第12話 12

「神、ですか……」


「あぁ、お前はどうかは知らないがこっちの世界に連れてこられるときに大抵は出会うらしい。かく言う俺もここに来る前に会ったが何も喋ってない。ただ、あいつの顔が歪に歪んでいたことははっきり覚えている。あれは人を見下し自分のおもちゃのように扱うゴミ野郎だ」


「…そうなんですね。俺は出会った記憶がないです」


神という漠然とした存在がこの世界に存在している。その事実だけで驚きに値する。異世界人である俺でさえ驚いているのだ。この世界に元々いた人にとっては天変地異が起こったぐらい驚くのではななかろうか。


ただ、もしその神とやらが本当にいて俺を呼び出したのならば1発ぶん殴ってやりたい。なぜ、俺をあんな環境においたのか。もっと普通の家庭で過ごしたいものだった。


もしかすると、その状況を見て楽しんでいるという可能性も無くはない。玩具で遊ぶ子どものように短絡的に。己の欲望のために酷く忠実なのかもしれない。


まさか、師匠は神を………………。

さすがにそれはないか。それは考えすぎというやつだな。それに今の俺にそんな未来を考えている暇はない。その暇を作るために俺は強くなるのだ。二度と見下されないために。


「つまるところ、異世界からの客人には理由は分からないがスキルの習熟度の上限はない。俺の予想だとそれはお前も当てはまる。だから成長していないのはお前自身のせいだ。自覚はしとけよ?」


「はい、俺は弱い。この世界を生き抜くためには力が必要だと身に染みて感じました。いや、感じ過ぎました。そのために俺は修行をして強くなりたいです。誰かを守るための力なんかいらない、自分の身を守るための力を得るために」


「上出来だ。そこまで分かっているのなら俺から言うことはない。それじゃ、時間も有限な訳だし始めるか」


「お願いします!」


師匠との修行はいったいどんなことをするのだろうか。やはり、普通の人が行う修行では無いだろう。異世界人ならではの何か?いやはや、死ぬかもしれないのにこの高揚感はなんだ。身体が早く成長したいと叫んでいるようだ。


「まぁ、軽くこれからのスケジュールでも言っておくか。まず、お前には基礎が足らない。体力然り魔力然り。そこで当分はそのふたつの底上げを行う。魔力に関してはセラに教えてもらえ。セラは魔法に関してこの世界でトップクラスの扱い手だ。セラ、頼めるか?」


「………………………………」


「あの、無言なんですけど」


「まぁ、今のお前に教えることは無いといった感じか。もちろん悪い意味でだが。こういう時は自分で気持ちを伝えてこい。自分の本心をな。もしかするとそれでセラが教えてくれるかもしれないからな」


「わかりました。後でセラさんにお願いしてきます」


なかなかに難攻不落な人だがどうしてその城を落とそうか。まぁ、言われた通りに本心を伝えてみるのが一番かな。


「それで、体力の底上げだが…。俺からとやかく言うことは無い。とりあえず山の山頂まで走ってこい。ほら、見えるだろ?あの山の頂上」


少しだけ雪が被っていてここから見ても神秘的な雰囲気が感じ取れる。ん、いや待てよ。そもそもいったいここはどこなんだ?色々なことを聞かされたがここがどこなのかはまだ聞いてなかったな。


「はい、見えます。ところでここってどこなんですか?俺まだ現在地がどこか知らないんですけど」


「あぁ、言ってなかったな。ここはだ。さすがに知ってるだろ?」


「え、ここがあの強力な魔物の群生地であまりにも強い魔物がいるためにどの種族も手をつけられないディルターニャ森林なんですか!?」


ディルターニャ森林。おそらくだがこの世界に住む人々はこの名前を耳にしたことがある。その森林には圧倒的強さを持つ魔物たちが互いに力を高めあったため他とは一線を画す実力を備えた魔物がわんさかいるという死んでも行きたくない場所でトップを争う場所だ。


よく、このことを例として子供が悪さをした時に、


「言うことを聞かないとディルターニャ森林に連れていくよ」


と親御さんが子供に諭すのが一般的に知られている。そうして、ここに住む人達はディルターニャ森林を知っていくのである。決して踏み入れては行けない領域だと。


かく言う俺も子供の時から口酸っぱく言われてきたので、まさか自分があのディルターニャ森林にいるとは夢にも思わなかった。


「ここはかの有名なディルターニャ森林で滅多に人が来ることは無い。だから人の目を気にしなくて修行ができるな?やったな!」


その、俺って気配り上手だよな!みたいなポーズやめてくださいよ。ありがた迷惑だよ。いや、ただの迷惑だよ。

悪魔。悪魔がここにいるよ。いやいや、さっきまでは確かにこの人のことを尊敬していましたよ。俺の命を救ってくれた恩人だし、初めて俺のことを見てくれた人だし。でもこれは想像していなかった。今から修行する場所がディルターニャ森林の中だなんて。


「じゃあ行ってこーい!あ、それと山頂に印があるからそれを取ってくるのが条件な?もし、途中で帰って来たりしたら分かるよな?な?」


「……はい」


「あー、忘れるところだった。ちょっと手を出せ」


「ん?こうですか?」


俺が右手を差し出すと師匠がなにやら黒いブレスレットのようなものを腕に填めた。


「あの、これは一体なんですか?」


「それは俺が作った魔道具で着けていると魔力を制限する効果がある。だから、今のお前は魔法無しのただの登山者だ」


「……………………」


終わった。魔物と遭遇した時、身体能力を魔法でブーストして逃げようと思ったのに何だこれは。魔法具?これはそんな生易しいものじゃないだろ。呪具だ、呪具。絶対呪われてるよこの魔法具。


それに魔法具作ったって言ったよな。魔法具を作るには魔法に精通してやっとできるって話なのにさらっと凄いことを言ったなこの人。


本当にこの師匠のそこが知れねぇ。どうしたらここまでの高みに到れるんだ。師匠はこの世界に来てどんなことがあったんだ。知りたい、同じ異世界から来た身として探究心がくすぐられる。


だけど、それができるのは生きているうちだ。死んだら何もならない。つまり、この疑問を晴らすためにも俺はこの修行を生き延びなきゃいけないんだな。


よし、やってやろうじゃねぇか。

絶対生きて帰ってやる。

そして、もっと強くなってこの世界を見てみたい。

弱いままの今では見えない景色が沢山あるだろう。

それをこの目でしかと見てやる。


強くなってやる。

この世界の誰よりも圧倒的に。


この鬼畜師匠の下で。


たった1人の鬼畜師匠の弟子として!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼畜師匠の弟子にされたんだが ~不遇な男の成り上がり~ ハト @astria1202

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