Q.この小説が数学的に正しいことであると証明せよ。
ちびまるフォイ
弟「やっぱり兄には追いつけなかったよ……」
「2つの三角形が合同であることを求めよ」
「は? 何様だよ」
「2つの三角形が合同であることを求めましょう」
「それが人にものを頼む態度か」
「2つの三角形が合同であることを求めてください、お願いします。
これがわからないと家族が飢えてしまうんです」
「拒否する。そもそも合同であることを求めろってことは、
すでに合同であることの確証があるんだろ? お前がやったほうが早い」
「ヒント:辺ABと辺CDは同じ長さ」
「ちょっとデレんな。やらないから」
「なにさ! じゃあどうすれば解いてくれるの!!」
「逆ギレかよ」
「こっちが下手に出ていれば偉そうに!!
ヒントまであげても解かないなんて信じられない!」
「合同と証明してやって、だからどうなるっていうんだよ。
"ふーん"で終わるだけだろ。時間の無駄だ」
「あなたの論理的な学習を助けるのよ!! あなたのためよ!」
「バカ言え。こうして俺を説得できてない時点で、
お前の論理能力は俺より劣っているに決まってる。
理路整然と反論してみろ」
「なにもめてるんだ?」
「あなたは! "先に家を出た兄"さん!!」
「 弟 は あ と か ら 来 る 」
先に家を出た兄は事情を聞いて納得した。
「なるほどな。君は数学をこの先も使わないと思っているのか」
「いえそんなことは言っていません。俺はただ……」
「それなら、これから家を出る弟が私に追いつく時間を計算できるかね。
君は単に自分の学習しない理由を問題に責任転嫁しているだけじゃないか」
「あ? もしもし? "遅れて家を出た弟"さんですか?
今どのあたりですか?」
『あーーいま、駅の近くです。あと3分くらいでそっちにつくと思います』
「3分後です」
「やめろぉぉ!! そういう方法で算出するなぁぁ!!」
「正確な時刻を割り出す必要性になんの意味があるんですか。
弟が到着したときに"1分20秒の遅刻だね"とか言うんですか」
「おのれ、先人たちの公式を冒涜してくれやがって……。
おい! 点Pをもってこい!!!」
「離せ! いったいなにを……!?」
「ふふふ。動けまい。今、お前が立っている場所は点Pの上だ。
私が一度スイッチを押せば、点Pは長方形の辺を高速で動き続けるだろう」
「なんで点Pなんだ!! 点Aでもなく、点Zでもなく! なんで点Pなんだーー!!」
「やかましい! 点Pの響きの良さもわからない数学反逆者め!!」
点Pのスイッチを押すと、一定の速度で長方形の辺をぐるぐる動き始めた。
「どうだ! 目が回るだろう!? さらに点Qも追加ァ!!」
「や、やめろぉぉーー!!」
「点Pと点Qの間で面積が変動する三角形ができているぞ!!
さあ、目がチカチカしてきたところかな!?」
「止めてくれ! 点Pを止めてくれーー!!」
「ならば誓え!! もう問題になんの疑問も挟まないと!!」
「誓う!! 誓います! あらゆる問題文に不備はありません!」
「もっと数学の問題文ぽく!!」
「数学の問題文に対して疑問の余地を挟む必要はない。証明終わり」
「よし!! 止めてやる!!」
点Pは徐々にスピードを落としてついに長方形の角で止まった。
何度も周回したことで長方形の辺は摩擦熱でぶすぶすと煙をあげている。
「はぁ……はぁ……やっと止まった……体が因数分解されるかと思った……」
「数学の正しさを理解したようだな。一応テストしてみよう」
先に家を出た兄の目が光る。
「袋に赤と白のボールを入れて、それを取り出すことに問題はないな!?」
「はい!! 問題ありません!!
誰だって袋に入れたボールがどれだけの確率で出てくるのか気になります!」
「池の周りを走っている二人がお互いに合流する時刻は知りたいか!!」
「はい! 知りたいです!!
時刻を知ることで池を走っている最中でも必ず出会えると信じられるからです!」
「自分の財布に入っている小遣いが今何円なのかを
買い物が終わった後、計算するまで把握できないのは問題ないな!!」
「はい! 問題ありません!!
レシートをすぐに捨てるタイプだったりお金に無頓着な人もいます!!」
「ようし、しっかりと数学のすばらしさを論理的に理解できたようだな。
それじゃ最後にこの2つの三角形が合同であることを証明するんだ」
先に家を出た兄は問題をつきつけた。
「あの、どうして紙に手書きで回答なんですか?
タブレットでやるのじゃダメなんですか?
答えも自動で正誤判定じゃダメなんですか?
どうして全部書いて提出するまで答えがわからないんですか?」
「……おい、こいつをもう一度点Pに縛り付けろ。
今度はもう何の疑問も持たないくらい速度を上げておくんだ」
Q.この小説が数学的に正しいことであると証明せよ。 ちびまるフォイ @firestorage
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