、シンジに銃向けて恥ずかしくないのか。」

「お前等の兄貴分だろ。」



錦山組の組員の男が言う。

「悪いのは田中の叔父貴です。」

「親に背ぇ向けて、組裏切って!」



「錦は東城会を裏切ってる。」

「本当の裏切り者はどっちだ?」



錦山組の組員の男が桐生に銃口を向ける。

「うるせえ!」

「俺達には親が絶対なんだ。」

「親殺しが口挟むんじゃねえ!」



「撃ちたきゃ撃てよ。」

組員の銃を握る手が震えている。

「シンジは撃てて俺は撃てねえのか?」



そこに東城会直系錦山組若中の荒瀬和人がやってくる。

「なにチンタラやってんだ、馬鹿野郎!」

左胸を撃ち抜かれ絶命している麗奈の死体を桐生の前に放り投げる。

「さっさと弾いて終わらせろや!」



桐生は怒り、天に向かって吠えた。

荒瀬率いる組員達をなぎ倒す桐生。



「兄貴・・すんません・・最後まで・・」

「風間の親っさんはアケミって女に預けました。」

「俺の・・女です・・」

「兄貴・・これを・・」

由美の指輪を取り出したシンジはそのまま絶命した。



「シンジ・・!」

「シンジィィィ!!」



花屋のところにシンジと麗奈の死体を運び込む。

「残念だったな、シンジと麗奈は。」



桐生が言う。

「ここ以外に頼れるところが無かったんだ。」



花屋が言う。

「分かってる。できる限り手厚く葬ろう。」



そこに伊達と遥がやってきたので風間の居場所を話した。

「アケミ?」



「そうだ。シンジは確かにそう言っていた。」



伊達が言う。

「しかしそんな名前の女、幾らでもいるぞ。」

「それだけじゃなあ・・」



花屋が言う。

「いや、そうでもねえ。」

「錦山組の田中の頭は実は風俗好きでな。」

「ここ何年か奴が通ってる店がある。」

「桃源郷ってソープだ。」

「そこのナンバーワンが確か・・アケミ。」

「ただしだ、そこは普通の店じゃあない。」

「ビル一軒丸々ソープになってるが、看板もねえしパッと見じゃそれと分からねえ。」

「しかも一回遊ぶのに100万はかかる。」

「現役のタレントやらモデルやらが働いているんだ。」

「選ばれた人間の遊び場さ。」



遥が聞く。

「おじさん、ソープってなに?」



「そのー、まあ・・風呂屋だ。」

「いや、サウナか?」



遥が更に聞く。

「銭湯ってこと?」



「いや、それとも少し違って、その・・」



戸惑う桐生に追い打ちをかける遥。

「おじさんは行ったことあるの?」



「ん?ああ・・」

「ま、いやぁ・・んー・・」



遥が笑っている。

「ウソ。私どんなとこか知ってるよ。」

「何日も歩いてたんだから。」



「こりゃあ一本取られたなあ。」



桐生は桃源郷の会員証を手に入れ、遥を連れて桃源郷に向かった。

「あのー、お客様。お子様連れはちょっと・・」



桐生が言う。

「社会見学の一環だ。大目に見てくれ。」



「申し訳ございませんが、他のお客様のご迷惑になりますので・・」



ロビーに置いてあった石像をパンチで粉々に砕く桐生。

「絶対に迷惑はかけない。」

「いいよな?」



「かしこまりました・・」

「では当店のご案内をさせて頂きます。」

「女の子達は空室の札が立った部屋におりますのでご注意下さい。」

「ではごゆっくり。」



ビルの中の部屋でアケミを見つけた。

「いらっしゃいませ。」

「アケミです。」



「桐生だ。」

「シンジから聞いてないか?」



アケミが言う。

「桐生・・?あなたが?」

「それじゃ・・シンちゃんはもう・・」

「そう・・」

「最後に会った時、彼言ってたの。」

「自分にもしものことがあったらあなたが訪ねてくるかもしれないって。」

「いつもふざけてたあの人が急に真剣な顔してね。」

「そっか・・」

「シンちゃん死んじゃったんだ。」

「おかしいと思った。」

「だってね、あの人急に今やってることが片付いたら結婚しようなんて言ってさ。」

タバコに火を付けるアケミ。

「風間さんね・・」

「確かにここにいたんだけど、シンちゃんの知り合いが来て連れて行っちゃったの。」

「近江連合の寺田さん。」



桐生が驚く。

「近江連合?そいつは本当にシンジの知り合いなのか?」



「うん。シンちゃんは信頼してた。だから私も・・」

「場所は芝浦よ。」

「埠頭に止めた船に連れて行くって言ってたわ。」

「それともう一つ。」

「シンちゃんこう言ってたわ。」

「錦山組は100億の他に世良会長の遺言状を探している。」

「それに次の四代目が指名されているんだって。」

「シンちゃんはそう言ってたわ。」



「遺言状・・そんなものが・・」

「それじゃあ錦はそいつを握りつぶそうと・・」



その時、真島が運転するトラックが桃源郷のビルに突っ込んだ。

「イイ音聞かせろや!」

ゴォォン!!!



