合致率100%粒子人間たちの会合

ちびまるフォイ

歪みを受け入れられない人たち

人間が粒子になったのは人類にとって大きな一歩であると思う。


(素材が足りないなぁ……ちょっと現地行ってみるか)


脳内に行き先をイメージする。

目的地の海外では粒子が一定の割合に合体し自分の体を構成する。


この間、1秒にも満たない。


「瞬間移動成功っと」


海外の有名な大聖堂の前に移動していた。

記念写真を取ろうとしたときに、何も持っていないことに気づいた。


カメラをイメージすると、空間に飛散している粒子が寄り集まって「カメラ」を構成した。

旅でバカ重い荷物を迷惑がられながらキャリーケースで運んでいた時代もあったのかと思うと、本当に痛みいる。


「はいチーズ」


大学レポート用の写真を撮影する。

撮影した写真は粒子分解し、同じ粒子の構成を大学研究室に送る。


研究室に飛散している粒子が同じ構成で寄り集まって、同じ写真になる。

転送終了だ。


「さて、これからどうしようかな」


大聖堂の周りには観光客向けか屋台がいくつか並んでいる。


人間が粒子化してから食事は一部の「好きな人」だけの娯楽になっている。

人体の粒子構成を作る際にエネルギーを入れればいいだけだ。


あえてエネルギーの粒子を抜き、「空腹」にして食事を楽しむ人もいる。


「必要もないのに動植物を狩るなんて、残酷な前時代人間だなぁ……」


あらかたの観光名所をワープで回ってから研究室に戻った。

研究室では自分が転送された写真をもとにレポートを仕上げていた。


粒子人間であれば同じ人間をいくらでも、どの場所にでも構成できる。

クローンなんて回りくどい技術もあったみたいだが、完全に同じ人間で同じ思考構成を持つ粒子人げのほうがずっといい。


「お、帰ってきたのかね」


「教授。お疲れさまです。同じゼミの山田は?」


「山田くんかね。いや……実はちょうど粒子警察によって捕まっちゃってね」


「え? なにかしたんですか?」


「彼、実は56歳だったんだ。女子大生といちゃいちゃしたいがために、

 自分の粒子年齢構成を偽って自分の若い頃を構成していたのがバレたのだよ」


「一番かっこ悪い捕まり方ですね……。そういうことする人よくいますけど……」


「今回のレポートは君ひとりとなるわけだが、できそうかね?」


「それなら問題ありませんよ。もうほぼ完成です」

「それは結構」


「あ、山田のことニュースでやってますかね?」


粒子を構成させてテレビを作った。

研究室は密室で含有粒子量も多くはないので、あまり粒子を使うと粒子ブレーカーが落ちる。


「……やってないですね」


「まあ地方のしょうもない事件だからね」


テレビを粒子分解しようかと思ったときだった。


『緊急ニュースをお伝えします。

 さきほど、粒子研究所の実験トラブルにより待機中の粒子が汚染されました!!』


「きょ、教授!」

「なんじゃと!?」


『現在、粒子で形となっているものに問題はありません。

 しかし今後粒子から生成したものについては汚染による影響が出ます!』


「教授……これ何が問題なんですか」


「大問題だ。たとえば君がさっきのように海外へ粒子移動したとする。

 しかし、移動先の君と、この研究室にいる君とでは異なる場合がある。

 一度粒子から再構成された人間は汚染されて構成比率が異なる可能性があるからな」


「でも……構成比率が大きく変わると別人になるわけで、

 自分が粒子構成されている時点で、ちゃんと自分自身になるのでは?」


「ばかもの! 1%でも自分と違う自分は、自分じゃない!」


「なにをそんな厳密に……」


「君は、別の場所に出現したできそこないの自分によって

 自分の権威が傷つけられると考えないのか!!」


「そりゃそうかもですけど……」


俺には教授の心配が理解できなかった。


今まではいくら粒子で再構成したといっても思考から体まで全部同一の自分。

