作品は、見えない水脈を通して密かにつながる

すべてを挙げるわけにはいきませんが、とにかく「似ている」ものたちがたくさん出てくるお話です。最初はある若い彫刻家の作品が、見ず知らずの女性とよく似ていることからスタートします。そのつながりは読み進めるにしたがって徐々に広く、豊かに伸びていき、物語的な興味を誘います。
それらのつながりは、最終的にはひとつのルーツにたどり着きます。でも、そのルーツ自体は実はそれほど重要ではないように思います。そうではなくて、その水脈を通すことでいくつかの芸術作品や文化様式に、密かなリンクが生まれていること。そのことを可視化していることこそが、この物語が伝えたいことなのではないかと、勝手にそう思いました。
あらゆる作品は影響し・影響されの複雑なリンクのもとにあります。それがわかりやすい場合もあれば、誰にも気づかれないつながりだってあるはずです。見えない水脈としてのつながりを、遠い遺伝子的なつながりというか細い糸を持ち出すことによって、そっと伝える。そんなことを思いました。

芸術家のつながりでいえば、作中の長内と杉というふたりの芸術家同士のスパークもまた、とても印象深かったです。長内が筆を折ってでも求めた行動は、心にずっしりとくるものがあります。影響し・影響されの複雑なリンクはいろいろな結果を生むんだなと、考えさせられます。