【イベント2】舞踏会イベントその後と、深夜のお部屋訪問イベント

「なにしてるギョリュ! あれは王子攻略には欠かせないイベントだったギョリュに!」


 自室の窓を開け放ち、そこの手すりにもたれかかりながら新しい煙草に火をつけてふかしていたら、後ろから抗議の声が浴びせかけられた。

 ギョリュギョリュうるさいなぁ。


「だからイベントには参加してあげたでしょーが面倒臭いなぁ」

 変な語尾で抗議の声を放つソレを横目で一瞥いちべつ

 そこには、バレーボール大の白茄子にツブラな目口がくっついた不可解な生き物が、不可思議な力で空中を漂っていた。


「これじゃあイベントをギョリュ! 成功させて初めて意味があるんだギョリュ!」

 ナビキャラ兼マスコットの──白茄子エッグプラントの妖精──エグプが、体の側面についてる短い腕をパタパタさせて猛烈抗議する。

 アタシはウンザリして、また窓の外へと顔を向けて、タバコを深く吸い込んで白い煙をはぁーっと吐き出した。

「今更、アタシに恋愛イベントのイロハはいらん。こちとらPCゲーム時代から乙女ゲーやってんだコラ。釈迦に説法じゃボケ」

「乙女ゲームの主人公は! そんな汚い言葉は使わないギョリュ! そんな疲れたオッサンみたいに煙草吸わないギョリュ!」

 白茄子エグプがアタシの肩にのし掛かってきて、耳元で猛抗議する。

 ウザい!


 タバコを灰皿に放り込み、肩に乗った白茄子ソレを腕で叩き落としてやった。ボインと床でバウンドしてそのまま転がる白茄子エグプ

 私は振り返って、転がるソレを憎々しげに睨みつけた。

「だから私には無理だって最初に言ったじゃん! アタシャもう35! 学園で浮きまくりじゃボケ! どの生徒の親御さん? だろがィ! なんで私が学生なんだよ! 無理があるだろ設定にィ!」

「そ……そんな事ないギョリュ……

 お前はこのディザイア学園の転校生にして、異世界から召喚されてきた聖女だギョリュ!

 ピッチピチの15歳だギョリュ! 設定上は!」

「だからァ! ホントに現実世界からゲーム世界に転移してきたんだから姿形は変わってねェだろうがよ! どっからどう見ても疲れたOLだろ?!

 第一、ディザイア欲望学園って名前何?! 普通乙女ゲームからもっとキラキラした名前つけろや! 不穏過ぎんだろその名前!

 それにっ!! こちとらもうアラサーの範疇からも逸脱したんだよ! こっからはアラフォーじゃ! 無理過ぎんだろ15歳はさァ!」

 なんとかまた空中に浮遊しはじめた白茄子エグプを鷲掴んで、グイッと顔を寄せた。

 しかし、白茄子エグプも負けじとアタシを睨み返してくる。

「お前がそんなゲームに手を出したのが悪いギョリュ! 仕方ないギョリュ! 主人公の設定年齢が15歳だギョリュ! 中身がどうであれ15歳だギョリュ!」

「中身どころかまんまだろ?! この白髪と小皺が見えないんか?! アァ?! 言わせんなっ!!」

「み……見えないギョリュ……」

「嘘コケ白茄子! こっちに澄んだ目を真っ直ぐ向けてもっかい言ってみろ!」

「……か、勘弁して欲しいギョリュ……」

 白茄子エグプはアタシから視線を逸らして、あらぬ方向を頑張って見ていた。


「と……兎に角。元の世界に戻るには、誰かしらを攻略して『元の世界に戻るエンド』に辿り着かないと帰れないギョリュよ」

 アタシに、顔(体?)を横に限界まで引っ張られて楕円になりつつ、白茄子エグプがそう告げる。

 その言葉に、アタシは眉間に簡単には消えない深いシワを刻んだ。

「それ以外にないワケ? 本当に?」

「本当ギョリュ……」

「一回り以上下のまだケツの青いガキどもに上から目線で口説かれても鳥肌モンじゃ。しかもこっちを年下の『何も知らない女の子』として扱うんだよ気持ち悪い」

「……いくつになっても女の子として扱われるのが乙女の夢じゃないのかギョリュ」

「人によるだろ、そんなの。少なくともアタシには無理。人類平等。男女関係に上下などない。……いや、あるにはあるか。いやでも私はどっちかというと上の方が──」

「15歳の乙女は下ネタ厳禁だギョリュ!!」

「設定上は、だろ?! 事実35なんだよ現実を見ろ!」

「ゲームは設定至上主義だギョリュ!」

「そんな無駄な縛り壊しちまえ!!」

「簡単に言うなギョリュ!」

「メタいナビキャラならそれぐらい──」


 コンコン。


 不毛な言い争いをしていたアタシと白茄子エグプを止めたのは、部屋のドアがノックされた音だった。


「何?」

 アタシは白茄子エグプから手を離して、扉へとそっと近寄る。そっと耳を当てて外の音を伺った。

「多分、王子舞踏会イベントをキャンセルしたから、それを契機にした次のイベントが発生したんだギョリュ。

 そこに立つのは──」

 ナビキャラらしく解説を始めた白茄子エグプの言葉をよく聞こうと、そちらへと視線を向けた瞬間。

 寄り掛かっていた扉がガバリと開かれ、重心を崩して倒れかかる。


「おっと」

 そんな声を発しつつ、倒れかかるアタシの身体を受け止めようと腕を広げたのは──

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