第2話 無意識に、そして徐々に

 日が沈みかけ、赤く染った帰り道。僕の頭の中で彼女が語った悲痛な話が何度も繰り返される。

 虐めにより廃れた心。その心を満たそうとした偽の感情。その感情は長年、彼女の心に降り積もり、ついに彼女自身を覆い隠してしまった。


 人との繋がりを拒絶した自分には何もできることは無い。そんなことはわかっている。でも僕は二度と彼女にあの表情をさせたくない。に繋がらない笑顔なんてこの世にいらない。


 僕は自分自身を呪いながら生きているのだと実感した。だからせめて彼女だけは、自分自信を完全に見失う前に自由になって欲しい。


 僕は心からそう願った——。



 それからというもの、僕と彼女は学校内でよく話すようになった。何故、彼女が僕にだけ逢坂鳴海を晒しているのかはわからない。

 彼女と一緒になんでもないことを駄弁だべる、その時は自然と人との付き合いという感覚を意識しなくなっていた。

 というのも、僕も彼女にいつも一人でいる理由を話したのだ。自分だけ人の秘密を知っても良くないし──。



 自分の話を終えた彼女は、僕がいつも1人で居る理由を聞いてきた。やはり周りから見ても、ただ友達がいない人には見えないらしい。

 僕の話を聞いた彼女は、卒倒しそうな程顔を青ざめ、ものすごい勢いで謝ってきた。禁忌にでも触れたのか、とでも言わんばかりの豹変っぷりに驚いて、返答に数十秒かかってしまった。

 彼女が落ち着くまでかなりの時間が必要だった。過去のトラウマのなのだろうか。人を傷つけるがある行為に彼女はすごく敏感なようだった。


「大丈夫だから…もう過ぎたことだし、僕も気持ち入れ替えないとな、って思ってるし」


 彼女をなだめるために言ったこの言葉が僕の脳内に響く。自分は酷くみにくい存在だと脳内に訴えかけてくる。



 僕には「他人と自ら関わろう」なんて気持ちは微塵もないのだ。



 * * *



 僕はいつも通り学校へ行ったはずだった。そう、いつも通り。しかし、学校へ着くとそこはいつもの教室ではなかった。

 僕の知らないクラスメートの顔つき。

 一見笑っているようで、心を見定めるかのような鋭い視線を送ってくる男子。一見笑っているようで、哀れみの目でこちらを見てくる女子。

 そして、満面の笑みを浮かべている逢坂さん。しかし、その心は…空っぽだった。無理やり作り出した笑み。

 その全部が僕の心を抉る。鼓動が速まり、息が苦しくなる。僕の目は見開き、頭はどんどん真っ白になっていく──。



「……っ!」


 寝室にアラーム音が鳴り響く。大きく見開かれた目が捉えているのは、見慣れた自室の天井。どうやら今のは夢だったようだ。

 速まった鼓動を落ち着かせ、息を整える。最近の夢は酷いものばかりだ。逢坂さんと関わってからというもの、悪夢を見ることが多くなった。

 小学校の時によく見ていた悪夢。貼り付けの笑顔が僕の心を抉ってくる夢。それは、僕にとってのトラウマ、地獄そのものだった。

 今までは人を避けていたため気にならなかったのかもしれない。しかし、最近関わり始めた人が偽りの表情を無意識に操る人だ。僕の深層意識で過去の感覚が呼び戻されているようだった──。



 傘を返した日からちょうど1週間が経とうとしていた。

 僕は逢坂さんとLiNEを交換した。いや、正確には逢坂さんから提案してきたのだが。大方、気軽に話せる相手が欲しかったのだろう。僕にとっても対面で話さない分、楽になると思いその提案を承諾したのだ。

