第19話「黒の意味」


あれから、一週間。

精神的にぐったりな日々。

相談しようにも、言葉にするのが不安で。

泣きそうになったので。


歌う事にした。


「う~みよ。おれのうぅみよぉ~!」


私の奇行に、誰も触れず。

ただ、待つのがお辛いのですねって目で見てくる。

うん。誰も触れてくれない方が、助かるわ。


「ありの~ままのぉ~。」


おもむくままに、サビメドレー。

自分でも、わけわかんなくなってきたわ。わら。


「さくらぁ~ふぶぅ~きのぉ~。」


クラっとした。

と思ったら。


「アカネ様!」


目の前が真っ暗。




ダニーが。

秋葉原で。

タモさんを追っかけながら。

私に叫んでプロボーズして。

投げつけてきた花束が。

真っ黒なキクで。

ひどいって叫んだら。

こっちでは、永遠の愛だとか言うから。

ほだされそうになったら。

嫌味な上司が。

そんな意味あるわけないじゃんと笑ってきた。

むかつく!


「んん゛!」

「アカネ!」

「…んぁ?」


ダニーが。

心配そうにこっち見てる。


「黒いキクが…。」

「ん?なんだ?」

「花言葉…。」

「うん?」

「愛じゃない…。」

「どんな夢を見たんだ。」


ぼんやりと見つめる。

あれ。

白衣着てなかったっけ…?タキシードか…?


「アカネ。心配したぞ。」


頬を撫でる手が、温かい。

ダニー。


『母上。お目覚めですか?』


誰や。お前。

ぴーちゃんの顔してるけども。


「アカネ。無理するなって、言っただろう?」

「え、だにー?」

「あぁ。」

「本当に?」

「あぁ。」

「…っ死んだのかと。」

「なぜ殺す?」


眉間にシワ。


「ダニー、良かった。」


がばっと抱き着くと。

優しく受け止めてくれた。


「ほら。無理はするな。」

「うん。ダニー。良かった。」

「アカネのまじないのお蔭だ。」


嬉しそうに、呪詛のハンカチを取り出した。

ちょっと、焦げてる。


「怪我はない?」

「あぁ。ピーが、俺ごと燃やそうとしたが。」

『父上。あれは、少し口元が狂っただけです。』

「…あんた誰?」

『母上!そんな殺生せっしょうな!』

「ふっ。アカネが時々する話し方に似ているだろう?」


嬉しそうに話すけど。


「アカネ!」

『母上!』


パタっとベッドに倒れ込む。

取り敢えず、もう少し寝よう。




あれからひと眠りしたら。

夕食も終わった時間みたいで。

セブスさんが、おかゆを持ってきてくれた。


「ほら。」


ずっと。ダニーが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

今も、ベッドの横に座って、おかゆを食べさせてくれる。

出来た旦那だわぁ。

ぴーちゃんは、私の態度がショックだったようで。

また、ガラスを割って外に出て、飛び回っていたらしい。


「まだ食べられるか?」

「ううん。もう、お腹一杯。」

「そうか。なるべく、沢山食べないと。また倒れるぞ。」

「うん。気を付ける。」


食べ終わった食器を、セブスさんが持って出ていくと。

シーンと静まり返る。

……ぴーちゃーん。戻っておいでー。


「…ぴーちゃん。どうして、あんな言葉遣いに…?」

「それは、わからない。戦場で会ってから、急激に大きくなったと思ったら。あんな話し方をするようになった。」

「へぇ。」


何で、時代劇みたいになっちゃったんだろ。


「俺がいなかった時。」

「うん。」

「あまり、食べてなかったみたいだな。」


ドキィ。


「これからは、嘘はつくな。不安になる。」

「…ごめん。」

「もう、一人の身体じゃないんだからな。」

「…うん。」


そうだよね。

もう、ダニーっていう伴侶もいるんだしね。

嬉しそうに、私のお腹を触ってる。

……?


「あまり、部屋に籠りすぎるなよ。適度な運動も、必要らしい。」

「…うん。」

「明日、湖まで散歩に行こう。」

「え、いいの?」

「あぁ。ゆっくり行けば、構わないと。胎教にも、良いと思うしな。」


………。やはり。

これは、私が、妊娠している流れ、ですな。


「あのさ、ダニー。」

「何だ?」

「私、妊娠してるの…?」

「あぁ。証が黒くなっている。間違いない。」


なんですと?


「…聞いてない。」

「……言って、なかったか。」


こいつ!


「婚姻の証が黒くなるなんて、不吉じゃん!ダニーに何かあったと思うじゃん!」

「なぜ、黒が不吉なんだ?」

「え?」

「こっちでは、力を象徴しょうちょうする色だ。不吉な意味はない。」


あ、そうなんですか。

夢も、あながち間違っちゃいないってか。


「赤ちゃん。…出来たの?」

「あぁ。アカネと、俺の子だ。」


とっても嬉しそうに笑うダニー。

マジか。

まだ実感が。


「あ、ぴーちゃんは…。」

「ピーは、隣の部屋だ。この部屋では、もう手狭だしな。」

「そっか。会って、話、したいな。」

「わかった。連れて行こう。」


ダニーがお姫様だっこをして。

部屋の扉を開けると、隣の部屋に通じてた。

こんな扉、あったっけ…?


