第14話 反則
レルフリシラと同学年全員の魔法の試験が終わり、総当たり戦が始まろうとしていたためレルフリシラはまた試験会場に戻って行った。
「ルカって子は自律人形なんだろ?なんで騎士学校にいるんだ?」
俺はレルフリシラが居なくなってくれたのでようやくキュリーに話を振ることが出来た。
「わかりません。ですが戦闘型自律人形は良質な魂を持つ人間を捕らえるために、調整された自律人形です」
「それなら見張って置かないといけないじゃないか!」
「はい。死神がアルケディアを不要になって廃棄しただけということも考えられますが、アルケディアは優秀な自律人形なのでその線は薄いでしょう」
「自律人形が廃棄されるとどうなるんだ?」
「はい。廃棄された自律人形は死神に関する記憶を全て抜かれてから、人間の住む街や村に人知れず廃棄されます。その場合は死神に関することは何一つ覚えていません」
……じゃあなんでキュリーは死神について知っている?
「睨まないで下さい。私は廃棄された訳ではないので記憶を抜き取られていないだけです。今の私の全命令権は私を作った死神からソレイアに移譲されています」
「……信じていいんだな?」
「はい。私を信じてください」
「……分かった」
半年間一緒に過ごしてきた経験もあってか、何となくだがキュリーは嘘は言っていないのは分かった。
「ルカが死神の手先なら何としてでも後ろにいる死神について吐かせてやる。……もう死神の好きにはさせない」
俺だって半年間何もしてこなかった訳じゃない。レルフリシラの特訓に付き合いながらも自分なりの魔法の特訓をし、単純な剣術だけなら一級品のスロイン先生と何度も手合わせをしてきた。
「ソレイア。今はそこまで殺気立たなくても良い筈です」
「……そうだな。ルカがただ単に廃棄されただけかもしれないしな」
「はい。ソレイアは前より強くなっています。なのでアルケディアがアクションを起こしてからでも手遅れにはならないと思います」
そうこう話している内に総当たり戦が始まった。魔法なしでの試合なので同会場内で同時に四か所で戦いが行われるらしい。
「初戦からレルフリシラの試合みたいだな」
試験官の開始の合図とともに四か所同時に試合が始まる。
レルフリシラはというと背の低さを欠点とせずに自分の特徴を生かした戦い方をして二回りも大きい男子生徒を圧倒していた。
木剣がそもそも短く作られているからレルフリシラは間合いを詰めやすいんだろうな。そして懐に潜ったら小さいレルフリシラに攻撃を当て辛いから防戦一方になる……自分のことを良く分かっている戦い方だな。
レルフリシラはそのまま自分より大きい男子生徒を手数で押し切って初戦を勝利した。そのまま二戦目、三戦目と勝ち星を重ねていき……ついには最終戦となった。
「ソレイア。レルフリシラは凄いですね。今までの試合で全勝ですよ」
「そうだな。自分なりの戦い方というものをすでに確立させているんだろうな。でも最終戦は……」
最終戦はレルフリシラと同じく全て勝ちを飾っているルカが相手だった。
「ルカが相手か……ルカの戦い方も見ていたけどレルフリシラと同じような背の低さを生かした戦い方なんだよな……」
ルカもレルフリシラと同じくらいの身長なので今までのような攻め方は通用しない。戦う間合いが同じだとそもそもの戦い方が変わってくる。
「はい。同タイプのアルケディアを相手にレルフリシラがどう対応するかですね」
そしてレルフリシラとルカの試合が開始される。
開始と同時にレルフリシラとルカは木剣で切り結び合うがルカのほうが少し上手だった。切り結んだ体勢のまま踏みこんだ左足でレルフリシラの足を刈る。軸足を払われたレルフリシラは片膝を地面につかせるような体勢になった。
体勢での有利を取ったルカはそのまま切り結んだ木剣に力を込めてそのまま押し切ろうとする。
