ひとつの人生と複数のレール

珈琲みるく

第1話 壊れたブレーキ

父は、びくびくとして、顔を俯かせたままである。


何か言いたそうではあったが口をパクパクしたままオドオドしている。




「悦子、よかったな。これからはお父さんのそばで暮らせるんだ。


本当に、よかった、よかった。」


おじさんが満足そうに言う。


「あなた、それ本田さんがおっしゃったの?」


驚いた顔で叔母さんが聞く。


「いや、自然の流れだろう。本田さんだってこうして訪ねてきたわけだ、


その気がないのであれば来ないだろう。」


叔母は、あぁそうかといったような顔で黙り込んでしまった。




私はただ、ただ、大人たちのやり取りを聞いているしかなかった。


子供には、自分のことであっても選択権はほとんどない。


いい方向に話が進むことを願うばかりである。




「でも、本田さん。今の環境はどんな感じですの?」


 


叔母が深刻な顔でぼそっと聞く。




「悦子と、同い年の小学校3年生の女の子のがいまして


その子は母親と2人で暮らしています。


私は、2人の所に行ったりもしますが…


ちゃんと会えています。」




「はい?ちゃんと会えているってどういうことでしょうか?


一緒に暮らしていないのですか?」




父に噛みつくように叔母は尋ねた。




「ええまぁ、、今は一緒にいないといいますか、 


ちゃんと会ってはいるんですが、これからの事もありその…」


答えにオドオドしていた父に、


「本田さんは、悦子を迎える準備をしてくださっていたんだよ、


妙な言い回しをするから、文江がびっくりするだろう」


はははっ。


と笑って、おじさんが言った。


「それならいいけど、会えてるなんて言うもんですから。。


一緒に暮らしていないみたいな言い方するから驚いたわ。」


申し訳なさそうな顔をした後


「悦子は私にとっても可愛い姪です。もう、


本田さんを頼ることしかできませんので。


どうぞ宜しくお願い致します。」


手を揃えて父にお願いをした。

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ひとつの人生と複数のレール 珈琲みるく @coffee-beans07

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