旧交

定食亭定吉

1

 洋太。高校一年。最寄りA駅に帰ってきた。高校へ電車通学している彼。急に夕立が降る。自宅から徒歩十分ぐらいかかるが、覚悟して行く事にした。

「あらっ、洋太ちゃん!」

どこかで聞いた事ある、甘ったるい声。

「ごめんなさい。どちら様です?」

記憶をロード出来ない洋太。

「ごめんなさい。新山拓矢の母親、典子よ」

「失礼しました!お久しぶりで」

ペコンと頭を下げる洋太。

「良かったら、ちょうど雨だし、寄って行きなさいよ!」

「はい。それではお願いします」

一瞬ためらったが、お邪魔するようにした洋太。

「さあさあ」

まるで幼児を相手にするような典子。

「お邪魔します!」

靴を揃えて玄関を上がる。下駄箱上には、拓矢の幼少期から小学生ぐらいまでの写真が並んでいる。

「拓矢もそろそろ帰宅すると思うから、リビングで待っていて」

「わかりました」

典子に言われる通り、リビングで待つ洋太。この家も五年ぶりぐらいの来訪。その時は小学校六年ぐらいと記憶している。リビングの様子も懐かしく、当時とそんな変化していない気がした。

「お腹空いたでしょう?」

典子はダイニングキッチン越しに言う。

「そうですね」

「あらっ、何か食べる?」

「平気です」

「あのね。相手に甘えるのもマナーよ。あっ、ごめんね!」

つい説教くさくなる典子。

「ありがとうございます!では何かお願いします❗」

 しばらくして、ホットケーキとミルクが二人分、出される。

「はい、どうぞ!拓矢、間もなく帰るみたいだから」

「わかりました。ありがとうございます」

「ただいま」

「あれっ、洋太?」

「おー、拓矢」

二人は抱き締めあう。その光景を見て微笑む典子だが、リアクションには困る。

「さあ、二人共、食べなさい!」

典子は言った。

「その前に手洗い、うがいだ」

「うん」

律儀に励行する二人。それらを終え、リビングに戻る。

「では、改めて頂きます」

合掌のハミング。

「そういえば、何でここに来たの?」

「いや、夕立が降って、おばさんが寄って行きなと言ってくれて」

「疎遠になっていたな俺ら。いや、お前の事、避けていたわけでないよ」

洋太の顔を伺うような拓矢。

「そんな事わかるよ。中学校からは互いに違う進路だし」

「まだ時間ある?」

時計を見ながら話す洋太。

「あー。昔みたいに家庭教師を付けてないし。一日ぐらいだったらさ」

「そうか」

目が合う二人。食べ終えて、キッチンに皿を持ち込む二人。

「ご馳走様です。ありがとうございます!」

典子に礼を言う洋太。

「いいえ。皿、そこに置いておいて」

「いいよ。、高校生だから自分で洗うよ」

拓矢は変に大人ぶる。

「普段、やらないのに」

典子はチクリと言う。

「俺に格好つけたいの?」

「違うよ!」

 今日の夕立は、雨降って地固まるようだった。

「よしっ、皿洗ったら何しよう?」

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旧交 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi

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