故郷から追い出され、パーティからも追放された魔法使い、最強剣士として覚醒する

しのこ

第1話

 僕たちの冒険者パーティはクエストである大量発生した大型昆虫のモンスター討伐で山に訪れていた。


 普段は木々が生い茂る自然豊かな山で、近くには湖もあって観光なんかにも使われているところだ。

 そんな場所に昆虫が大量発生しているせいで、多くの人が迷惑をこうむっている。


 そんな危険な山を登ってしばらくたっているが、なかなか大量発生したと言われているモンスターに出会うことがない。


 聞いていた話ではあらゆるところに大型昆虫がいて、山にいるものすべてを食い荒らしていると言っていたんだが、そんな話が信じられなほど山はシンと静まり返っていた。


「アルク、てめぇ先を見て来いよ」


 モンスターの影一つすら見つからないので、パーティのリーダであるグランも探すのが嫌になってきたらしい。乱暴な口調で僕に命令した。


 僕の所属しているパーティは魔法使い4人で構成されており、武具は軽めのが多いがみんな動くのを嫌がる。

 僕はパーティの中で一番魔法が使えなく、新入りということもあってこんな命令はしょっちゅうされていた。


「さっさと行け!! たらたら歩いてるんじゃねぇよ!!」


「わ、分かった」


 僕が歩き出そうとすると、グランは癇癪をおこして僕のことを怒鳴る。

 パーティメンバーも怒られる僕のことを見てクスクスと笑った。


「何かあったら呼んでよねぇ。無名無能のアルク君」


「ふふっ。私たちが眠くなる前に見つけてきてね? 見つけられなかったらお仕置きだから」


 グランにあわせるように、女性メンバーのアイミとエリカが僕のことをあざ笑う。

 この二人はグランにべったりで、僕のことをいつもいびってきていた。


「ちんたらしてないでさっさと行って来いよ」


「みんな揃ってそんな言わなくても……」


「うるせぇ! 俺たちに口答えするんじゃねぇ!!」


「はい……」


 近くにあった岩場にグラン達が腰を下ろす。

 どうやら、目的の大型昆虫たちを僕が見つけるまでのんびりする気らしい。


 見つけないで戻ってくる、なんてことは許されないので、僕がその場から離れようとした時だった。


「グガァアアアアアアアアア」


 突如、近くから何かの叫び声のようなものが聞こえてきた。

 これまで静かだった山に、突如として響く声は反響し、はるか彼方まで届くのではないかと思わせられるほどに響いた。



「グラン。これ、なに!?」


「知らねぇよ! こんな声聞いたこともねぇ」


 とてつもない音に、僕以外のパーティメンバーも動揺を隠せていない。

 僕も冒険者を始めてから、こんな大きな声を聞くのは初めてだった。


「ちっ。楽なクエストだと思って受けたのにトラブってんじゃねーか。報酬は倍もわらねーとな」


「そうだねぇ。まぁ、私たちならあっさり倒せるんじゃない?」


 僕の所属しているパーティ”魔極”は周りからはそれなりに優秀とされているパーティだ。

 魔法使いのみの構成にもかかわらず、あっという間にモンスターを倒していくのは本来なら異端らしい。


 剣士が必要のないほど圧倒的な火力がうらやましいと何度かグランが声をかけられているのを見た。


 今までたいした苦労もせずにモンスターを倒してきた経験からか、トラブルになっていることも大した弊害と感じていないのか、グランは腰をあげ、声がしたほうに向けて強力な雷撃を放つ。


「グルァァァアアアアアア!!」


 目視できていないが、どうやら攻撃は当たったらしい。

 魔法を放った先から先ほどと同じように声が聞こえてきた。


「ちっ。生きてんのかよ。めんどくせぇな」


「今ので生きてるって結構やるじゃん。最近は退屈なモンスターばっかり相手にしてたから楽しみぃ」


「ねー。少しは楽しませてくれるといいなぁ」


 グランの攻撃を耐えきったことにも大して驚きもせず、三人は余裕の表情だ。


「アルク、てめぇが見て来い」


「は、はい……」


 グランに様子を見に行くように指示を受けたので、雷撃を放ったほうに向けて進む。

 グランの魔法によって木々が丸焦げにされたことで、道が切り開かれており、先までかなり見通すことが出来る。


 ただ、進んでみたがその先にモンスターらしき姿はない。

 一直線に雷撃の跡が続いているだけだ。

 しかも、雷撃の被害は途中で止まっており、その先は何もなかったように木々が生い茂っている。


 おそらく、雷撃の直撃を受けたモンスターがいたんだろう。

 だからこそ奥の木々は雷撃の影響をまったく受けていない。


 だったら、グランの雷撃を受けたモンスターは一体どこに消えたのだろうか。

 さきほど叫び声が聞こえているので消滅したという可能性はゼロだ。


どこかにモンスターがいるのは間違いない。


バサッ! バサッ!


