第3話 踊り始める箱

「魔王サマ!あれ大丈夫なんすか?」

「初見ダンジョンでここまでとは...想定外だ」


◇◇◇◇◇


俺はボス部屋の戦闘を目を瞑って恐る恐る見る。さっきから嫌な予感がしてならない。何事もないことを願うが、

見ると既に戦闘は劇的なものとなっていた。やはり先程の戦闘と同じように薬草で回復しながらポイズンで攻撃し、長期戦に持ち込もうとしている。ボスもそれには気がついているようで、弱っているメンバーが回復する隙を図って攻撃しているのが伺えるが、それを耐久力に優れたナイトが防衛する。隙がない。突破口が見えない。ミミックである以上加勢することもできない。正直軽い気持ちでダンジョンに入った。俺の他のモンスターがやってくれると思っていた。しかし、この様子を見た今ではダンジョンに入ったのを後悔するほど心に余裕が持てなくなってきた。この戦闘を見ていると逃げ出したくなる。自分もあのポイズンでじわじわとやられてしまうのだろうと思うと、考えただけで息が詰まる。


「この緊張感...」


思い出した...俺が死ぬ直前のことを。

あの時、俺は何者かに傷を負わされ駅のホームに投げ出され、動く力も出ないまま、ただ近づいてくる車輪とレーンが擦れる音に怯えていた。助けなど来ないことを知りながら助けを待っていたのだ。

絶体絶命のピンチだというのにそんなことをつい思い出してしまう。


「!!」


長時間の戦闘の末、ボスもついに力尽きてしまった。しかし、目を疑うことに対して勇者パーティは4人とも生存しているのだ。そして4人の足音と話声近づいてくるのが聞こえる。


「薬草いっぱい買ってて良かったな!」

「ええ、正直このダンジョンは厳しいと思ってたけど上手くいったみたいね」

「俺たちなら魔王を討伐できる日も遠くないな」

「ハハ、今日は酒場で打ち上げだ!」


勇者パーティはボスがいた部屋を抜けてついに俺がいる部屋へ入る。強敵を目の前にして俺の鼓動は一層早さを増し、体が震え上がってきた。


「お宝ゲット~!」


先頭を歩く勇者が部屋に散らばる金貨を見て声をあげると、続くメンバーも金貨を拾い始める。元々このダンジョンはこの金貨が報酬となっているらしい。


「おい、宝箱あけるぞ!」


勇者がパーティメンバーにそう言い放って宝箱に手を添える。


もう逃げられない


意を決したその瞬間、勇者の手が持ち上がる。


「!!」


俺はどうしていいか分からなかったが、咄嗟に身を箱から乗りだし勇者の腕に噛みついた。


「クッ!」

「どうした!?」


メンバーの一人が気がつくとそれに続き、他のメンバーも目を向けた。


「ミミックだ!」


勇者が叫ぶ。そしてすぐにパーティメンバーが俺の目の前に揃う。


「油断したぜ...」

「行くぜお前ら!」


戦闘開始だ。

今までの戦闘のようにアルケミストがポイズンで攻撃しようとする。魔法のようなものなので回避しようにもどうすればいいか分からずもろに食らってしまった。

マズイ!と思ったが数秒経って気がついた。ポイズンを喰らっても平気だということに。


「薬草を!」


魔力を使い果たしたであろう魔法使いが薬草を勇者に使わせているのを見て、俺は勇者に再び攻撃をしようとする。


「喰らえ!」


しかし、その攻撃は通さないと言わんばかりに動きだしたナイトが俺に向かって一直線に槍で攻撃する。俺は、すかさずそれを回避し一瞬の隙を見逃さずにナイトの腕に噛みついた。如何にも強そうに思えた敵だったが結局薬草とポイズンに頼っているだけの、腕も装備も3流のパーティなのだ。俺にはポイズンが効かない。ならば...

俺はひたすら相手を噛み続けた。何度も何度も、時には宝箱で身を守りながら近づき隙を見て噛みついた。

相手の薬草が尽きるまで噛み続けるつもりだった。が、薬草を使っても相手は回復している様子が見られない。そして長期戦となったが、ついには1人、また1人と冒険者らは倒れていき全滅した。


「倒した...のか...?」


俺は本能のままに動いていたため、意識は朦朧としており倒したという実感もあまりなかった。

俺の周りには大きな魔方陣が現れ、俺の意識は一瞬プツっと切れた。

目を覚ますと俺は先程までいた大広間に送還されていたのがわかった。


「上出来だ、ジャック」

「お疲れ様っす!」


見ると目の前には魔王ザーベルとダンジョンで知り合ったデビルのブロッドがいた。


「えっと...?」

「フフ...お前からはやはり力を感じる」

「ブロッドは...」

「ああ、俺っすか?やられたら魔王サマが魔王城まで連れ戻してくれるんすよ!魔王サマ優しい~!」

「フフ...お前の名前もブロッドから聞いたのだ。先にこちらへ帰ってきたからな」


状況をザーベルとブロッドが説明する。聞きたいことは色々とあるが今はもうヘトヘトだ。


「一つだけ話をする」


ザーベルが口を開く。


「この大広間は召喚者用の部屋だ。魔族にとってニンゲンの姿は攻撃の対象となるがここなら解ける」


魔王がそう言うとブロッドは自信の影を見つめだした。そして、


「驚いたっすか?これがのホントの姿っすよ!」

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魔族最強の宝箱 ナイフ @Broccoli_1024

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