言語学者の弟子

「ひっ」

 何気なくめくった敷布に縫い込まれた文字は怨嗟に満ちていた。目を輝かせて解析しはじめた師匠に代わり、青ざめた家主に問いかける。

「この品はどちらで?」

「知人から譲り受けたものですが…」

 正直、来歴はどうでもよかった。見る間に師匠の筆が走り出す。菫色の軌跡は夜空の色に沈み、ひねった穂先からばちばちと星が散る。

 どんな呪いも言葉である限りは対語が存在する。あらゆる言語に通じていれば、全て相殺できるのだ。筆だって市販品で十分。しかし。

「相変わらずひっどい字ですね」

「やかましい」

 その悪筆ゆえ、術が破られることもない。これも師匠の無敵たる所以だが、僕の修行もその解読から始まっている。道のりは遠い。

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第64回Twitter300字ss「書く」 草群 鶏 @emily0420

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