第28話 クレーム

「加藤さん!加藤さ…!」

返事は無い。

霧のむこうの影は、ただ無言で佇んでいる。


声が響く事を警戒しているのか…?


爆発の跡は先に歩いた三人も見ているはずだ。

鴉が問題ないとしたなら騒がない方が良いのかも知れない。


それよりも早く歩かねば、どんどん二人は置いて行かれる破目になる。


歩こうとした瞬間、何者かが武内の肩をグイッと掴んだ。


「わっ!ひゃ!?」


鴉だった。

武内は子供のような悲鳴を出してしまった自分の口を思わず塞いだ。


塞ぐと同時に前を進んでいるはずの彼女が後ろから来た理由を考える。


「え?なんで後ろから?それは、アナタが道を間違えたからよ」


鴉は来いとばかりに人差し指を立てクイクイ曲げた。


「先生が…加藤さんが前に居るんだ!」


武内は人影を指差す。


「二人なら置いて来たわよ。」


「じゃ、あれ…誰だよ?」


人影はジッと此方を見ているかの様に揺らいでいる。


「アナタの影よ」


彼女は振り返りもせず道を戻り始めた。


「今日みたいな晴天で霧が出るとね、自分の影が霧に映るのよ」


「だから映画館…って、何で最初から教えてくれないんだよ!?」


こういう現象が起きると教えてくれてれば

対処のやりようもあったはず

危うく地雷原に入りかけた武内はムッとして鴉を見た。


「話好きじゃないみたいだけど大事な事だろ?」


彼女は歩みを止め振り返ると大きく息を吸った。



「以前、お客に教えたんだけどね」


「皆、自分の前の影が本物かどうか疑心暗鬼になっちやって」


「知らない内に私より後ろが団子になってたのよ」


「で、一人が地雷を踏んでおしまい。」


此処まで一気に話すと鴉は水筒を開け水を飲んだ。


舗装されている本道にも地雷はあるのか…

戦時中の物、道を遺棄する時に仕掛けられた物。

死は、そこら中にある。


武内はゴクリと唾を飲む。



「霧が出なければ起きない現象だしね…どうせ二度とは来ないんだから知らなくても良いのよ」


「だけど、知ってたらさ…!」


客が全滅したあと、トボトボ一人で帰った彼女の気持ちは分かる。


とは言え、訳の分からないまま死んだんじゃたまらない。


「ちゃんと前を見ていたの?10メートルの約束守った?前の人の影が見えてる間は現象は起きないわ」


「間違いなく見失ってるのよ、現象とか関係無く迷うわ」


「もう、いいよ!!」


彼女は絶対に自分のやり方を譲らないだろう

そう、彼女は相手の気持ちなんて理解しない

理解出来ない人間だった。



「迷う前も怒ってイライラしてたんじゃないの?」


武内は返事をしなかった。

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神詣 カミモウデ @zone1943

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