乙女ゲームの中に転移してしまったんだけど、普通に嫌なのですぐ帰りたい。

牧野 麻也

【イベント1】舞踏会イベント

「記念に一曲、俺と踊って頂けませんか?」


 目の前に立つのは、サラサラな金髪とキラキラと輝く碧眼。豪奢な服はどこかヨーロッパ系の国の正装軍服のよう。

 年の頃は十代後半。恐ろしく整った顔にうっすらと微笑みを称え、私に白い手袋をした右手を差し出してきていた。


 周りの視線が一気に私へと集まる。

 そりゃそうか。

 彼は確か、王太子だか皇太子だかいう、この国で途轍も無く高い位置におり、将来この国を背負って立つ立場になるとかならないとか。


 その彼から、舞踏会会場で直接声をかけられダンスに誘われる。


 この場合、どうすべきか。

 このの正解は?


 アタシは、もたれかかっていたテラスの手すりから身体を離し、自分の右手──に持ったタバコを床に投げ捨て爪先で踏み消す。


 そして


「おとといおいで、坊や」


 そうハッキリくっきりと告げてから、その場を後にした。

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