阿久津さんは悪魔が呼びたい

ももたろ

阿久津さんは悪魔が呼びたい

はあ中学二年生になる私こと間中唯は、教室のドアの前で深い溜め息を吐いた。



親の都合で何度も転校を繰り返し、友達は出来ず、気づけばネクラなインキャラ



女子の転校生という美味しいシチュエーションも、自分のがっかりなスペックに潮をひくように人は消えてくだろう


ボブヘアーの旋毛の毛先をクリクリさわりながら呼ばれるのを待つ間ドギマギしていると



ザワザワと騒ぐ教室から沈黙が流れ 「おーい入れ」と先生の声に



私は、また深い溜め息を吐き期待しないで 期待しないでと呟きながら教室の扉を潜った



好機な眼差しを一身にうけ、黒板に名前を書くと自分でもビックリするようなキョドった声で自己紹介した


教室からクスクスと微かな笑い声に赤面していると


担任のメガネをかけた初老の先生は咳払いしたあと


「間中の席は、 あの後ろの窓際だ」


私が、その方向を探すと


「あそこで儀式してる奴の隣だ」



儀式…?目をやると机に黒い布をかけ火のついてないロウソクを両脇に立て中央に水晶玉を置き手を怪しく動かすロングヘアーの細身の小さな女生徒が見えた。


呆気にとられてると


「おーい阿久津!阿久津彩音!ホームルーム始めるぞ あと教室でロウソクを置くんじゃないと何度言ったらわかるんだ」



阿久津彩音と呼ばれた女子はジトとメガネ担任に目をやるとロウソクをリュックにしまい 窓側にプイと顔を向ける



なんなんだ… こんな生徒見たことない 。それに担任も周りの生徒も全く気にしてないし



恐る恐る阿久津彩音の隣に座り 「よろしくお願いします」と声をかけると



私を不機嫌な顔でジロジロ見たあと何か気づいてニンマリ笑顔を見せ



その行動にゾーとしたまま向きなおって前を見た



あっとゆーまにホームルームが終わると 、いつもの転校生あるあるで何人かの生徒が話しかけてくるインキャラには地獄の時間が始まるはずだった…が


今回は違った… 誰も席に近づいてこない



直ぐに答えはわかった隣の席から漂う異様な空気のせいなのだ



振り向くと阿久津彩音は何やらブツブツいいながら何処からか取り出した藁人形にリボンをかけていた



ヒーと心の叫びをあげたあと見なかったかのように、ゆっくり向き直り席を立とうとすると



「フッフッフ転校生これは私からの親愛なるプレゼントだ」


と藁人形に差しだした


「あ、ありがとございます」


正直ビター欲しくなかったが、受けとると阿久津彩音は笑みを浮かべ



「私にはわかっているぞ… お主も私がやろうとしているルシファー様の復活の儀式に気付き転校してきたのじゃろ」



「え?いえ、ち、違います…て、転校は親の仕事の都合てゆうか…あのあの…すいません」



キョドりまくりで否定すると


「なにー!貴様 私を試す気か!」


阿久津彩音は怒りだした



「えー…ごめんなさい ごめんなさい」


と平謝りしてると



「またやってんのかよ」


ショートカットの女子が話かけてきた



阿久津彩音はその顔を見ると、つまらなそうに席についた


「フン天野氏か…なにしにきた」



天野と呼ばれたショートカット女子はカラッとした笑顔を見せると



「転校生がお前の隣の席になったって 、うちのクラスの女子から聞いて心配で来てやったのさ」


そう言うと阿久津彩音の前の席に座ると


「あなたが転校生?」


「はい…間中唯と言います」


か細く挨拶すると



「ああ、あたしは隣のクラスの天野今日子。 この変態とは幼なじみでさ、困ってると思って」



(なんとも陽キャラで体育会系女子…その友達が怪しげな女子 、凄いギャップ…)



