5話目

水曜日。

通院の日だった。


家を出る時に母親は一緒に行くつもりで支度をしていた。

でも僕が何度も

「一人で行ける。心配しなくていい。一人で行かせて」とお願いすると、

心配そうな顔をしながらも

「何かあったら連絡するのよ。必ず」と僕の希望に応えてくれた。


僕は先週と同じように一人でバスを待っていた。

時刻は8:40


向こうの方から女の子が歩いて来た。

沙織さんだった。


こちらから声をかけようか迷った。

でも、もし覚えていなかったらどうしよう、などと考えていると、

「俊介くん、おはよう。また会ったね」

沙織さんは僕の名前を呼び明るくそう言った。


「おはようございます」僕は嬉しさで笑顔が出ていたのかもしれない。


「君もそんな顔するんだね。私に会えたの嬉しい?」

沙織さんは笑いながらそんなことを言って僕を茶化した。


僕は恥かしさからちょっと顔を俯いたうつむいた


「君に渡したい物があって持って来たんだ」と沙織さんは笑顔を向けてくる。

そして、

「手、だして」といきなり僕の腕をとってシャツの袖を捲りだした。


注射痕だらけの腕を見られた。


「ごめんなさい」僕は嫌われるかもと思って咄嗟とっさにそう謝った。

それから恥ずかしさで腕を隠して顔をそらした。

「突然、ごめん」と沙織さんは申し訳なさそうに言った。


バスが来て、僕たちは一緒に乗り込んだ。

僕たちは隣同士で座った。

バスが走り出した。風景が流れていく。


「私ね、世界の困っている人たちを助ける職業に就きたいんだ」

沙織さんはそう呟いた。

「それでね、高校を卒業したらイギリスに行くんだ」と続けた。


突然のことで僕はなんて言ったら良いのか分からなかった。


「君に渡したい物はね、これ」と言って赤と白とオレンジの3色が混ざった紐を出した。そして、

「ミサンガっていうお守りなんだ」と言った。

それから僕の腕をとってシャツの袖を捲った。

「こうやって手首に巻くんだ」と言いながら僕の手首に巻いてくれた。


僕はさっきの言葉が突然すぎてまだ頭が付いていかなかった。


沙織さんは続ける。

「君のこの痕はね、君が頑張っている証だよ」とほほ笑んだ。

「だからね、これから先も負けないでね」と沙織さんは涙を浮かべていた。


その後、なにを会話したのかよく思い出せなかった。


帰宅後、母親に対して、

「ありがとう」とだけ小さく言って部屋に入った。

母親は何か聞きたい様子だったけど、僕は誰とも会話したくなかった。


部屋でミサンガを触りながら、

「イギリスか、、」と呟くだけで精一杯だった。


僕の初恋はこうして終わった。

それきり沙織さんに会うこともなかった。


それから10年後、僕は日本でロボット技師として働いている。

14歳の春に沙織さんと出会って、そして僕は将来の目標を決めた。

いまはとても充実した日々を送っている。


僕の初恋が終わったあの日、僕は僕の人生を歩みだした。

いまは思う、日々は連続していて、将来に向けて一日一日積み重ねていくものなのだと。そしてその積み重ねた先に希望があるのだと。


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最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました。

ショートショートは何回か書いたことがありますが、ここまで長い文章は初めてでした。色々と読みづらいところがあったと思います。申し訳ありませんでした。


本当にありがとうございました。

                                やなぎ猫

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君に誓った永遠 やなぎ猫 @NekoK_2020_4_22

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