第3話:タイガー・ホール
――大王歴1195年4月9日 イタリアーノ副王国 ヒマラヤン山脈ふもとのタイガー・ホール付近にて――
男は腰を落とし、左足で地面を蹴っ飛ばした後、右足を大きく前に出す。そしてその右足に十分に体重を乗せながら、相対する相手に向かって右の
「ロケット・パーンチーーーッッッ!!」
「ぐべえええ!!」
「あ、ありがとうございます!」
酔っぱらった
「しっかし、あいつも男前に育ったもんだねえ……」
「んだんだ。8年前にこの辺りにあるタイガー・ホールに連れてこられたって話を聞いた時はさぞかし不憫なもんだと憐れんだもんだがなあ……」
村の住人は去っていく男の背中を見ながら、そう噂をする。彼はタイガー・ホールの
「本当に良い男に育ったよね、ロック=イートくん……。お姉さんが人妻じゃなかったら、性的に食べてしまいたいくらい……」
「よせやい。
この村の住人はタイガー・ホールで修行する面々とは付き合いが深い。なんといっても、タイガー・ホール付近にある村々の中で一番近い場所はこのアンダーソン村である。村の名前の由来は、ここの村長の姓がアンダーソンだからである。ド田舎といっては失礼にあたるが、村長の名前やその土地そのものの呼び名で村の名前が決まることは多々ある。
もちろん、これは村だけの話ではなく、大きな街や都市でも同じようなことはある。ただ、そう言った場合は村長とは比べようのない高位の階級の者が名付けたことが由来となる。
拳聖の弟子たちが集い、日々、その腕前を磨くタイガー・ホールの名前の由来は、当代の拳聖が
酒場でならず者をのした齢18の
「お師匠様。酒を買ってきましたよ。ってか、ここ最近、飲み過ぎじゃないですか?」
「うっさいわい。
ロック=イートは酒樽をよっこいしょとばかりに、拳聖が住む木造平屋建ての台所付近の土間に置く。そして、ついでとばかりに酒浸りの拳聖に文句を言ったのだ。だが、キョーコ=モトカードは横になりながら、尻をボリボリと掻く始末。ロック=イートがやれやれとため息をつくのは仕方無かったと言えよう。
「あー。小僧。今日の修行が終わった後に大事な話をするから、コタロー=サルガミとサラ=ローランと共に、わしゃの庵に顔を出すんだわい」
ロック=イートが用事を済んだがゆえに、小屋から出ようとしていたが、その背中に向けて、拳聖:キョーコ=モトカードが思い出したかのようにそう告げる。振り向いたロック=イートの顔は怪訝なモノに変わっていた。
「大事な話? 今この場で言えない話なんです?」
「ああ、そうだね。3人揃っていないと、どうにも都合が悪くてね? んじゃ、わしゃは出てくるから、夕暮れ16時過ぎくらいには、このあばら家に集まっておくんだよ?」
拳聖:キョーコ=モトカードはそう言うと、のっそりと起き上がる。小屋の出入り口で何の話だろうと疑うロック=イートに、そう気にするなとばかりに彼の左肩に自分の左手をぽんと1度乗せる。そして、彼を置いて、ひとりどこかへと向かっていこうとする。ロック=イートは彼女が去る前に、いくつか質問をしようとしたが、キョーコ=モトカードは地面を勢いよく蹴り、ぴょんと近くの木の枝に乗り移る。しかしながら彼女はその枝の上で留まらずにさらにその枝を蹴り飛ばして、どんどん向こうへと消えていってしまう。
「……ったく。良い意味でも悪い意味でもマイペースだな、お師匠様は。でも、何の話なんだろう? 兄弟子のコタロー兄と姉弟子のサラ姐も一緒じゃないと話せないことって……」
ロック=イートには頼れる拳聖の高弟たちが居る。
そしてもうひとりの高弟は
さらにはロック=イートは
この3人は拳聖の3大高弟と呼ばれるようにまでなっており、その3人が同時に師匠であるキョーコ=モトカードから話をされるとなれば、よっぽど大事なことであろうことはロック=イートには容易に想像できた。
しかしながら、どういった内容かまではロック=イートには予測できないでいた。なんと言っても、相手はキョーコ=モトカードなのだ。アンゴルモア大王付き四天王の中で最も強い人物と言われている。そして傍若無人ぶりもアンゴルモア四天王1番とも言われているのだ。
「うーーーん。他流試合とかそんなところか? でも、お師匠様のことだから、酒の肴に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます