第30話 トラックの突撃がまさか異世界転生以外で使われるとは思わなかった件について
やぁみんな、僕は北原ムンク。
ほんのちょっとだけ心を拗らせただけの今をときめく高校生さ。まぁときめいていると言っても彼女どころか友達ですらろくにいないんですけどね。
ところで誰に話しかけてるって?
おいおい無粋だな。誰にも話しかけてないよ。ほら、こういうことを頭の中で語っていれば主人公っぽさが出てくるじゃない。つまりそういうこと。
突然だけど人生ってどう思う?
僕は糞の掃き溜めだと思うね。人生は素晴らしいとか寝言をほざけるのは容姿が良かったり、親が金持ちなだけである。大抵の人間は誰にも見向きもされないほど地味か、劣悪な環境に身を置きろくな人生ではない。
何故こんな話をしているかって?
そりゃ僕の人生が控えめに言っても糞だからだ。特に今の状況は自信を持ってはっきり糞だと言える。
だって僕は今、トラックで特攻を仕掛けようとしているからだ。
現代日本で普通に生活している人間からすれば聞き慣れない単語だろうが、旧日本軍が零戦で行われたという由緒正しきアレだ。しかも操縦席でハンドルを握るわけでもなく、トラックの上屋根にしがみつく形で。
風圧半端ないし、ふざけんな。
『現実逃避しているところ悪いけど詐欺師君、そろそろ目的地のショッピングモールだ』
耳につけた通話機能付きのイヤホンから自宅警備員氏の声音が届く。彼女は自分は安全な所で指示を出すからって、無理難題をこちらに要求するろくでもない奴である。歩きスマホして電柱に頭をぶつけてしまえ。
『ほらほら、とっとと現実に戻ってきたまえ。もうショッピングモールを視界でも確認できるはずだ』
自宅警備員氏の言う通り、眼前にはコンクリートと鉄骨で形造られた巨大な建造物がそびえ立っていた。
もはや引き返すことも叶わない。逃げたところで、斎藤達にどんなお仕置きをされるか堪ったものではない。
行くも地獄、引き返すも地獄。
どうしてこうなったのか……全てを諦めたかのように頭を抱えていると、一時間前の出来事が走馬灯のように頭に浮かび上がってくるのだった。
◆
「いやいやいや……トラックの上に乗る必要皆無でしょ」
幼女ちゃんのお兄ちゃんとついでに中谷の幼馴染救出の為の作戦会議の最後。自宅警備員氏は急に知能指数3ぐらいの抜かしたことを言い出した。
乗車席があるのに、わざわざトラックの上に張りつけって?
馬鹿じゃないの?
風圧とかってしってる? 良い病院紹介しようか?
『その私の正気を疑う間抜けなアホ面をされるのは、心底屈辱的だが正気さ。正気も正気、一辺の揺らぎもなく正気さ』
なんだとこの野郎。アホ面とか失礼だな。
『まぁ聞いておくれよ。トラックの中に入ってからだと初動が遅くなるだろう? それに衝撃で開かなくなる可能性だってある。君がトラックの上に張り付いて速やかに制圧するべきだ』
「えぇ……滅茶苦茶言ってるんですけどぉ」
なんというか頭の良い人って色んな行程とか人の限界とかを色々とすっ飛ばすよね。例えるなら百メートル走を十秒で走れるからって、一千メートルを百秒で走れるって考える感じというか。まじブラック企業と同じ。
「北原君、骨は拾ってあげるわ」
「北原! 根性見せなさいよ!!」
「お兄ちゃん、がんばなのれす!」
上から斎藤、四条、幼女ちゃん。彼女達は僕がこれから酷い目合うと言うのに止める気配すらない。これが信頼関係って奴ですか。期待が重いなー(白目)
とまぁ僕としては断固拒否の一択ではあるのだが、ここは環境が悪い。望むか望んでないかは置いておいて僕らのパーティーは男女比率が恐ろしく片寄っている。
そんな少数派の僕に拒否権など有るわけもなく、トラックの上へと追いやられたわけである。
◆
はい、回想終わり。
そして僕は現在、トラックの上で風圧に抵抗しながら張り付いているわけである。
『詐欺師君、衝突十秒前だよ』
無慈悲にも伝えられる死刑宣告にも等しい通告がされる。
同時に轟音と共に骨身に響くような爆発音が膨れ上がった。それも一つじゃない、複数だ。
作戦通り他の無人トラック達は無事にショッピングモールに突撃したらしい。
「なんてデストロイ……」
『さーて今度は私達だ。カウントダウンしてあげよう。五、四、三ーー』
「ちょっまっ!? 心の準備がまだ!? ってぎゃあああああああああ!!!!」
そして僕の虚しい叫びと共に最後のトラックはショッピングモールへと突撃をしたのだった。
え?詐欺師?世界がデスゲームになったけど適性ジョブがどう見ても不遇職な件について 灰灰灰(カイケ・ハイ)※旧ザキ、ユウ @zakiiso09
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