9話 〜道のり〜

【9話】〜道のり〜


ヒトナが出した案は3つ‥‥‥水の都かオーバーシティか、一度トパリクト帝国へ戻り、そこから出ている船に乗って別の島へ行くかだった。

だが、リラの事情により水の都は却下され、トパリクト帝国へ戻るのは、この大陸を大体周ってからにしようという事になり、俺達はオーバーシティという街を目指していた。

「そこってどういう所なんだ?」

行き先が決まり、俺はヒトナに尋ねる。

「この世界でも上位に入るほど技術が進んでいて、トパリクト帝国との同盟によって、この大陸を支配するほどの力を持つ国です。」

ヒトナは丁寧にそう教えてくれる。

ただでさえ技術があるのに同盟を結んでいるのか‥‥‥。

これは一応カナタの兵士である俺達からすると、あまり嬉しい情報では無いな。

「そんなとこ行って何するんだ?」

戦う事しか頭に無いダカルからすると、ただの観光になるかもしれない場所は興味が無いかもな。

「とりあえず、必要な物をオーバーシティで揃えませんか?‥‥‥連絡手段であったり、衣服だったり‥‥‥。」

連絡手段というのがなんのことかは分からないが、衣服や食料は確かに増やしておいても良いかもしれない。

「服なんて買うくらいなら美味しい物買いましょうよ!」

すると横からミルファがまた馬鹿な事を言ってくる。

「バナナなら結構予備あるぞ?」

少し溜め息を吐きながらミルファにそう言う。

「そろそろあんたとは本気でケリを付けないといけないわね。」

ミルファはそう言うとポケットからナイフを取り出して俺の方へ構えてくる。

「しまえ馬鹿!ちょっとからかっただけだろうが。」

こいつは本気で攻撃してくる可能性があるので油断は出来ない。

「次それ言ったときが、このパーティのリーダー変更の瞬間だからね。」

なんて短気なやつなんだ‥‥‥。

俺の最後の言葉がバナナになるのは流石に嫌なので、今後こいつをバナナでからかうのは抑えよう。

「そんな事どうでもいいんですけど、オーバーシティまではどれくらいで着くのですか?」

次はリラがヒトナに質問する。

「このペースで歩いて行くなら、明日の朝には着くと思いますよ?」

明日の朝?

今は午前10時なんだけどな‥‥‥つまり丸一日歩かないとダメってことか。

「無理よそんなの!やっぱり馬車を買いましょ!服も美味しい物も要らないから馬が欲しいわ!」

それは俺も思っていたことだ。

移動がずっと徒歩なのは、観光が目的では無い俺達からすると苦痛でしか無い。

今カナタから召集が来ても、着くのは明後日なんて話にならないからな。

「その案には賛成ですけど、私達の所持ゴールドで馬なんて買えるでしょうか?」

俺は一応当分はお金に困らない程度には持って来たつもりだが。

「馬ってどれくらいするんですか?」

リラも馬を買うことに異論はないのか、そう質問する。

「私達を運ぶとなると2頭は欲しいと思いますから‥‥‥100万ゴールドずつくらいではないでしょうか?」

「「「100万!?」」」

俺とダカルとミルファが声を揃えて驚く。

予想の10倍くらいの値段に希望が無くなっていく‥‥‥。

「でもそれくらいなら、レートが付いている人を倒せばすぐに稼げますよ!」

すると、リラが嬉しそうにそんな事を言ってくる。

「確かにそれなら一瞬だな!俺は賛成だぜ!」

ダカルもそう言ってリラの意見に賛成する。別に俺もレートが付いている人と戦う事は特に不満は無いのだが‥‥‥、

「仮にそうやって倒せたとしても、どうやってゴールドを貰うんだ?」

一応俺達も今後レートが付いていくかもしれないわけで、もしそうなれば、倒した人を連盟の人に渡すとき俺達も狙われるんじゃないか?

