【イベント3】深夜のお部屋訪問イベントその後と、隠しイベント

 その姿を確認せず、アタシは身体を捻って目の前にいた人間をかわす。

 お陰で床に変な向きで倒れ込んだけれど、手をついてすぐに体勢を整えた。


「……普通、そこは大人しく抱きとめられるものじゃないのかギョリュ……?」

 白茄子エグプが呆れた声でそうツッコミを入れてきた。

「このゲームの男たち、許可なくベタベタ触ってくっから嫌なんだよ」

 私は膝の汚れをパタパタ叩いて立ち上がった。


 その様子を、アタシの身体を受け止めようと腕を広げた形のまま固まった男が呆然とした顔で見ていた。

 長い銀髪を緩く結んで肩口に流した、褐色垂れ目のなんかチャラそうな男。確か、20歳ぐらいだとか白茄子エグプが言ってたっけ。

「え……えと。大丈夫?」

 目的を失った腕を下げつつ、微妙に困った笑顔でアタシの事を見てきたので

「大丈夫です。お気遣いなく。それでは」

 バタン。

 扉を閉めて、アタシは何事もなかったかのように部屋に戻ってタバコに再度火をつけた。


「何してるギョリュ! 大商人の息子とのイベントだギョリュよ?! 王子がダメなら次ギョリュ!」

「アイツも嫌。だってアタシの事、子猫ちゃんとか呼ぶんだもん気持ち悪い」

 アタシはまた窓の方へと歩いて行き、外へと煙を吐き出した。

 そんなアタシの背中に、不満をぶつけてくる白茄子エグプ

「男に対してのハードル高すぎやしないかギョリュ?!」

「高くない! アタシは! アタシを! 普通に扱う男が好きなの! 15歳の処女として扱われたり! 子猫ちゃんとか呼ばれんの無理過ぎ!」

「処女とか叫ぶなギョリュ! 例えお前がどんな阿婆擦あばずれだとしても、召喚されたのは清らかなる聖女様だギョリュ! なりきるんだギョリュ!」

阿婆擦あばずれとか言うな! 普通に男性経験ある普通の健康な35歳じゃ!」

「お前の本体はこの際関係ないギョリュ! お前は乙女ゲー玄人なんだギョリュ?! 自分と切り離すギョリュ! お前はもう清らかなる聖女様だギョリュ! 現実には目をつぶれギョリュ!」

「ゲームならな! モニタ挟んだ向こう側ならな!! 自分の姿が15歳ならなっ!!!

 今は35歳! しかも現実の自分のまま!! 鏡見たら、会社ではおつぼね様的立場になってきた疲れたOLがこんにちはしてんだよ! 等身大で乙女ゲームは体験するモンじゃねぇな全くよ!!」


 コンコン。

「あのー……声、外に筒抜けなんだけど──」

「うるさい! 帰れ!!」

 扉の外からおずおすとかけられた声に、怒声を返して黙らせた。


「じゃあ、お前は誰ならいいギョリュか?!」

 アタシが手にしたタバコを奪い取って灰皿に投げ捨て、白茄子エグプが顔を寄せてくる。

「……歳上」

 その勢いに押されて、つい自分の好みを告げた。

「じゃあエルフ国からの留学生でいいじゃないかギョリュ!」

「いや、あれは単純に数字上な! 見た目は子供じゃん!! ナイスミドル連れてこい!」

「学園ものの乙女ゲームにナイスミドルの攻略対象がいるかギョリュ!!」

「いるでしょうが! 例えば、勤続20年の教師とか」

「ベテラン過ぎるギョリュ! 15歳の乙女からしたら父親世代だギョリュ! そんなマニアックな年齢の攻略対象居ないギョリュ!!」

「いないの?!」

「むしろなんでいると思ったギョリュ?!」

「最近の乙女ゲームは振り幅広いじゃん」

「このゲームはスタンダードな乙女ゲーだギョリュ! 例え40歳の攻略対象がいたとして、そいつが15歳に手を出したら客観的に見て非合法ロリコンだギョリュ!」

「確かにな!」

「だから諦めるギョリュ! 普通の乙女ゲームなんだから普通にクリアするギョリュよ!」

「いや待て普通のスタンダードな乙女ゲーに『ギョリュ』とかいう変な語尾のナビキャラがいるか!!」

「これは個性だギョリュ! 他のゲームと差別化をはかって埋没しないようにしてるギョリュ!」

「ナビキャラを差別化して意味あんのかっ?!」


 その一言を私が告げた途端、白茄子エグプが突如口をつぐむ。


 あ、もしかして、言っちゃいけない言葉だったのかな?

 トラウマ掘り起こしたとか……


「意味あるギョリュ」

 そう放たれた声は、今までの妙にダミ声がかった甲高い声ではなく──

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