10話 〜偉大な人〜

【10話】〜偉大な人〜


それから本当に丸一日歩き、俺達はオーバーシティに着いた。

「建物高すぎない?」

俺は入り口から見えるオーバーシティの中にある建物の高さと多さに驚愕していた。

そしてどれも木ではなく、別の素材でできているようだ。

「発展してる国ですからね。」

ヒトナは慣れた様子で中を見ている。

「とりあえず行きましょ!」

ミルファがそう言って中に入り、俺達も後に続いた‥‥‥。

見たこともないような物を売っている店が多く、とても興味を惹かれる。

しかし、ダカルやリラは慣れた様子で前を見て歩いていた。

「ねえアーク、ちょっと怖くない?」

すると前を歩いていたミルファが俺の横まで来てそう言った。

「怖いって何が?」

「建物の量や人の多さよ。」

ミルファにそう言われ改めて辺りを見渡す。

俺が住んでいた家の数倍の高さはある建物が綺麗に並び、この道を歩いている人だけでも、俺のいた村の人口を超えるかもしれない。

「怖いというより凄いだろ。特に人の量が異常過ぎる。」

こんな大勢の人はどこに住むのだろうか。

4人に1軒の家があっても土地は足りなさそうだ。

「着きましたね。」

すると前を歩いてたヒトナがそう言って立ち止まる。

俺も前を見ると、大きな教会のようなものが建っていた。

「ここが言っていたゴールドを貰う所か?」

今も多くの人がこの建物を出入りしていることから、一般人にも使われる場所なのかもしれない。

「そうですね、きっと私達がノインさん達を倒したことは中の人も知っていると思いますから、言えばゴールドは貰えると思います。」

そう言いながら俺達は建物の中へ入った。

受付に並ぶ人、昼間からお酒を飲む人など、中はとても賑わっていた。

「では、私がやっておくので、皆さんは休んでいて下さい。」

ヒトナはそう言って、受付の前にできている列の最後尾に並んだ。

「本当?ありがとうー。」

「流石に歩きっぱなしで疲れたぜ。」

リラとダカルは先にお店の前にあるテーブルへと向かった。

「悪いなヒトナ。」

ヒトナも疲れている筈なのにそう言ってくれるのは本当に助かる。

「はい!私もすぐ行きますね。」

「ありがとな。」

俺はそう言ってミルファを連れてリラ達の後を追った。

俺達は5人席のテーブルに座り昼食を取ることにした。

「毎回移動する度にここまで疲れるのは嫌ですね。」

オーバーシティまでへの道のりが1番しんどかったのはリラみたいだ。

さっきから頭を机につけて全く動かない。

「ここは少し無理をしてでも馬を買いましょう!」

特に疲労は無いのか、いつもの鬱陶しいテンションでミルファがそう言ってくる。

「まあ確かに、これは馬が必要だな。」

俺も今回の道のりは本当に疲れた。

途中戦闘があったというのも大きいだろうけど、それでも20時間近く歩き続けるのはもう懲り懲りだ。


それから俺達はヒトナと合流して昼食を食べ終え、テーブルでくつろいでいた。

「ノインを倒しても50万かー、厳しい世界だ。」

戻って来たヒトナが持っていたのは50万ゴールドだった。

穴を開けてくるような相手と直接戦った身からすると、50万という額はショボく感じてしまう。

「まあそれでも、ギリギリ馬2匹を買えるまでは貯まったな。」

しかしダカルの言う通りで、数万ゴールドしか残らないが一応買うことはできるようになった。

「まあ買っても良いんじゃないですか?馬を売っているところなんてなかなか無いですし、ゴールドはいつでも貯まります。」

「そうですね、私も賛成です。」

リラとヒトナもそう言い、全員が馬を欲しいということを確認し親達は馬を売っている店へと向かった。

店に着き中へ入ると、数十頭の馬が柵の中で飼われていた。

「いらっしゃい。」

奥で馬の体を洗っていたおじいさんがそう言って俺達を迎える。

「思ってたより大きいのね!」

「この馬カッコいいじゃねぇか!」

「しっかり値段も見ないといけませんよ。」

それぞれが馬を前に感想を零している。

俺も近くにいた馬を見てみると、あまりの迫力に少し後ずさる‥‥‥。

こんなのが向かいから走ってきたら、一瞬で空へ逃げる自信があるな。

「あんたら、世界で戦っている者達じゃな?」

すると、馬を洗い終えたおじいさんがこっちへ来ながらそう言った。

「だが、まだまだ未熟。精々レートC前後くらいじゃろ。」

更にそんな事を言われ、ダカルが突っ掛かった‥‥‥。

「いきなりなんだジジィ?」

そう言ってダカルはおじいさんの前に立ち上から見下ろす。

だがおじいさんは恐がりも驚きもせずにゆっくりダカルを見つめ返し‥‥‥

ドアをノックする程度の力でダカルの腹を叩いた。

その瞬間、声もあげずダカルがその場に蹲った。

「ダカル!?」

近くにいたミルファがダカルの元へ駆け寄る。

「はぁ、はぁ、大丈夫だ。」

意識はあるようだが、とても動けそうに無い状態だ。

するとミルファはダカルから目を離しておじいさんを睨む。

「やめろミルファ!」

俺はミルファが何をするか勘付きそう言って忠告するが、少し遅かったのか一瞬でおじいさんとミルファの場所が入れ替わった。

そして‥‥‥

