『流星の夜』-第1話-「鈴」

駆刃@Karuva

『流星の夜』-第1話-「鈴」

 …真っ暗だ。


 ぼくが、眼を覚ましたのは真っ暗な場所。

正直、ここが現実の空間なのかどうかさえも わからない。

気が付いたら此処にいた。どれだけ時間が経ったのかも わからない。

何故、ここに居るのか…直前まで 何処に居たのか…

そして…ぼくは…ぼくは…


 …一体、誰なんだろう。


 ぼくは、何も わからない。

此処が何処かなのかも…自分が何者なのかも。


 どれだけ時間が経ったのだろうか 暗闇に眼が慣れてきた。

パックリと裂けた天井から とても弱い光が差し込んでいる。

その光景で 此処が『どこかの部屋』だという事が わかった。


…とりあえず、探索してみよう。


 光が差し込んでいると言っても 極々微かなモノで

何処に何があるのかまでは わかならい。

ぼくは、とりあえず 光が差し込んでくる天井の裂け目の下まで

行ってみることにした。


 そこには、何か大きな機械とその機械から裂け目に向けて

伸びるパイプ状の物があった。

その機械とパイプは ぼくよりも遥かに大きい。

わかるのは、大きいということだけ。

何の為の機械なのかは ぼくには わからない。


 …何かわかるかと思ったけど 何も わからないや。


 此処が『どこかの部屋』なのは確かだ。

ぼくは、壁に沿って歩くことにした…

もしかしたら、壁の何処かに出口があるかも知れないと思った。

微かな光が届かない所に壁があった。

壁があることで わかるのは左右。

壁が無ければ右も左も わからない程の暗闇。

そして、僅かだけど左から空気の流れを感じた…


 …よし。左に行ってみよう。


 ぼくは、自分の右側に壁をおき

手や体を壁に沿わしながら空気の流れが感じられた方向に

ゆっくりと歩いて行った。

どれだけ、歩いたかは わからないが

壁の先から空気の流れが 確実に風に変わったのがわかる。

更に、手探りで進んで行くと 壁が途中で途切れている。


 …出口?


 ぼくは、そう思い 途切れた壁の向こうにゆっくり顔を出した。

そこは、真っ暗な通路で 奥から明かりが漏れている。


 …誰かいるかも知れない。


 ぼくは、ぼく以外の存在があるかも知れないことに安堵した。

ぼくの足は少し早くなり、通路の先の明かりに向かって進んでいく…


 …ここは…


 ぼくが、眼にしたのは 天井が崩れ落ちた部屋だった。

屋根のない部屋からは 夜空の星が輝いているのが見えた。


 …やっぱり、だれもいないや。


 その部屋は、小さな小部屋で月明かりで

大体の状況が わかる。

何かの専門書の様な本が びっしりと並んだ本棚と

小さな机と対になる一脚の椅子…恐らくは、書斎だろう。

床には崩れ落ちた 天井の瓦礫がバラバラと散乱している。


 …なんだろう?これ。


 ぼくは、机の上にある開かれたままのノートに眼を向けた。

ノートは書きかけの状態で その文章を読もうとしたが

ぼくには、読めなかった。

 

 …ダメだ。わからないや。


 ぼくは、状況が把握できないことも自分が何者かも わからない

更には、文字も読めない状態である。

それは、記憶喪失なのか…それとも、元々 文字が読めないのか

それさえも わからない。


 …ん?今、何か光った?


 崩れた天井の瓦礫の間に 何か光るものがある。

ぼくが、瓦礫の間を覗き込んでみると 金色に輝く何かがある…

手を伸ばし それを引き寄せると

金色の鈴が付けられた白いベルトだった。


 「…チリン」


 ぼくは、軽く1回鳴らしてみた…

 

 「…にゃぁ」


 すると、どこからともなく 微かに猫の鳴き声が聞こえた。


 …一体、何処からだろう。


 何処かに、猫が居るのは確かだ。

そして、何気なく もう一度 鈴を鳴らしてみた…


 「…チリン」


 すると、今度は鈴の音に答えるように

 「…にゃん」

 猫の鳴き声が聞こえた。


 …よし。見つけに行こう。


 ぼくは、金色の鈴を持ち 猫の鳴き声が聞こえる方向に

歩き始めた。

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