第3話 夢見の提案
「……」
西堂君の言う通り、ケーキをご馳走になってから一時間が経過したが、お客さんは一人も来店しない。
正確には、気になって中の様子を確認する人はいたのだが、カウンターに怖い金髪の兄ちゃんが構えている為、逃げられてしまうのが現状だ。
その間、私と西堂君の間に会話は特にない。
お給料ちゃんと出るのかな?
そんなこんなでバイト初日はケーキを食べただけで終わってしまった。
「どうだった?初バイト」
家に帰るとママがニヤニヤしながらリビングのから出てきてバイトの様子をあれこれ聞かれたが、よく分からないとしか答えようがなかった。
「う~ん、私の給料のためにも、お客さんを呼び込む手段を考えないと……」
自分の部屋のベットに寝っ転がり、スマホのメモ帳アプリを駆使して『Progress』の改善すべき点を書き込んでいく。
お店の照明をもっと明るくして、外には可愛い『OPEN』の看板やお花なんかの植物も少し欲しいな。
後、可愛い制服もあったら良いな~。
それから、お店のケーキだけど、これは問題ないと言うか私が食べた中では一位二位を争う程に美味しかった。私は昨日ショートケーキを、今日はチョコレートケーキを頂いたが、どちらも女の子受けが良さそうな甘めのケーキだった。
他にもショーケースの中には沢山のケーキが並んでいたけど、暇なときに値段を計算していたら『Progress』のケーキの平均価格は400円前後と安めに設定されている。まあ、この辺は私が口出しするべきではないだろうから保留。
そして、一番の問題は――
「西堂君、だよね」
昨日今日接した限りでは、私に対して敵意がありそうな感じはしなかったし、目つきが悪いのと結構
ガタイが良いから、そこから来る威圧感をなくさないと……
「西堂君は笑顔で接客っと……」
そんな提案して私、殺されないよね?
兎に角、お店の外観については明日バイトに行った時に提案してみよう。
「まだ店長さんに挨拶してないから居ると良いんだけど……」
明日は土曜日だけど、ちょっと早めに行ってみようかな。
―― 『Progress』 ――
「こ、こんにちわ~」
「うっす」
昼過ぎにバイトへ来てみたが、いつもと変わらない表情の西堂君と静かな店内が私を出迎えてくれた。どうやら店長さんは今日も居ないみたいだ。
それにしても西堂君って何時からこのお店に来てるんだろう?やっぱりどこかにアジトへの入り口があるんじゃないだろうか?
「チラチラ」
「俺の顔に何か付いてるか?」
「――えっ!?」
呼び込みの件や西堂君の事について色々と気になることを考えていたら、向こうから声を掛けられてしまった。
「何かソワソワしているが…………トイレか?」
「違うよ!――はっ!?ご、ごめんなさいっ!」
「?」
急にデリカシーに欠ける事を言われて語気が強くなってしまった。西堂君は気にしてないみたいだが、今度からは気を付けないと。
でも、今はビクついている場合じゃない。ここで働かせてもらう以上、私も何か貢献しなければ。
「あ、あの!ちょっと良いかな!?」
「あ、あぁ」
急に大きな声を出したから西堂君は驚いていたみたいだが、それ以上に私も自分がこんなに大きな声を出せることに驚いている。
昨日と同じくお客さんが来店する気配は微塵もないので、私はポケットからスマホを取り出して昨日のメモを西堂君に見せてみる。
「……」
怒って突き返されるじゃないかとドキドキしていたけど、西堂君は真剣な表情で私の書いたメモに目を通してくれている。
何だか別の意味でドキドキしてきた……
「――笑顔、か」
どうやらメモを最後まで読んだらしく西堂君は案の定“笑顔で接客”のところに反応した。
「その、無理にとは言わないけど、その方がお客さん来てくれるだろうし……店長さんにも話してみようと思ってるんだけど……」
「店長?店長は俺だけど」
それって私がバイトの面接に来たときも言ってたけど、もしかして――
「本当なの?」
「あぁ」
「じゃあ、このお店で働いてるのって西堂君と――」
「夢だけだな」
衝撃の事実。街一番の不良だと思っていた(実際どうかは分からない)西堂君がケーキ屋さんを営んでいたなんて!
バイト先のケーキ屋さんで働いていたのは街一番の不良同級生でした。 @Ryuto-Kaidou
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