おじいさんは背中からミルファのナイフで刺された‥‥‥。

「えっ?」

だが、おじいさんの背中にナイフは刺さらず、おじいさんはすぐに後ろを振り向きミルファの肩を叩いた。

すると、ダカルと同じようにミルファはその場へ倒れた。

「ミルファ!」

次はリラがおじいさんの元へ駆け寄ろうとするが‥‥‥

「やめろリラ!少し落ち着け。」

俺がそう言うと静かに頷きリラは後ろまで戻ってきた。

「爺さん、俺達になんか用か?」

明らかにミルファとダカルには手加減をしていたため、俺達の命を狙っている訳ではないみたいだ。

「わしが何で馬を売る店をやっているか教えてやろう。」

そう言って爺さんは俺達の方を向き‥‥‥

「世界の厳しさを知らない若造どもを、ここでリタイアさせるためじゃよ。」

するとそんな事を言ってきた。

世界の厳しさを知らない‥‥‥つまり俺達のようにすぐに馬に頼ったりしようとする人達をここで更生させるということか。

「俺達を世界の危険から守ろうとしてくれているのか?余計なお世話だ。」

口調ではそう言って強がっているが、今ここで攻撃しに来られては、俺も何も出来ずにやられてしまうだろう。

「何か勘違いしておるのぉ‥‥‥。わしは、世界で戦う勇敢な者達のレベルを、弱者で下げないためにやっているのじゃよ。」

そう言うと爺さんが俺の目の前から消えた‥‥‥。

いや、大体何が起こるかは分かる。

俺を気絶させるために後ろへ回り込んで攻撃してくるのだろう‥‥‥手加減して。

仮にこの攻撃を防いだところで結果は何も変わらない、きっと俺はやられる。

だが、ミルファとダカル‥‥‥俺の仲間を傷付けた分は、返してやりたいな‥‥‥。

俺は咄嗟に後ろを向き、右手に魂を溜めて殴った。

「!!」

やはり後ろに回っていた爺さんの顔に俺の手が届くギリギリで、

パァン!!

爺さんの左手で受け止められた‥‥‥。

反撃が来る前に後ろへ下がろうとした時、

「まあ待て。」

爺さんがそう言って動きを止めた。

俺は多少警戒したまま爺さんの言葉の続きを待つ。

「合格じゃよ。」

すると、そんな訳の分からない事を言い出した。

「なんの真似だ?」

いつの間に回復したのか、ダカルが俺の横まで歩いてきて爺さんを睨んだ。

「ちょっとしたテストじゃ、無事お前達は合格、それで良いではないか。」

流石の俺もそのふざけた発言に突っ込まずにはいられない。

「いや気を失ったんですけど!?」

すると回復したミルファが、俺の代わりに爺さんに突っ込んだ。

「わしがこんな事をする理由はそこの男の言う通りじゃ。わしのテストで不合格になるような奴は、世界に出てもすぐに命を落とす。それを防ぐ為にやっていたんじゃ。」

この人は過去に何かあったのかもしれないが、自分なりに目標を持って旅に出ている奴等からすると、この爺さんは迷惑極まりない存在だな。

「テストなんてやってる理由は分かったが、俺達のどこが合格なんだ?」

1番不満そうにダカルが爺さんに尋ねる。

「お主は気絶させるつもりでやったんだが、意識はあるようだったな。

そこの女は仲間の安否の確認から攻撃へと、無駄の無い動きじゃった。」

爺さんはそう言って1人1人指を指しながら評価を付けていく。

「そこの小さい女はいつでも攻撃出来る準備の中、仲間の指示に冷静に従った。

そしてそこの女は、一瞬の隙に仲間の回復を行った。」

どうやらダカルとミルファはヒトナに治してもらったみたいだ。

というか、この爺さんはそんな所まで見てたのか。

「そして最後にお主、あの短い時間の中で、わしが背後に回ると予想して力強い魂での攻撃、見事じゃった。」

爺さんは最後にもう一度俺達を見回して拍手をする。

俺達の心の中にこの人への苛立ちや不満はもう無い。

圧倒的強者からの高い評価に嬉しくなっていた。

「そうですか‥‥‥じゃあ無事合格ということで、馬を買わせて頂きますね。」

俺はそう言い、皆と100万の馬2匹を選んで買った。


馬を馬車に繋げ、俺達は店を出た。

すると爺さんも店から出てきて、

「じゃあ頑張るんじゃぞ。お主らが有名になるのを楽しみにしとくわい!」

最後に俺達にそう言って、店の中へ帰っていった。

「本当なんなんだあのジジィ。」

「あれほどの強さなら、有名になっててもおかしくないですけどね。」

ダカルとリラも爺さんの正体が気になっているようだ。

「とりあえず馬を買えて良かったな。」

俺は馬車の中で皆にそう言った。

あの爺さんのせいでややこしくなったが、俺達は馬を買いに来ただけなのだ。

「そんかことよりも!本当に誰なのよあの人!」

ミルファも隣であの爺さんの正体が気になっているようだった。

「あっ!思い出しました!」

すると、前で馬を動かしながら何か本のような物を読んでいたヒトナがそう言う。

「どうしたの?」

ミルファがヒトナにそう聞くと、

「さっきのお爺さん、元レートSSのゼンテンだわ!」

「「「「‥‥‥‥‥‥‥」」」」

それからしばらく誰も言葉を発さなかった。




《キャラ&能力紹介》

〈ゼンテン〉SS

魂(赤) 柔(パワーを上げる)


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