「もしかして、ハンターの存在を知らないんですか?」

するとリラが驚いたような表情で俺にそう言ってきた。

「ハンター?」

生まれてからずっと小さな村で暮らしてきたのだ。

本当にこの世界のことは何も分からない‥‥‥。

「ここにいますでしょうか‥‥‥あっ!あそこを見て下さい!」

と、リラが奥の空を指差してそう言う。

よーく見ると、1羽の鳥が飛んでいる。

「あれがハンターか?」

「いえ、あれはハンターの能力によって世界中に飛び回っている偵察鳥です。」

偵察鳥‥‥‥そんな事を出来るやつがいるのか。

「あの鳥が何か異変を感じたらその場まで行き、事が終わるとその結果を本部にいるハンターに伝えに行くのですよ。」

本当に名前の通りの仕事だ。

「凄いな、そのハンターっていうやつ。」

素直にそう称賛したとき、俺は違和感を感じた。

「じゃあ、俺達とルミネートの奴等の戦いも連盟の人達は知ってるのか?」

つい先日俺達はルミネートという組織と戦った。

その時は、空に鳥がいるかなんて全く気にしていなかったから分からなかったが、

「多分知っていると思いますよ?あの時いた偵察鳥は、火の都専用の鳥でしょう。」

やはり俺達の存在はもう知られているみたいだ。

てことは、俺達にもレートが付いている可能性があるということか‥‥‥。

「つまり今アークを殺ればお金が貰えるってわけね?」

後ろでミルファがそんな事を言ってくる。

「ああ、最悪の場合はこの猿を殺して生き延びる事が出来るってことだ。」

俺もミルファの意見に乗っかりそう言う。

ミルファ以外は、仲間同士の楽しいじゃれ合いに見えているだろう。

「やめろお前ら!仲間同士だぞ!」

見えていなかったみたいだ。

後ろでミルファのギャーギャー言ってる声が聞こえる‥‥‥俺を刺そうとしているところをダカルに止められているのだろう。

それならと、俺も参戦してミルファをおちょくっていると、

「誰か来てますね。」

とヒトナが前を見ながらそう教えてくれる。

その言葉を聞き俺も前を見ると、6人の男女が装備を着てこっちに歩いて来ていた。

「どう見てもこっちの世界のやつだな。もちろん戦うよな?」

ミルファを抑えながらダカルが嬉しそうに俺に聞いてくる。

「ミルファ、あいつらを殺って馬を買おう!」

「そうね!あんたはレートが上がってから殺ることにするわ!」

ミルファも無事承諾し、俺達は警戒しながら距離を詰めていく。

前に男4人、後ろに女2人という並びで向こうもゆっくり近づいてくる。

そして、お互いの距離が10メートルくらいに来たところで、

「ダカルとヒトナだな?ということは残りのメンバーもレート付きの可能性が高いな。」

先頭に立つ男が俺達を見据えながらそう言う。

ダカルとヒトナはそれぞれ家系と国の兵という事情でレートが付いているのだ。

「そちらは‥‥‥ノインさんですね、レートC+の。」

するとヒトナは誰の事を言っているのかは分からないが、向こうの人達に向けてそう言う。

「そう俺がノインだ、なら話は早いな。いくぞ!」

先頭に立っていた男がそう名乗り、剣をこっちに向けて構えてくる。

「アーク、すぐに龍に変身するのよ?」

と、こっちを見ながらミルファがそう言い、相手の方を振り返って能力を使用した。

「‥‥‥え?」

すると、俺達の目の前に現れたのは、さっきまで向こうにいた後ろの女だった。

俺は瞬時にミルファの意図を理解し、少し後ろに下がって龍に変身する。

「キャッッ!」

目の前に現れた女は、容赦なくダカルの蹴りを喰らい横へ吹っ飛んでいく。

その間、向こうでは突然現れたミルファに男2人が斬られパニック状態だった。

「このクソ女がぁ!」

ノインが叫びながら剣の先端をミルファに向けると‥‥‥、

俺の目の前にノインが現れた‥‥‥。

「だろうとは思ってたけどな!」

ミルファは瞬時に俺と場所を入れ替わり、俺がノインの前に現れたのだ。

龍に変身していた俺は入れ替わった瞬間、放出する熱の量を最大まで上げた。

「クソっ!」

だがノインはお構いなしに俺に向かって剣を突いてきた。

剣は俺には届かない‥‥‥しかし、剣の先端から空気砲のようなものが俺に直撃した。

「がっ!‥‥‥かはっ、はぁ、はぁ。」

その空気砲は脇腹を貫通し、俺の胴体には直径10センチくらいの穴が開いた‥‥‥。

だが、俺の熱を間近で受けたノインはその場に崩れ落ちた。

「「ノイン!」」

俺の熱から一早く回避していた残りの男と女1人ずつが俺に向かって走ってくる。

だが女は途中で止まってノインに近付き、回復させているようだ。

俺は脇腹の激痛に耐えながら、こっちに向かって来る男に向けて口の中から炎を吐く。

いつもなら腹の底から全力で炎を出すのだが、脇腹をやられている今それが出来ない。

しかし相手は炎をジャンプで躱し、右手に魂を纏って俺を殴ろうとする‥‥‥、

「ぐはっ!」

だが男は、ジャンプ中に後ろから水の槍に刺されそのまま落ちていく。

その光景を見た女は、

「許さないっ!」

持っていた杖をリラ達の方へ向け電気を飛ばした。

「俺がやる!」

リラ達を守るようにダカルが前に立ち、能力と魂を使って体全体で受け止める。

「嘘‥‥‥。」

完璧に攻撃を守られた女は、戦意を失ったのかその場に膝をついた‥‥‥。



俺はヒトナに体を治してもらい、ノイン達の持ち物を漁っていた。

ノイン、そしてミルファに斬られ俺の近くで倒れていた男2人は俺の放出した熱で死に、リラに刺された男も出血多量で死んだ。

最初ダカルに蹴られた意識不明の女と、戦意の無い女にとどめを刺す勇気は俺達には無く、2人の持ち物を全部貰うという契約で逃してやった。

「結構ゴールド持ってるわ!それにノインを倒したんだし、オーバーシティに着いたら早速馬を買いましょ!」

興奮気味のミルファが誰よりも早く持ち物を漁りながらそう言う。

「お前の能力卑怯だよな。」

さっきの戦闘を思い出して俺はついそう呟く。

「なんかせこいですよね。」

「なんかズルだな。」

リラとダカルもそう言ってミルファを見る。

「なにー?」

俺達の言葉は聞こえていなかったのか、次のリュックを漁り始める。

「ミルファは本当に強いのですね。」

横でヒトナが少し笑いながらそう言う。

普段のこいつからは全く想像できないからな。

「本当、良い仲間を持ったよ。ヒトナ含めてな!」

俺はそう言って、ミルファの元へと向かった。




《キャラ&能力紹介》

〈アーク〉C+

〈ミルファ〉C+

〈ダカル〉C+

〈リラ〉C

〈ヒトナ〉C一



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