第13話 周回まわった土の申
—— 店長の戸田
戸田はため息をついた。
自動ドアの張り紙には、でかでかと『バイト募集中!』の貼り紙。
尾崎は新しく発注の仕事を教えたため、パソコンと睨めっこしている。
「戸田さ、この前『ハテンコウ』の意味教えたじゃん」
「ああ」
確か、破壊的に天候が荒れてる事、と教えられた。
「あれ、間違ってた」
あれは、本気だったのか。台風一家と同じ
「知ってるよ」
尾崎の声がはたと消える。
「知ってて教えてくれなかったの」
「面倒臭くて」
もー、と尾崎の面倒な声が聞こえてくる。
「だからそうやってサバサバしてるから彼女できないんだって!」
「この前、サバサバしろって言ったのはお前だろ!」
「もうちょっとで、松本さんといい感じになったかもしれないのにさ」
あるわけないだろう。
戸田はそこで押し黙った。
あの事件以来、磯辺はもちろん解雇。松本さんは、とりあえず家へと帰した。
あんな状況で、今度レストランにでも行きませんか、なんて言えっこない。しかも、松本さんはあのレストランを教えてくれた水谷の彼女だった。
しかし、どうして土曜の夜、彼は戸田に連絡をし、自分の彼女を友人に助けさせたのか。
尾崎がなぜあの場所にいたのか。尾崎も水谷の差し金だったのか。
尾崎は、磯辺の犯行現場を目撃してから、犯人は本当に磯辺なのか、被害者が本当に、たまたま自分のみが知る水谷の彼女であったのか、調べに調べた結果だったという。拉致現場を目撃してから、車が去ってしまい、夜遅くまで、ナンバーの情報検索や、磯辺の近辺を探ったなど、どこまでが本当で、どこまでが台風一家なのか。
母親の入院は、本当らしい。だから、あの日大きな荷物を持っていたのだ。
「きっくん、また連絡つかなくなったね」
水谷は、ある仕事のヤマを迎えると、連絡がパタリと消える。そして、世の騒動が収まるとまたふらりと現れるのだ。
「そういえば、今日のニュース見た?」
「どれのことだ」
「駅前のレストラン、金庫の中の現金とか、諸々窃盗にあったらしいよ。しかも、盗まれた書類が世に出ちゃったらしくて、社長が逮捕だって」
尾崎は、おそらく戸田に確信をつかせるためにわざとこの話題を振ったのだろう。なるほど。自分の彼女より、義賊としての仕事をとったわけだ。
「きっくんこそ、破天荒って感じだね」
尾崎春彦、君だって充分、破天荒だと思う。
そんな二人の友人をやっていて、戸田は人より早く胃に穴が開くか、ハゲるのでは、と真剣に悩んでいる。
自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませー」
二人の男の、むさ苦しい声が重なる。
「どうも」
自動ドアに立っているのは、義賊とその友人とそのまた友人に助けられた女性だった。
その顔は決して晴れやかではなかった。監禁状態から助けてくれた本人たちではあるが、五股をかけられた最低の彼氏の友人でもあり。一体どういう顔をして会えばいいのかわからない。それが彼女の真意だったんだと、戸田は思う。
尾崎の顔が、スポットライトを浴びたように光り輝き、戸田を見る。
「僕が来た?」
戸田は
「それ痛いの知ってる!?」
破テンコウ 伊ノ蔵 ゆう @yuu5syou
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