「ぴーちゃん。」

『母上。』

「さっきは、ごめんね。ビックリしちゃってさ。」

『もう、ぴーの事は、お嫌いですか?』


うぅ。そんな大人な会話されると、調子狂うわ。


「嫌いじゃないよ。ただ、何で、そんな、話し方に…。」

『時代劇が、お好きみたいなので。この方が、良いかと思いそうろう。』


うわぁ…。


「うん。普通に話してもらえる?」

『じゃあ、こんな感じで良い?』


一気にくだけたな。


「うん。そっちの方が、気が楽だわ。」

『呼び方も、母上じゃない方が良い?』

「それは、好きに呼んでいいよ。」


どうせ、バレたっぽいし。


『じゃあ、ママに戻すね。言いやすいし。』

「わかった。」

『父上は?』

「……好きにすると良い。」


ちょっと迷ったな。

父上って呼ばれるの、悪くないとみた。


『じゃあ、ママに合わせて、パパにしとくかー。』


バサッと羽を広げて、寝ころんで。一気にリラックスモード。

さすが、私の子。


「それでね、ぴーちゃん。」

『うん?』

「ぴーちゃん。お兄ちゃんになるから、よろしくね。」

『………。』

「あ、アカネ。ピーは…、」

『ピーは、女の子だ。』

「へ?」


珍しくラウちゃんが喋ったと思ったら。

…おんなのこ?


『…ママなんて、だいっきらい!』


あらら。嫌われてしもた。



どうやら、守護獣というのは、守護主と同じ性を持つらしく。

ぴーちゃんは、女の子だったらしい。

だって、ずっとぼくって言うしさ。見た目では、わかんないしさ。

ちょっと、勘違いしちゃってね。めんご、めんご。


許しておくれ~って縋りついたら。

自分に合うバンダナを作ってくれたら許してくれるみたい。

もちろん。私の着てた服で。

ダニーの目が、一瞬冷えたけど。

パパって呼ばれて、デレてた。ちょろいな。



お風呂に入るのに、ダニーが甲斐甲斐しく面倒を見てくれる。

全部、ダニーの膝の上で洗われ。

ゆっくりと湯舟に降ろされて。

ダニーも洗い終えると、私の後ろに収まる。

私のお腹を撫でて、嬉しそう。


「俺達の子供が、ここにいるのか。」

「なんか、不思議だよね。」


あのお祭り後で、身ごもるなんて。

スナイパーだね、ダニー。


「そうだな。今まで以上に、無理は禁物だ。」

「わかってるよぅ。」

「重いものは、持たないように。」

「…うん。」

「あろまに熱中しすぎるのも、良くない。」

「えぇ~。」

「食事も、しっかり食べないとな。」

「は~い。」

「アカネ。」

「聞いてます。真剣です。」


振り返ってダニーを見ると。

じっとりと疑いの眼差し。

このやろう。


「アカネは、危ない事をしかねない…。」


心配そうに、私の肩に顔を埋めて。

肩口にキス。

もう、ムラムラするやろが。


「大丈夫だよぅ。さすがに、子供いるんだから、無茶しないよ。」

「あぁ、頼む。俺は、アカネも子供も失いたくない。」


ぎゅうっと抱きしめられて。

きゅんと来ちゃうわぁ。このすがる感じ、きゅん死にしそう。


「ダニー置いて、いくわけないじゃん。」

「だと、良いが。」


疑い深いな。

やんのか。ん?


「そろそろ出よう。のぼせるのも、良くない。」



お風呂から上がって、全部ダニーがしてくれて。

ベッドまで運ばれる。

適度に運動した方が良かったんじゃないの?

前以上に動いてないけど。


「あのさ、ダニー。」

「ん?」


ベッドに入って、また抱きしめられる。


「前以上に、運動してないんだけど、私。」

「………。」

「さすがに、それなりに動かないと、母体には良くないんだよ。」

「わかっている。」


ぎゅう。

わかってないな。


「運動しとかないと、出産の時、大変だしね。」

「あぁ。」

「だから、今後は、自分の事は、自分でやるから。」


がーん。

って顔。子供か。


「…わかってはいるんだが。まだ、アカネから、離れたくない。」


嬉しい事言ってくれるなぁ。

きゅんきゅんしてまう。


「離れなくても良いんだよ。私がやる事を奪わなければ。」

「…わかった。善処する。」


不器用だなぁ。

まぁ、そういうところも。


「好き。」

「アカネ。」


嬉しそうにキスをするダニーに。

調子に乗って、深くする。


「アカネ。ただいま。」

「!…おかえり、ダニー。」


そういや、言ってなかった。


「アカネ。」

「ダニー。」


また、キス。

ほっとする。ダニーがいる。

ダニーの顔が歪んで見える。

頬を撫でる指も、温かい。嬉しい。


「泣き虫になったか?」

「ふふっ。そうみたい。」

「俺の腕の中でなら、いくらでも泣いて構わない。」


なんか、違う意味に聞こえてしまう。

イヤらしいわぁ、私。


「ダニー。」

「アカネ。」


キスがまた深くなって。

見つめあって。

顔中にキス。

それから、首筋。


「んっ。」

「………寝よう。」

「へ?」


突然、甘い空気を断ち切って。

ダニーは私を抱きしめて、眠ろうとしてる。


「え、ダニー?」

「なんだ?」


ムラムラするんすけど。


「妊娠中に、激しい運動は良くない。」

「はぁ。」

「俺は、アカネを抱きしめているだけで、充分だ。」


私は、違う意味で抱いて欲しいんですけど。


「出産するまで、無理はさせない。」

「え?」


じゃあ、赤ちゃん産むまで、お預けって事?

欲求不満で爆発するわ。


「おやすみ。アカネ。」


く、くそぅ。

どうしよう、このムラムラ。


世の妊婦さんって、性欲どうしてんのさ?!

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現実逃避は異世界で 彩-sai- @chukon_sai

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