だから別の場所で学会で発言していても、同じ時間で別の場所でセミナーを開いても、内容がズレることはなかった。


汚染されたとはいえ、構成比率の変動は大きなものではない。

今の自分と0.001%異なる自分が別地点にいても、それは「差」として受け入れられる気がする。


けれど、教授の考えを指示する人も出てきた。

通称「潔癖主義」と呼ばれるようになる。


「粒子移動を廃止しろーー!!」

「廃止しろーー!!」


「自分は唯一無二の存在であるべきだーー!」

「あるべきだーー!!」


「昔のように実在の物を製造しろーー!!」

「製造しろーー!!」


休日には手作りプラカードを持った集団がごった返すようになった。


「教授、なにやってるんですか。昔の生活に戻るなんてありえないですよ」


「ありえないのは君のほうだ。今や世界では粗悪な自分が戦争を起こす可能性だってあるんだぞ」


「どうしてちょっとだけ違うのを受け入れられないんですか。

 昔のように自然を失い動物を殺して、食事と睡眠と排泄をするつもりですか!」


「君のようになんの責任もない人間にはわかるまい。

 異分子を含む自分が存在するということの恐怖が!!」


教授に敵対する危険人物と思われたのか集団が襲ってきた。

慌てて別地点に自分を構成し直して粒子回避する。


「奴め! 粒子移動しやがったぞ!」

「再構成のときに異分子含んでいるかも!」

「あんなやつの存在なんか消してしまえ!」


「ちょっと落ち着いてくださいよ!」


潔癖主義の人たちは粒子移動をしなくなったので逃げるのは簡単だった。

このままではまずいと俺は偉い人に時間談判した。


「この国を見てください! せっかく粒子移動できるようになったのに、

 今じゃ昔の生活に戻そうとみんな必死になっている! おかしいですよ!」


「しかしねぇ、再構成の際に自分じゃなくなる可能性もあるわけでしょう。

 だったらまた昔のように物をやりとりしていた頃に戻ったほうが良い気も……」


「あのときは今よりも人間同士のつながりがありましたしなぁ」

「わしは昔のように車を運転したいですなぁ」

「昔のように酒盛りもできるかもしれませんな」


「もういいですよ!! 俺がまとめます!」


絶え間ない抗議を続けた結果、ついに話はまとまった。


「……ということで、自分を粒子構成して合致率99%以上なら自分とする。

 99%未満の場合は自分じゃないものとして扱うとします」


「むむむ。しかし、残り1%で差分が出た自分により

 なにか悪さするかも知れないという可能性がないわけではないということも……」


「教授、後ろめたいことでもあるんですか。

 1%程度の粒子差分なら人間はそう変わりませんよ」


「ぐぬぬ」


「それにこれからは人間成分表の表示が義務化されたわけですし、

 悪い成分が多く含まれている人はその時点で悪い人とわかります。

 犯罪も減って一石二鳥じゃないですか」


「……わかった。成分を開示しよう」


教授は実体化している自分の体の成分比率、いわば自分設計図を開示した。

それを下に成分表を作成する。


「協力ありがとうございました。これから記者会見します。

 あ、でも教授は結構ですよ。粒子コピーした教授を使います」


自分が作った成分表をもとに教授を粒子から再構成する。

合致率は100%。


再構成されたものを見て教授は目を見開いた。


「き、君! 待ちたまえ! なんだねその成分は!?」


「……どうかしたんですか?」


「その人間成分表は私ではない! 心の構成比率が違っているじゃないか!

 君、まさか私の人間成分表そのものを改ざんしたのか!?」


「ああ、これですか」


俺は教授に向かって微笑んだ。



「だって、心に悪意が2%含まれていないバージョンのが良いじゃないですか」



俺は新しい教授に成分表を与えた。

ほかはすべて偽物になった。

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