第2話 0日目①-0


「最優秀作品は………満場一致で秀樹さんの作品に決定しました!!!!」



拍手が響き渡る会場内。



「な……ちょ、嘘だろ…?!」


絶望し、小声で呟き、審査員の方に目を向ける優大。


笑顔で拍手する審査員たち。




秀樹は日本一フォロワーが多いインスタグラマーと言われている。その数1000万人。


それが今回、この写真コンクールにエントリーし、見事に最優秀賞を受賞したのだ。


秀樹の作品はなんでもない、ただの風景の写真だった。


対する優大の作品は、地元でしか見られない、有名な景色と、壮大な夕陽が混ざる、素晴らしい作品だった。


しかし、選ばれなかった。


「わしは絶対に優大を選ぶ!他の審査員にも強く薦めておくからな!」


そう言っていた写真の師匠であり、審査員の五郎ですら、秀樹に投票していた。






その後のことはよく覚えていない。


表彰式が終わり、気がついたら控え室にいた。





「終わった…。最後にしようと…思ってたのにな…。」


自然と涙が溢れた。


【有名なカメラマンになる!!】


という夢を追い続けてきた優大。


気が付けばもう30歳になっていた。


短大を卒業してから定職には一切就かず、日雇いやアルバイトで生計を立てながら、夢に向かって進んできた。


しかし、日々押し寄せてくる、夢を追い続けることのプレッシャーに優大はこれからどう生きるべきなのかを考え出していた。


そんな時、師匠の五郎からこのコンクールの話を勧められ、これで結果が出なかったら最後にしようと思い参加したのだ。


「帰ろう…」


そう呟き、控室を後にする。



「では、またよろしくお願いします」


聞き慣れた声がする。


五郎だ。


優大は思わず声をかけた。


「師匠!」


五郎は一瞬渋い顔をしたように見えたが、すぐ笑顔になり


「優大、お疲れさま。残念だったな。」


と、労いの言葉をかけた。


今の優大にとってその言葉は屈辱的に感じ、思わず強めに問いかける。


「どうして、あいつの作品を選んだんですか?!」


〜『優大、諦めるな。君には才能がある。日の目を見ることがなかっただけだ。もう一度、このコンテストに参加して、頑張ってみないか?』〜


五郎がコンクール参加を悩んでいた優大にそう言った事を思い出し、優大は返答を待たずに続ける。


「絶対に…あの秀樹とかいうやつなんかより…俺の作品の方が…」


思わず涙が零れ落ち、優大は下を向く。


五郎は悪くない、これはただの八つ当たりだ。


そう思いながらも自分の言葉を止めることは出来なかった。


五郎はそんな優大をなだめるように言った。


「優大、すまない。今回は相手が悪かった。」


(相手…?)


優大はその言葉が引っかかり、五郎を見る。


五郎は続ける。


「相手は、あの有名なインスタグラマーだ。世間への影響力は計り知れない。その、、だからな優大、、わかるだろ?」


優大は言葉が出なかった。


「また来年、頑張りなさい。」


そう五郎は言い、優大の前から立ち去った。




「なんだよそれ………審査員たちが自身の保身に走ったってことかよ……」


目の奥が熱い。


口の中はカラカラする。


「ふざけんじゃねぇ!!!!!」


思わず壁を殴りつける。








気がついたら家にいた。







どう帰ってきたのかも覚えていない。





そんな時、友人からメールがきた。



「イングラやべぇことするみたいだぞ!参加してみろよ!」



無心のまま、優大はイングラを開いた。

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