人生のどん底に叩きつけられ、身動きも何もできなくなってしまった主人公のもとに姿をあらわす、不思議な「女子高生」。なれなかった自分、憧れの存在としての「女子高生」は、現実的な助けにはならないとしても、いつも寄り添い、心の支えになってくれます。だからこそ、最後のシーンで主人公が主導権を取り戻すとき、物語に転換が暗示され、感動を生みます。傷ついた女の子の一人称として展開される文体が、深く心に染み入ります。とても切ない短編です。夜明けの海岸、波の音、シーンとしてすごくいいです。
静かな中に強さを感じる純文学作品。主人公の置かれた状況は詳しく描かれていないが、だからこそ摩耗した心が伝わってくる。余計な心情吐露がないだけに、文章から伝わる雨の音に、閉ざされた雨戸に、ネジやフェンスの錆に、空っぽの布団に、読者は様々な感情を読み取り、ともに心を動かす。過去の日に、自転車に乗って通り過ぎる学生たちに何を見たのか。そして今、自転車に乗ってどこへ行くのか。ラスト、主人公の「意思」に胸が熱くなりました。