「間中氏は何も困ってはおらぬ。私の儀式を手伝いに、わざわざ転校して来たのじゃ」


阿久津彩音はニヤリと笑うのを


「えー!いや私は…」


「ほら困ってんじゃねぇか !ゴメンな間中さん 。こいつは悪魔呼びだそうとバカなこと考えてる、ちょー変わりもんでさ」



「ただの悪魔ではない ルシファー様だ !今までは失敗を繰り返してきたが今回は大丈夫だ。なぜなら間中氏がいるからな」



「えっ?私が」



「そうだ!フッフッフ天野氏も、 その目で見たいなら放課後に理科準備室にきたまえ」



「はあ?嫌だよ、 そんな無駄な事するより 今度のソフトボール部の試合へ応援来いよ。あたしの華麗なバッティングみせてやるよ」


と手をぐるんと回した



「フンその方が無駄な事だ」


阿久津彩音の言葉に天野今日子は呆れた顔をみせ


「ゴメンな間中さん。こんな変わりもんだが よろしく頼むよ」


そう言うと帰っていった


はあ…と頷いたあと ハッとした!私は放課後に彼女の手伝いをしなきゃならないのか?と


「…あの阿久津さん」


と私が声をかけると


「放課後まで集中したい!悪いが間中氏 、話かけないでくれ」



そう言うと彼女は何やらブツブツ言いながら手を怪しく動かしはじめた



隣の怪しげな生徒に翻弄されたまま気付けは放課後になっていた


朝のホームルームあと気づけば誰とも話していない



転校先でボッチになるのは慣れていたが 最短時間更新である



「さて行こうか間中氏」


阿久津彩音は立ち上がると小さな身体に似合ぬデカイリュックを背負い有無も言わさず教室をあとにした



慌てて追いかけ


「あ、あの阿久津さん 私、悪魔を呼び出すなんて…そんなの出来ませんよ」


と必死に訴えたが、彼女はニンマリ笑いながら


「フッフッフ 間中氏は秘密主義なのだな。 わかっているぞ! みなまでゆうな… しかし今日は協力してもらうぞ 、力がみなぎってきておる」


阿久津彩音は興奮したまま小さな体いっぱいで手を広げた。



まいった…話て通じる人じゃない…今まで転校の繰り返しで、空気を読む力は人並み以上に自信はあった、


それなりの距離、それなりの態度をとり誰からも好かれないが、嫌われない人間にはなれていたが


この阿久津彩音は…そんな考えや行動が通じるタイプではなかった。


しかし…ある意味 、羨ましくもある誰の目も気にせず自分に真っ直ぐだ



「あ、あのー阿久津さんは何故 悪魔を呼び出したいんですか?」



「悪魔ではないルシファー様だ」


ギョロりと睨まれ


「すいませんすいません」


と私が謝ると


「昔…我が家に教典があってな」


「教典?」



「…天野氏はホラー漫画だと否定したが、あれは教典じゃ。その教典にルシファー様が書かれておった!天界を追われサタンとなったルシファー様 。その生きざまに我は感銘を受けたのじゃ…それ以来、我はルシファー様復活に日々鍛練を重ねておる」



「へーどんなのですか?」


「フッフッフ 聞きたいかね」


阿久津彩音は振り向くと腕組みし、私は唾を呑み込んだ。


「あらゆる悪魔の本を手に入れ読んでおる。たとえば水木しげる御大の悪魔くん、古賀新一先生のエコエコアザラク、そしてあのトラウマになるだろう藤子A先生のうらみ魔太郎…もちろん修正前のじゃ」



「はあ…」


どや顔で語る彼女は私の冷めた反応に慌てたように


「うっ…他にも魔女の宅急便やブレアウイッチプロジェクトとか怖くて半分も見れなかったが色々ホラー映画から悪魔ジャンルを探し見たり…」


「はあ…」


「あとあと、非情さを手に入れるために、はじめてのお使いを見ないとかオリンピックで応援しないとか、サッカー日本代表を見ないとか…」


ハアハアと追いつめられる阿久津彩音を見て私は我慢出来ずに笑ってしまった


「な、な、ななにがおかしいのじゃ」



「ごめんなさい ちょっとかわいいと思ってしまって」



「か、かわいいじゃと我の辞書から削除した項目じゃ!間中氏 、その言葉は撤回を要求する」



「はい!すいませんすいません」


必死に謝ったあと振り返った彼女に気づかれずにクスッと笑みがこぼれた。


なんともかわいい悪魔の修行に思わず笑ってしまったが、



こんな素直に笑ったのはいつぶりだろう …だいぶ変わった女の子だが、 少し彼女に協力してみようかな。 私はそんな気分になっていた





彩音さんは二階にある理科準備室の前で止まるとリュックから鍵をとりだし



「合鍵は準備済みじゃ」

と笑った


「えーバレたらヤバいんじゃないですか?」



「間中氏! 悪事を恐れるとはルシファー様に恥ずかしい行為じゃぞ」



「すいませんすいません」



「フッフッフ安心したまえ、この時間は部活などで二階はだいたい空になる」



彩音さんは鍵をあけるとキョロキョロしながら中にはいるのを見て



私は彼女以上にキョロキョロしながら後を追った。


彩音さんはリュックをおろし分厚い本を取りだし



「間中氏 黒板からチョークを持ってきてくれたまえ」



私は言われたままチョークを取って彩音さんに渡すと本の中にある魔方陣を床に書きはじめ


「いよいよルシファー様が甦るぞ」



彼女はニヤニヤ笑いながら書き終えた魔方陣を眺め



「さあ間中氏、この中に」



予想外に本格的な準備に私は緊張しながらコクりと頷き魔方陣に入ると彩音さんは四方にロウソクをたてた



「火はつけないんですか?」



私が疑問を投げ掛けると



「スプリンクラーが作動してしまうんじゃ。前に水浸しなっての…まあロウソクは気分じゃ」


そんなものかと私が眺めていると



「よし始める」


彩音さんはそう言うと



「エロイムエッサイムエロイムエッサイム我は求めうったえる」


そう呪文を唱えはじめた



そしてマッチ針を取りだし



「さあ間中氏 、その血を魔方陣に」



「ええ!?そ、それはちょっと」



「何を言うておる!わざわざ転校してまでルシファー様を甦させるためにきたというのに」



「それは阿久津さんの勘違いですよ~それに阿久津さんがやればいいじゃないですかー」



「…私は痛いのも…血も苦手なのじゃ… たのむ間中氏」



私と彩音さんがマッチ針の渡しあいしてると勢いあまって理科準備室の薬品の棚にぶつかり煙があがった



コホコホと二人が咳き込むなか


「お前ら!なにしてる」



と怒りの形相した顔が出てきた



「おールシファー様じゃ!甦ったぞー」



彩音さんは歓喜の声をあげると



「バカもん!まーた阿久津か!いい加減にしろ」



煙から出てきたのはら担任のメガネ先生だった…


私と彩音さんは2時間説教されたあと理科準備室を掃除させられ反省文の提出まで言われた


帰宅中ガックリと肩を落とす彩音さんに私はクスッと笑い



「阿久津さん残念だったね」



「間中氏がヘタレのせいじゃマッチ針で刺すくらいで暴れおって」



「阿久津さんだって、痛いの嫌だからて私を身代わりにするなんて酷いですよ」



「フン!次こそじゃ。次こそ成功させるぞ間中氏」



「えーまだやるんですか?」



「当たり前じゃ」


「…痛いの無しならいいですよ」


私が笑うと彩音さんは


「まかせておけ手はいくらでもあるからな」


そうニンマリ笑ってみせた




とんだ転校初日だったが 私は変わりものでへんてこな可愛いクラスメイトができた。


そして、これから始まる不思議な世界の扉が開いた気がしてならなかった



つづく




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