第659話 大会ルールはこちらです
「あー……生き返るー……」
「うん、気持ちいいね」
身体を動かす度に揺れる湯が心地よさを運び、全身に感じる温もりが冷えた身体と溜まった疲労を癒していく。
ザッと身体を流してから俺が先に浴槽に入り、開いた両足の間にだいが座る。いわゆるバックハグみたいな体勢で、俺たちは命の洗濯を行っていた。
目の前には濡れて艶っぽいだいの黒髪が広がり、少し目を落とせば透き通るような白い肌。そして両腕を前に回せば否が応でも世界一幸せな感触を与える二山が手に触れる。
正直こればかりは何度経験しても毎回幸せを感じてしまうのだが、誰も俺を責められたりはしないだろう。
だって幸せなんだもん。
あ、でも今二山の先端は触れない。だって触ると怒られるから、たぶん。なんたってそこは大人のスイッチを入れるとこだから。
だから今はね、下から手を当ててその柔らかさを堪能するに抑えとこう。
なんて、なんかもうずっとこのままでいたいなぁ、なんて気持ちを持っていると、目の前の頭が少し動いて、頭頂部が俺に近づくと——
「亜衣菜さん合宿って言ってたし、ご飯いっぱい作った方がいいのかな?」
「いや高校生の部活かっ」
こちらへ振り返ることもなく、俺の腕に抱かれながら少し天井を見上げてポツリとだいが尋ねてきて、俺はそのど天然過ぎる言葉に直前までの穏やかな気持ちをひっくり返してツッコんだ。
「でもちゃんと食べないと頑張れないよ?」
「それはそうだけど、よく食ってよく眠れとか、そういう合宿じゃねーだろ」
「でも夜にお腹空いたりしたらちゃんと休めないし——」
「お母さんかっ。みんな大人なんだからその辺は自己管理するだろっ」
「でも亜衣菜さん来るんだよ?」
「た、たしかにあいつはちょっと否定出来ないけど……」
だが、本心からの発言としてかましてくるだい相手に俺は飯トレなんかいらんのだと伝えていくも、まさかのだいが亜衣菜という手札をドローしたことで、結果的に俺が言葉を詰まらせた。
脳裏に浮かぶ昼過ぎの電話。
……うん、あのアホさだもんな。夜に「お腹空いたー」って突然言い出す可能性もなくはない。
……お菓子とかアイスとか、ちょっと色々買い足しとこ。
いや、なんで何だかんだ最年長のはずの亜衣菜を最も子供扱いで想定せにゃならんのだ?
……いや、亜衣菜だからか。
うん、分かってた。
そう自問自答が終わったから、俺はこつんと目の前の頭にとんと額を当て、「はぁ」と小さくため息をつく。
「しかし、チャレンジが一日一回までとは思わなかったなー」
そしてちょっとの間を置いて、俺は話を変えるべく、今日帰り道で見た公式サイトに載っていた大会の情報を話し出す。
脈絡なんかないのは分かってるが、だいは今日一日休みだったわけだから、当然この話を知らないはずがない。
そんな確信の中での提案だったのだが——
「でも5回挑めるなら、4回も練習出来るじゃない?」
予想通りだいにはちゃんと伝わって、これもある種予想通りに楽観的な答えが返ってきたから——
「やー……公式に出てた『挑め冒険者たち!』って画像さ、全武器持ってるキャラいたじゃん? つまりこれ予選で戦うNPCチームの武器設定、ランダムってことなんじゃねーかな?」
「ふむ。そうなると運の要素もあるのかな?」
「そんな気はするなー……完全ランダムだと確率で後衛ばっかとかなっちゃうから、タンクと前衛後衛とかそんなバランスは保ってくるだろうけど、敵に銃とか弓がいる時と、斧と大剣の時とか怖さ段違いだぜ?」
俺はそんな甘くないかもしれないぞ、って話を進めてみる。
ちなみに公式サイトに載っていた情報は以下の通り。
・各プレイヤー、大会エントリーは1チーム1種目でのみ可能であること
・PvP大会でのサーバー内決勝トーナメントに参加するには、12月9日(水)から13日(日)の間に開催されるNPCとの予選バトルに勝ち抜く必要があり、この予選バトルは各日付中1日1回のみ挑めるということ
・予選を勝ち上がると12月19日(土)12時からサーバー内決勝トーナメントが始まり、この日はベスト8が決まるまで試合が行われること
・ベスト8に残ると12月20日(日)の12時からの準々決勝以降の戦いに参加出来ること
・試合形式は予選が殲滅戦、19日のトーナメントは10分制で、制限時間が来たら各チームの残HP総量の多い方が勝利となり、20日のトーナメントは15分制になること
・サーバー内トーナメントで優勝すると、26日(土)12時から各サーバー優勝チームによる試合時間20分のトーナメントに参加できること
・26日のトーナメントで勝ち上がり決勝までいくと、27日(日)12時から殲滅戦制の決勝戦が行われること
・各サーバーのベスト8以降の戦いは特設サイトで動画配信されること
なんというか、ルール云々別にして年末前の土日を完全にLAに捧げることになる「リア充なにそれ美味しいの?」的日程設定だが、この日程は俺とだいからすれば無問題。
むしろ平日じゃなくてよかったぜ、って感じである。俺たちLA愛好カップルからすれば、この大会の優先度合いは高いからね。こればかりは「クリスマスが〜」とか、そんな浮ついたことは言ってられないわけである。……いや、まぁクリスマスは一緒に過ごすつもりだけど。
と、俺が邪念と共に今日見たサイトの情報を脳内で振り返っていると——
「銃が相手にいたら怖い?」
「……は?」
俺のさっきの言葉への返事だろう。
表情は見えないが、声の様子的におそらくちょっと冗談めいた顔をしてそうなだいが俺に問う。
斧・大剣より銃が怖いかって?
馬鹿にしよって。
「俺以外のガンナーなんか恐るるに足らずだよ」
この明らかなガンナーに対する挑発に、俺は力強くハッキリと、怖いわけねーだろとビッグマウスを叩いてやる。
というか元々の発言が《脅威度:銃・弓<<<<<斧・大剣》で話してるのだ。だいもだいで分かってるくせに、そう思っていたのだが——
「亜衣菜さんも?」
だいは変わらぬ口調のまま、力強く決めた俺に対して俺が一目置く実名を出してきて——
「え、あー……まぁ、亜衣菜は……そこそこ恐るるに足る、かな」
「ふふ。恐るるに足るって初めて聞いた」
「おいこらっ」
「あははっ」
俺が歯切れ悪くリアクションすると、これ見よがしにだいが揚げ足を取ってきたから、俺は仕返しとばかりに両手近くにあった二山を下からガッと掴んで反撃する。
しかしその大きさ故(?)かどうやら効果はないようで、だいは楽しそうに笑っていた。
「初手でガンナーとかアーチャーいたら初日から予選突破だわ」
「そうなれるように頑張らないとね」
そして結局はひとしきりだいとの
オフ会から始まるワンダフルライフ 人生を彩るのはオンラインゲーム!? 佐藤哲太 @noraneko0919
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