第2話 バイト初日
「おはよ~!」
「――あら、珍しく早起きね」
「まぁね!」
朝は苦手なので、普段はママに起こしてもらわないと起きられない私だが、今日はいつもより1時間も早く起きてしまった。
理由は勿論、バイトが決まったからだ。
だけど、嬉しいことばかりではない。バイト先には
そもそも、何で彼はケーキ屋さんなんかでバイトしてるんだろう?学校にも来てないみたいだし……
「もうこんな時間、じゃあ行ってくるね~!」
「いってらっしゃーい!」
疑問に思うことは他にもたくさんあるけど、兎に角『プログレス』に行ってみないことには始まらない。
「よぉ~し、頑張ろぉ~!」
―― 学校 ――
「夢見?夢見ってば!」
「――う、うん?」
「私の話、聞いてる?今日一日中、上の空だけど大丈夫?」
「あ、それ聞いちゃう?」
「いや、話を聞いて欲しいのは私の方なんだけど……」
「実はね、今日が初バイトなのです!」
そのことばかり考えていた所為か、今日の午前の授業はあっという間に終わった気がする。
全然内容は入ってこなかったけれど、おかげで西堂君が『プログレス』でバイトする理由が分かったかも知れない。
恐らく彼は、あのお店をアジトとして使っているのだ。厨房の冷蔵庫の中に隠し扉があって、そこで非合法の薬とか武器とかを作っているはず。それに気が付いてしまった私を背後から――
まぁ、そんなぶっ飛んだ出来事は物語の中だけだろうけど……
「入学して一ヶ月も経たずにバイトとは中々の働き者ですなぁ」
「ちょっと問題はあるけど、運命の出会いって言うのかな?私にピッタリのバイト先だったんだ~」
「へぇ~、もし良い感じだったら私にも紹介してよ!」
「良いけど、多分雪は断ると思うな~」
二見学園に入学して一番始めに出来た友達の
「正門の近くに居た奴みたか?」
「あぁ、ガラの悪い二人組だろ?何でも西堂の舎弟らしいぜ」
「いや、俺が聞いた話では仕返しに来たらしい――」
う~ん、西堂君と昨日話してみた感じ、無愛想だったけど学園を飛び交う噂の人物像とは少し違う気がする。まだ、数十秒しか話していないけど……
「西堂君って入学式以来、学校来てないよね?顔は割とイケメンだっただけに、不良ってのが残念でならないよ……」
「雪って本当に男子全員チェック済みなんだね……」
「夏休みまでには彼氏をゲットするのが目標だからね!」
彼氏か~、私にも白馬の王子様的な人が現れる日が来るのかな~。
―― 『Progress』 ――
カランカラン。
「……しゃーせ」
西堂君は店に入ると昨日と変わりない、やる気なさげな挨拶と怖い目つきでカウンターに立っていた。
「ん、確かバイトの……」
「安藤夢見ですっ!」
「あぁ、それじゃあ、夢。奥に荷物おいてエプロン用意してあるから」
い、いきなり下の名前で呼び捨てされただけじゃなく『見』を略された!?
「夢?」
「は、はい!分かりました!」
昨日、面接をした場所に鞄を置くと机の上に西堂君が着けていたのと同じ、クリーム色の生地に英語で『Progress』と書かれたシンプルなエプロンが置かれていた。
部屋からカウンターへと戻る途中、偶々偶然厨房の冷蔵庫に目が付いたので、一応隠し扉がないか確認しておく。
「う~ん、ケーキの材料以外は何もないかな~」
「――逆に何が入ってると思ったんだ?」
「……っ!?」
気が付くと背後に西堂君が立って冷蔵庫を漁る私を見下ろしていた。
驚いて固まる私に西堂君の右手が近づいて来る。
ヤバイと思うが逃げる隙が無く目を瞑ってギュッと身を縮めたが、西堂君の右手は私の横を通り過ぎて冷蔵庫の中の白い箱を掴む。
「安心しろ、確認せずともちゃんと夢の分のケーキは用意してある」
「ふぇ?」
白い箱の中身はケーキだったらしく、西堂君はお皿にケーキを乗せて「紅茶、今入れる」と言ってお湯を沸かし始めた。
がめつい女だ。とか思われてないよね!?
「あの、お店は?」
「平気だ。どうせ、今日も客は来ないだろう」
何でもないことのように言うが、彼の表情は少し寂しそう。
確かに店の立地は悪くないが、あまりここがケーキ屋さんだと思う人はいないかも知れない。かく言う私もバイト募集の紙を見なければ気が付かなかったぐらい。
外観も悪くはないのだが、ちょっとサッパリしすぎていると言うか、ケーキ屋さん特有の明るい感じがあまり無い。
しかも入ったら目つきの怖い少年がテンション低めに接客してくれるとなると、メイン客層の女性客は怖がってしまうし……中々、改善すべき点は多い。
でも、ケーキはとってもおいしいです!
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