第6話 迷宮事件

 駐在所は村の真ん中、屋台がたくさん並んでいるあたりにある。

源三郎(通称ゲンさん)は、僕が子供の頃からずっといてくれて

いわば村では、何かあればゲンさんを呼ぶほど。村の顔だ。

今も変わっていなければ、駐在所の机に肘をついてたばこを吸ってるだろう。


 「こんばんは。ゲンさん、いますか?」

 

 「ん、その声は...金田のぼうずか!?」


 タバコと酒で潰れた声が、なんだか懐かしい。

ゲンさんは僕を見るなり近づいてきて、頭をわしわしと撫でた。

相変わらず手が大きくて暖かい。僕は涙が溢れそうになる。


 「何だおめぇ、ずいぶんと大きくなったじゃねぇか!

  酒は飲める様になったか?んん?」


 「ゲンさん、僕まだ未成年だから...

  それにそれをゲンさんが言っちゃ駄目だと思う」


 ゲンさんの『お酒が飲める様になったか』は

もはや彼の口癖なのか、二言目には絶対に聞いてくる。

4年経った今でもそれは変わらないようだ。


 「がっはっは!そうかそうか、そりゃすまん!

  ...で、どうしたこんな時間に」


 「こんな時間に突然すみません。

  実は4年前の事件のことについて聞きに来ました」


 それまで笑顔だったゲンさんの表情が、一瞬硬くなった。

ゲンさんは僕の目を見据えると、ゆっくりと言葉を選ぶ様に話しだした。


 「4年前...湖から女生徒の遺体が見つかった、あの事件じゃな。

  忘れもせんよ。よく覚えておる。謎が多い事件じゃったからな

  とはいえ...主な捜査は県警の刑事がやっとったから

  詳しい事は分からん。わしが分かるのは...

 『被害者の死亡推定時刻』と『第一発見者』のことぐらいじゃ」


 僕はゲンさんの話を聞きながらメモを取った。

少しでもまゆみが死んだ謎に近づけるような気がする。

はたから見ればダサイ探偵ごっこのように見えるかもしれない。

が、僕はそれでも知りたかった。まゆみの死に納得がいかなかったから。


 「被害者、小野まゆみが死亡したのは『8月13日の夜』じゃ。

  死亡推定時刻はだいたい20時から23時の、それが警察の見解じゃった。

  そして遺体が発見されたのは8月14日の早朝、第一発見者は

  湖のほとりにあるラーメン屋『よってけ屋』の店長じゃ。

  遺体発見時の状況を詳しく聞きたいのならよってけ屋を訪ねてみるといい」


 よってけ屋という場所は僕も知っている。麺が細めか太めか選べて

スープが濃ゆくて美味しい。とにかくチャーシューがでかくて分厚い。

たしかまゆみのお兄さんがそこでバイトしているって言ってたな。


 「色々教えてくれてありがとうございます」

 「なんのなんの、こんなのしか情報提供出来なくてすまんな」


 その時、外で0時の合図である鐘が鳴ると同時に

僕の周りが真っ白な何かに包まれていく。これは一番最初に

灯台で呼び出された時の感覚とよく似ている。僕はまた繰り返すのだろうか。

ゲンさんの顔がどんどん霞んでいくのが見えて―――

 

 ”ねぇ、知ってる?”


意識が完全に落ちてしまう瞬間、まゆみの声が聞こえた...気がした。

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君は笑顔でそう言った 明日香 @asuka0630

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