「いや……、まさか」


 確かに地上から声が聞こえていたはずだが、なにやら上からバサバサと音が聞こえる。


 僕はおそるおそる空を見上げると、そこには大きな翼をはばたかせる巨大なドラゴンは僕のことを鋭い眼光で睨みつけていた。


「うっそでしょ!!」


 あんな巨大な生物に勝てるわけがない。

 サイズは20メートル以上あり、明らかに普通の人間が相手にして良いようなサイズ感を超えている。


 一目散に逃げだし、グランのところに戻ってすぐに報告した。


「グラン、まずい! ドラゴンだ。さっきの叫び声はドラゴンだったんだよ!!」


 あわててグランに説明したが、僕の発言はグラン達に鼻で笑われた。


「こんな山にドラゴンなどいるものか。奴らは巨竜山脈にしか生息していない。それに、こんな街の近くまできていればもっと騒ぎになっている」


「ふふっ。そんな脅しでグランのこと馬鹿にしてるんじゃない?」


「グランの慌てた顔が見たかったのかもね。いつもパシられてるし」


ドラゴンといえば神話にも出てくるような強力なモンスターだ。


 確かに、ドラゴンがいたなんて話はおいそれと信じられないのは分かる。

 ただ、すぐ近くにその最強生物がいるんだ。信じてもらわないと困る。


 このままだらだらしていればパーティの全滅は必至。

 いくらグラン達がすぐれた魔法使いとはいっても、ドラゴンを倒せるとは到底思えなかった。強く進言したが、僕の意見では全員の意見を変えることはできない。


 ドラゴンをいること見せたいが、おそらくあいつは雷撃を食らって相当怒ってる。

 さっき僕を見た時の目は尋常じゃない怒りを感じたし、間違いなく見つかったら終わりだろう。


 あれ、僕見つかったよね…?