だが、レルフリシラも圧倒されるだけでは無かった。木剣に力を込めてルカがさらに力を込めるのを確認してから、あえて力を抜いて木剣を滑らせるように下に受け流し身体を捻って木剣を躱した。
ルカは木剣に込めた力をそのまま受け流されたので咄嗟に右足で膝蹴りを放つが、体勢が悪く力が籠っていないのかレルフリシラの両腕で簡単に防がれた。
膝蹴りを完全に防がれたのを確認するとルカは飛び退き、レルフリシラもその間に立ち上がる。
「初動は五分五分だな」
「はい。戦い慣れているのはルカですが、レルフリシラには咄嗟の対応力がありますね。」
「ここからだろうな。ルカが経験で押し切るのか、レルフリシラがルカの攻めを捌き切って対応できるのかが見物だな」
今度はルカがレルフリシラとの間合いを詰め木剣を頭に振り下ろす。レルフリシラはそれを防ぐために木剣を掲げる。
するとルカは振り下ろしかけた木剣を止めて左足を軸にして、右足でレルフリシラの掲げられた木剣を握る右腕を蹴り上げ、防ぐ方法のないレルフリシラの胴体に木剣を振るった。
それに対しレルフリシラは敢えて木剣では受けようとはせずに上半身を大きく仰け反らせて木剣を躱し、そのままの地面に左手を付けてサマーソルトの要領で蹴り上げてルカを引き離した。
一連の攻防の末に、またお互いに間合いが空く。
……何を話しているんだ?
ルカが何かをレルフリシラに話しかけているが、ここからだと内容は聞き取れなかった。
満足のいく答えが得られたのかルカは嬉しそうな表情をしていた。
そしてもう一度ルカがレルフリシラとの間合いを詰める。今度はレルフリシラがルカの飛び込んでくるであろう場所に先に木剣を振るった。
ルカはそれを受け止めようともせずにそのまま突っ込みレルフリシラの木剣を潜って避けた。
潜られたのを確認してからレルフリシラは後ろに飛び下がったが、ルカは目で追いきれない速度で後ろに回り込みレルフリシラを背後から木剣で斬り付けた。
流石に対応しきれないらしくレルフリシラが背中に一撃をもらった。その時点で試験官の先生がルカの勝ちと宣言した。
「……なあキュリー今のルカの動きは魔法だよな?」
「はい。身体強化魔法ですね」
「反則だろ!」
「はい。でも試験官が魔法と認識していないので反則にはならないでしょう」
観客席からルカの勝利を祝う声が上がる。そしてルカはそれに笑顔で手を振って答えた。
一方のレルフリシラは直ぐに試験場から退場し観客席の俺達のところに来た。
「負けちゃいました。やっぱりルカちゃんは強かったです。」
「レルフリシラはよくやったよ。本当ならルカが反則負けしている筈なんだから」
「それでもルカちゃんが勝ってたと思います。決着が早いか遅いかの違いしかないですよ」
そう言ってレルフリシラは笑って見せた。
やっぱり魔法を使われたのは気づいていたんだな……。
「……悔しかったんだな?」
「……はい」
そりゃそうだ。純粋な力で負けたなら清々しいかもしれないが、反則行為を証明できないから負けたなんて悔しすぎる。
「大丈夫だ。レルフリシラが強いってことは俺が分かってるから。」
「……ありがとうございます。」
「でも上位だからトーナメントには出れるんだろ?だったらお祝いしないとな……どこか行きたいところとかある?」
「……ソレイア先輩のお家でお祝い会しましょう」
「分かった。今週の休みの日に家でパーティーだ!ご馳走も用意しないとな!」
「はい。任せてください」
そうだなぁ。それだけじゃ味気ないし何かプレゼントでも用意して置きますかね。
死を間近に感じたことはありますか?そのときに大事な人は側に居ますか? ぐらお @kikuushigurawo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。死を間近に感じたことはありますか?そのときに大事な人は側に居ますか?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます