バイト先のケーキ屋さんで働いていたのは街一番の不良同級生でした。
@Ryuto-Kaidou
第1話 出会い
私の名前は
「すぅ~、はぁ~……」
今までの人生で一番緊張していると言っても差し支えないほど胸がドキドキしている私の目の前には、『プログレス』と英語で書かれた看板が立っている。
意味は確か『進歩』だっけ?
ケーキ屋さんに付ける名前としてはどうかと思うけど、正直店名なんてどうでも良い。私の夢であるパティシエ。そして数時間前に目に付いたケーキ屋さんの求人募集。
「身だしなみはバッチリだよね?」
こうしてガラスの前で自分の姿を確認すること数十回目。
行かなきゃ!夢に一歩前進!頑張れ私!
カランカラン。
「……え?」
意を決して店の中に入った私は店員さんの顔を見るなり数十秒間硬直し、そのまま180度回れ右をして一目散に自分の家へと駆け込んだ。
「はぁ、はぁ、殺されるかと思った……」
私は店員の顔に見覚えがあった。彼の名前は確か――
今年の春に入学式で見かけた時に金髪で、しかもピアスをしてガッツリ制服を着崩していたからハッキリと覚えている。
目つきも怖く、噂では一睨みで熊を気絶させたとか……
「はぁ~、何でそんなのがケーキ屋さんでバイトしてるのぉ~」
バイト募集の紙を見た時は興奮のあまり気が付かなかったが、ケーキ屋さんだというのにカラフルな色文字は使われておらず、給料と時間ぐらいしか書いてなかった。
恐らく西堂君が書いたのだろう。店長も店長だ。明らかに人選ミスだと思う。
「私の夢が……ケーキ屋さんのバイトなんて他にないよね……」
仕方ないか……背に腹は代えられないし、西堂君だって実はいい人かも知れないし!夢のためなら私は命だって惜しくないっ!
カランカラン。
「し、失礼しま~す」
「……しゃーせ」
怖くない、怖くない、あそこにいるのはジャガイモ、あそこにいるのはジャガイモ。
「あ、あのっ!店長さんはいらっしゃいますかっ!」
「あぁ」
「お、お、お、お呼びしてもらっても!?」
「俺だけど」
「……え?」
もしかして、私が緊張してるのに気が付いて気の利いた冗談でほぐそうとしてくれているのだろうか?だったら、もう少し笑顔で対応してくれるとありがたいっ。
「用は?」
「え、あぁ、バイトの募集を見て……」
と、用件を伝えたとたんに獲物を補足したチーターの如く視線がキラリと光った!気がした。
「奥に」
奥へと通された私は別の意味で緊張しながらも、案内された席に座ってその時を待つ。
しばらくすると、西堂君がトレイに乗せたケーキとお茶を持って現れた。そして、そのまま私の対面へと座る。
「砂糖は?」
「少しだけ……」
何、この時間!?私、何で西堂君とお茶してるの!?店長~!店長~!
「その制服、二見学園のだろ?一年生か?」
「は、はい」
「じゃあバイトは夕方希望か?」
「えっと、土日以外は、はい……」
「ん、採用」
「え?」
「採用だ」
「えぇぇぇぇ!!!」
勝手に採用していいの!?しかも面接の時間30秒ぐらいだったけど!もっと聞く事無いの!?
「日程とかは~……」
「自由だ。来たいときに来ればいい」
そんなこんなで面接は一瞬にして終わった。一時はどうなることかと思ったが、終わってしまえば何を気負っていたのかと自分が馬鹿らしくなった。
「えへへ、明日からでも良いのかな~」
帰ってからニヤニヤが止まらず、両親から凄い顔をされたが、今の私はそんな事など気にしない。
あぁ~、ケーキおいしかったな~。勿論、西堂君が入れてくれた紅茶もおいしかったけど!私もあれぐらいの作れるようになるのかな~、ふへへ。
ワクワクが止まらずに一晩中、妄想に耽る夢見であった。
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