 確かに、僕はドラゴンと目があっていた。


「グルァァ!!!」


 そう思った時には遅かった。

 空からドラゴンか降りてきて、僕たちの前に巨大な音を響かせて着地した。


 やはり相当頭にきているようで、口からは炎を吐きながら血走った目で僕たちのことを見ている。


「う、うそだろ……? マジでドラゴンじゃねーか」


「グラン! どうするの。こんなの、勝てるわけないじゃない!!」


「逃げよ。はやく逃げよ!!! 無理無理無理無理無理!!!!」


 ドラゴンの姿をみた瞬間に全員の意見が一致し、そろって下山を開始する。

 命の危機ということもあってか、全員がこれまで見たなかで最高速度だ。


 いつも余裕綽綽なメンバーだが、ドラゴンが相手ではそうはいかない。

 そういう僕も必死に山を降りていた。


 ただ、巨大なドラゴンからそう簡単に逃げられるわけもない。

 急いで走っていたはずなのに、ドラゴンが一回はばたいただけで僕たちは簡単に追いつかれた。


「くそっっ!! アルク、てめぇ囮になれよ。俺たちのために犠牲になれ」


「そうよ。今まで面倒見てあげてたんだからここでこそ役に立ちなさい」


「早く止まって。私たちのために」


「いやだよ!! こんな化け物を相手にしたら死ぬに決まってるじゃないか!!」



 全員死にたくない。その気持ちは一致だ。

 ただ、グランが発言したことで僕以外の意見は全員一致した。


 ドラゴンから自分が逃げるために、僕のことを囮にする。

 ただ、そんな意見に僕が従うわけもない。これまで冒険をともにして、分かち合った仲間ならともかく、散々ひどい目にあわされてきた連中だ。


 僕を最初に拾ってくれたから同じパーティにいるものの、そんな奴らのために命を張ろうとは到底思えなかった。


「ちっ! 言うこと聞かねぇなら仕方ない。束縛魔法-バインド-」


 全員が全力で下山していると、グランが僕に魔法を放つ。

 これは、10秒間相手の動きを止める束縛魔法だ。


 こんな魔法を受けると思っていなかった僕はグランの魔法によって動きを止められる。


 たかが、10秒動きを止められるだけだが、この局面において10秒はとてつもなく大きい。


 僕は全員から置き去りにされ、あっという間にドラゴンの餌としてパーティから切り捨てられた。



「いやだいやだいやだぁ!! 助けてくれよぉぉぉ!!」


「てめぇは最高の生贄だったと街の人間に伝えてやるからよぉ!!」


「さよならアルクぅぅ!  あっちの世界でも元気でねぇ!!」


 僕の叫びをあざ笑い、三人の姿はすぐに遠くなっていく。


 そして、僕はすぐにドラゴンに追いつかれた。


 ドラゴンと初めて目があったのは僕だった。というのもあるだろう。

 ドラゴンはいまだに離れている”元”パーティメンバーたちに目を向けることなく、動きを止めた僕の前に立つと動きを止めた。


 グルルと怒りのこもった声をあげ、いきなり動きをとめた僕のことをいぶかし気に様子をうかがう。


「やだ! 死んでたまるか!!」


 グランにかけられた束縛魔法はすぐに解除されたので、ドラゴンから少し距離をとる。

 こうなってしまっては逃げるのはただの悪手にしかならない。


 おそらく、僕が背を向けた瞬間にドラゴンに殺されるのは間違いない。

 僕はこの化け物と戦うしかないのだ。


 勝機があるとは到底思えないが、僕が使える最強の魔法を発動し、ドラゴンにぶつける。


「攻撃魔法-リミットファイア!!」


 僕が指定した対象を中心に爆発を起こす魔法だ。

 中位程度のモンスターなら致命傷を与えられる威力があるが、どうだろうか……。


ドンっ!!!


 僕の魔法によって轟音とともにドラゴンが砂煙に包まれる。


「やったかっ!?」


 僕はじりじりと下がりながらその様子を見ていたが、砂煙の中から平然とした顔でドラゴンが僕のほうにゆっくりと進んでくる。爆破させた箇所をみても、傷は一切ついていなかった。


 僕が思っていた以上にドラゴンの鱗は硬く、打ち破るのは難しかったらしい。

 今のが僕にとって最強の魔法だったので、あれが簡単に打ち破られたということは僕に魔法でこのドラゴンを打ち破る手段はない。


「くそっ! くそっ!!」


 何か、何かこいつを打ち破る手段はないのか。

 自分がいままで培ってきた経験を総動員し、対応を考える。


「やるか。やってみるか」


 魔法が通用しないなら、物理でやるしかない。

 僕には一度だけ、ドラゴンに物理でアタックする作戦を考えた。


 パーティには魔法使いということで入れてもらったが、僕は幼いときは剣を使ってモンスターと戦っていた。それが通用するとはなかなか思えないが、魔法が通用しないと分かった今、他にドラゴンと戦う手段はない。


 ただ、当然ながら山の中に剣なんてあるわけがない。

 仕方ないので、近くの木に生えている枝を折り、バフ魔法をかけて枝をひたすらに硬くなるように強化する。


「グルァァ!!」


 俺に何度も攻撃されたと思っているドラゴンは怒り心頭だ。

 何やらわけの分からない動きをしている俺に最初は戸惑っていたが、その効果もついにとけた。


 勢いをつけて、俺のところにドラゴンが飛び込んでくる。


「あれ、なんか思っていたよりも遅い?」


 見た目に恐れて逃げるのに精いっぱいになっていたが、ドラゴンの動きは思っていたよりも遅い。

 これなら村で戦っていたモンスターたちのほうが幾分か速かった。

 飛び込んできたドラゴンの攻撃を半身ずらしてかわし、枝でドラゴンの頭をたたく。


 ドンッッッ!!!!


 僕が枝でドラゴンの頭をたたくと、爆音とともにドラゴンの頭は地面にたたきつけられる。

 何か動きがあるかと思ってドラゴンから離れてしばらく様子をうかがっていたが、何やら動く様子はない。


 僕は木の枝でドラゴンのことをつついてみたが、どうやらドラゴンは絶命しているようだった。



「あれ? ドラゴンってこんなに弱いの?」


 見た目で怖いと思って逃げてたけど、ここまで弱いとは思ってもいなかった。

 これなら村の近くにいたモンスターたちのほうが何倍も強い。


「これ、もしかして剣を使えばもっと強いモンスターも倒せるんじゃない?」


 僕がいた村では、僕は剣を使ってもほとんどモンスターを倒せず、魔法と剣を駆使して戦ってきた。

 ただ、パーティに所属してからは魔法しか使っていない。


 パーティの構成上そうならざるを得なかったわけだけど、もしかしたらそれは間違いだったのかもしれない。村の人達がやたらと強かっただけで、僕が剣を使えば外の世界では通用する?



「やってみよう。もしかしたら世界が開けるかもしれない」


 まさか、外の世界と村でここまでレベルに差があるとは思ってもいなかった。

 パーティからは追放されてしまったわけだけど、この冒険で得られたものはとても大きい。


 これから、いろいろ試していこう。

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