【イベント5】エンディングその後
気がつくと、リビングのテーブルに突っ伏していた。
先程まで取り込まれていた乙女ゲームの、普通のスタート画面がテレビに大写しになっていた。
「戻って──来れた?」
アタシは周りをキョロキョロして状況を伺う。
ここは確かにアタシの部屋だ。本当の、現実の、アタシの部屋。
慌ててテーブルの上にあったスマホを手にして日付と時間を確認する。
すると、ゲームのスイッチを入れた時間から、1分程しか経過していなかった。
──あれは、夢だったの?
まぁ、夢でもなんでも構わない。
ここが現実の世界であるのならそれで充分。
良かった、これで寝たら明日からまた仕事──日常に戻れる。
ホント、変な夢を見てたよなぁ。
私はゲームのスイッチをOFFにしてテレビを消す。
リビングの電気も消して寝室の扉を開けた。
真っ暗な寝室の灯りはつけずそのまま、疲れてダルい身体をベッドに投げた。
贅沢だとは思ったけど、奮発して買ったダブルベッドに。
そして、そのまま目を瞑って、今までの夢を全部忘れようとして──
「今日が記念すべき初夜だギョリュね。流石に少し緊張するギョリュ」
物凄く変な語尾の渋くてダンディな声がすぐ側から聞こえた。
「ぎゃあああああ!」
思わず私は身体を捻ってその声のした方から離れる。ベッドから見事、転げ落ちた。
「なっ……何?! なんで?! なんでここに居るの?!」
ベッドの縁から恐る恐る覗くと、ベッドに肘をついて優雅に横になる全裸の元・
「そりゃ、お前がクリアしたのが、隠しキャラ攻略の『全員お持ち帰りエンド』だったからだギョリュ」
「え」
今、何か、不穏なワードが聞こえたぞ?
全員お持ち帰りエンドって言った?
その瞬間、パチリと寝室の灯りがつけられた。
「全員穴兄弟になるのはこの際仕方ない。次は俺だから。体力は残しといてくれると嬉しい」
寝室の扉が開いて、そこから金髪碧眼の若造が顔を覗かせる。
「穴兄弟とか言うなよ。……っていうか、いいんだ。ソレ。王子ともなると大物だね。俺は……どうかな。考えたくもないからそこは気にしないようにしようかなぁ」
その後ろから、銀髪褐色垂れ目の男がヒョッコリ顔を出す。
「あ……あの。ボクは歳は百歳超えてるんですけど、初めてなので優しくしていただけると嬉しいです……」
いつの間にか、線の細い耳のとんがった一見美少女のような少年が、二人の前に佇んでいた。
それ以外にも、見覚えのある煌びやかな男たちが寝室の入り口のところに勢揃いしてる。
「良かったギョリュな。これで、乙女ゲーム愛好家の夢が叶ったギョリュよ。二次元から三次元への、全員お持ち帰りエンドだギョリュ。男は選びたい放題、曜日ごとに担当決めするギョリュか?」
ベッドから全裸姿のまま起き上がって、その均整のとれた筋肉とそれ以外を惜しげもなく披露する元・
アタシはさっきまで口をパクパクさせていたが、なんとか腰に力を入れて立ち上がる。
そして
「全員願い下げじゃ!! ゲームの世界に帰れッ!!!」
そう、全身全霊の力をこめて、その場にいる全員にそう怒鳴りつけるのだった。
了
乙女ゲームの中に転移してしまったんだけど、普通に嫌なのですぐ帰りたい。 牧野 麻也 @kayazou
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