真島が乗り込んでくる。

「よう、桐生チャン!捜したでぇ。」

「この間の続きや。ココで決着つけようやないの。」

「桐生チャンよぉお!」



桐生は襲いかかってくる真島を倒した。

「桐生・・ホンマ・・ゴツイわ。」

「お前・・は・・」

真島は気を失った。



アケミを賽の河原に連れていき、花屋からシンジの遺骨を手渡した。

その様子を見ている伊達が言う。

「あの女がアケミか。」

「辛いだろうな・・」



「伊達さん、風間の親っさんの居場所が分かった。」

「芝浦の埠頭だ。」

「近江連合の寺田って男がかくまっているらしい。」

「なんで近江連合なのか分からんが、シンジが命がけで親っさんを預けた相手だ。」

「信じるだけの価値はある。」



伊達が言う。

「桐生、MIAが・・神谷が目立って動き始めている。」

「さっき本庁に呼ばれてお前の事、根掘り葉掘り聞かれた。」

「恐らく神宮から圧力がかかったんだ。」

「クビになってもおかしくねえのに奴等、俺がお前とつるんでる内はクビにできねえんだよ。」

「行くんだろ、桐生。芝浦に。」



「ああ。」

桐生は遥を連れて芝浦埠頭に向かった。



停泊してある船の中に入ると五代目近江連合の寺田がいた。

「五代目近江連合の寺田と申します。」

「桐生さんと同じく、俺も風間さんには返しきれない恩が。」

「風間さんがお待ちです。」

「こちらへ。」



奥の船室に入ると風間がいた。

「よく来たな、一馬。」

「すまなかった。苦労をかけたな。」

「あの寺田って男はもともと俺と同じ元ヒットマンだ。」

「近江連合本部長の肩書で東城会に探りを入れてもらってた。」

「特に錦山をな。」

「なあ一馬、これからこの10年間に隠された全てを話す。」

「いいな?」

「その子の母親の美月は・・由美の妹じゃない。」

「由美は・・由美は美月なんだ。」

「お前達が美月だと思って捜してた女は由美だったんだ。」

「美月は5年前から由美が演じ続けた姿なんだ。」

「その子の母親は、由美だ。」

「その子は正真正銘、由美の子なんだ。」


遥が驚く。

「由美お姉ちゃんが・・私のお母さん。」



「由美の相手、その子の父親は神宮京平だ。」

「9年前の写真だ。」

「由美が抱きかかえているのは遥。」

「横に写っているのが神宮だ。」

「由美が事件のショックで記憶を失ったことは知ってるな?」

「事件の翌日、由美は何も分からないまま病院を飛び出した。」

「だがあの子の身体は覚えていたんだよ。」

「自分が生まれ育ったヒマワリの場所をな。」

「俺は連絡を受け、すぐに由美を手元に引き取ったんだ。」

「そしてあの子の記憶を戻してやろうとした。」

「何枚もの写真を見せた。」

「錦山の写真を見た由美は激しく動揺した。」

「俺はその時分かったんだ。」

「堂島組長を殺したのが本当は誰だったのかをな。」

「そして錦山には由美の存在を知らせず、彼女の世話をすることにしたんだ。」

「神宮は世良と深い繋がりがあって、よく東城会に出入りしていた。」

「その時偶然由美に出会ったんだ。」

「政界を目指す神宮は世良から裏でバックアップを受けていたんだ。」

「神宮は由美に出会い、恋をした。」

「そして記憶を失っていた由美は、心の隙間に入ってきた神宮を受け入れた。」

「俺は止めることが出来なかった。」

「もし神宮と幸せな生活が送れるなら極道社会とは縁が切れるかもしれない。」

「運命を変えられる転機なのかもしれない。」

「そう考えると由美の幸せは神宮との生活の中にあるような気がしたんだ。」

「そして由美は神宮の子を産んだ。」

「それが遥だ。」

「だが神宮の元に総理の娘との縁談が舞い込み、その時籍を入れてなかった由美は自ら身を引いた。」

「神宮のためを思ってな。」

「だがそれが歯車を大きく狂わせていったんだ。」

「所詮神宮が手に入れた権力は他人から与えられたものだ。」

「だが奴はそれを守るために少しずつ変わっていった。」

「自分の中では正当化しながら。」

「その後由美と遥は俺がまた面倒を見ていた。」

「そしてある日、世良に神宮から緊急の電話が入ったんだ。」

「死体をひとつ始末してほしいと。」

「神宮ははずみで起こった事故だと言い張ったそうだ。」

「死体はフリーの記者で神宮のスキャンダル・・由美と遥の件で強請ろうとしてきたらしい。」

「世良は記者の家からメモや写真を奪い、全て灰にした。」

「だが神宮にとって、まだこの事件は終わってなかったんだ。」

「神宮は世良に由美と遥を殺すように依頼した。」

「幸か不幸か・・世良が放ったヒットマンに銃口を向けられた由美は、その時全ての記憶を取り戻したんだよ。」

「俺は由美と遥を間一髪で助けることができた。」

「その後俺は世良を説得し、由美と遥を神宮の目から欺く工作をした。」

「俺と世良は遥をヒマワリに入れ、由美を美月へと変身させた。」

「ニンベン師・・偽造屋を雇い由美の顔を変え、架空の戸籍や記録を創り上げてな。」



桐生が言う。

「でも親っさん、何で由美は東城会の100億を盗んだんですか?」



「あれは東城会の金じゃない。」

「神宮の100億だったんだ。」



その時、寺田が駆け込んできた。

「風間さん、嶋野組の連中が!」

「ここはやばいです!」



ドゴォォン!

嶋野組の組員達が手榴弾を船に投げ込んでいる。

「嶋野め・・無茶しやがる・・」



桐生達が船外へ避難したところに嶋野が現れる。

「はっはっは!」

「やっと会えたなあ、桐生!」

「それと・・風間!」

「コソコソしやがって。」

「寺田はん、あんた・・」

「錦山裏切ってワシにつくフリみせてたけどなぁ。」

「そんなん裏の裏まで全部お見通しや。」

「ずっと見張らしてもろてましたわ。」

「お前等といい錦山といい、ホンマ脇が甘いわ。」

「ガキはもらってくでぇ。」

「お前等はここで終いやけどなあ。」



風間が言う。

「嶋野よ。お前さんも相当脇が甘いぜ。」

柏木がトラックを横付けし、トラックの中から風間組の組員達が降りてくる。

「遅いぞ、柏木。」



柏木が言う。

「へへ。もうすぐクリスマスですしね。」

「屈強なプレゼントをお持ちしましたよ。」

「桐生、ずいぶん苦労したみてぇだな。」



嶋野が言う。

「フフ、何や?」

「風間組はやる気みたいやなあ。」

「よっしゃあ!」

「血の雨降らしたるわ!」



桐生は襲いかかってくる嶋野を倒した。

「これまでだ、嶋野。」



嶋野はそばに落ちていた手榴弾を風間と遥に投げつけた。

寺田が嶋野を撃ち、嶋野は絶命する。

風間は遥を庇って手榴弾の爆発をもろに受けてしまった。

「一馬・・遥は無事だぜ・・」

「100億の話を・・」

「一馬・・金を盗んだのは・・由美と俺と世良なんだ・・」

「100億は神宮の金だ・・」

「奴は・・東城会を使って闇の金を洗ってた。」

「マネーロンダリングだ・・」

「俺は奴を失脚させるために、その100億を・・」

「そして由美は・・その計画に志願したんだ。」

「アレスに急げ、一馬。」

「由美が危ねえ・・」

「それから・・これは三代目の・・遺言状だ。」

「世良が神宮と手を切るには奴が裏でためこんだ100億を取り上げて失脚させるしかなかったんだ。」

「命の危険を悟った世良は遺言状を俺に託した。」

「しかし遺言状には後継者の名前が書かれていなかった。」

「世良はこう言った。自分は東城会を仕切る器じゃない。跡目は俺が決めてくれと。」

「東城会の、極道の未来を託せる男をと・・」

「東城会の・・未来がここにある。」

風間は桐生に遺言状を託した。

「一馬・・俺はお前に・・謝らなきゃならない事がある。」

「許してくれ、一馬・・」

「お前の・・肉親を殺したのは・・俺なんだ。」

「ヒマワリは・・俺が肉親を殺した子供のための施設・・」



桐生が泣きながら言う。

「いいんだ。いいんだ親っさん。」

「俺にとっちゃ・・親っさんが本当の・・親父でした!」

風間は絶命した。

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