 友達欄に祖父母のアカウント、母のアカウント、そして逢坂さんのアカウントが表示された。

 アイコンはどうやらプリクラの写真のようだ。逢坂さんの目がデカすぎて別人に見える。もちろん口には出さない。


「これからもよろしくね?一ノ瀬くん。」


「う、うん…。こちらこそ…」


 * * *


 交換をした日から彼女から毎日のようにLiNEが送られてくる。どれも平凡極まりない内容ばかり。明日提出の課題の話。明日の天気の話。帰宅途中に会ったらしい野良猫の話。

 学校でも話せることを立て続けに送ってくる。

 彼女が送ってくる内容を読み進めていく内に自然と、彼女がどんなことを考えているのか、どんな表情でスマホを握っているのか、が気になって来た。

 表情を気にしないための連絡ツールとして白い鳥のSNSとLiNEを採用したって言うのに──。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 < なるみ         ✐ ✆ ≡ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━次の土曜日駅前にできたケー

キ屋さん一緒に行かない…?

 ̄ ̄)/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄19:42

      

      あ、そこ僕も気になってたとこ

      ろかも…。他の人って来たりす

      る?

      既読 19:57 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\( ̄ ̄


誘ったんだけど部活で誰も

来られないって。

 ̄ ̄)/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄19:58


      わかった。待ち合わせ場所とか

      よくわからないんだけどいい場

      所ある?

      既読 20:09 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\( ̄ ̄


駅前のMCバーガー前がい

いかな〜

 ̄ ̄)/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄20:11


      じゃあそこで。3時に集まろう。

      既読 20:18 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\( ̄ ̄


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 と、言うわけで僕は逢坂さんと駅前のケーキ屋さんに行くことになった。

 僕が甘党じゃなければこの誘いは断っていただろうが、ケーキとなると話は別だ。雰囲気的に男1人で入るのにはかなりの勇気が必要だが、生憎あいにく僕にはその度胸がない。そこへ舞い降りた一欠片のチャンス。逃してなるものか。


 その夜、僕は久しぶりに悪夢にうなされることの無いゆったりとした睡眠をとることが出来た──。



 逢坂さん以外の人は来ないということもあって僕は楽に土曜日を迎えることができた。


 5分前行動。学校から教わった他人と関わる上で重要な原則マナー

 他人と関わることがないと思っていた僕がこの原則を使うことになるとは…。

 2時55分を目指し家を出る。只今の時刻、2時30分。ゴーグルマップによるとここから歩いて大体20分だからこの時間だ。

 駅前に行く機会などなかった僕にとってこの道は未だ知らない冒険の道のようだった。ゴーグルマップを度々確認しながら駅前へ向かう─。


 現地到着時刻、2時48分。信号が見事なタイミングで青に切り替わったので足腰が貧弱な僕でも時間に余裕を持ってたどり着くことが出来た。

 しかし、駅前のMCバーガーを見つけるや否や僕の余裕は一瞬で吹き飛んだ。



 ──あとがき──


 どうもたぴおかぴです。この度は3話目をお読み下さりありがとうございます。4つ程言いたいこと、読者様への質問、がございますので、できればお読みくださると嬉しいです。


 1、 LiNEの読み方は(リネ)です。決してラインでは無いので間違えないで下さい。通話代がかからない神アプリの設定です。ラインでは無いです。


 2、 MCバーガーは巷ではマックバーガーと呼ばれているそうですね。ジャンクは良いですね。ポテトLLLサイズ食べてみたいです。


 3、 スマホ画面やってみたんですけどどうでしたか?正直あれ以上のクオリティは僕の力では無理です。こういうの楽しいですよね。


 4、 内容ですが一ノ瀬の思考ブレブレですね。なんででしょうね。逢坂さんもグイグイ来すぎですよね。一体彼らは何を考えているのでしょうか。


最終回!

 一ノ瀬、実はただの人見知り!?

 逢坂、実は被害妄想激しいだけだった!?


 の2本立てにはしませんので。しっかりストーリー考えてますので。ご安心を。



 はい。以上です。これで次話からのハードル爆上がりですね。頑張ります。期待しててください。

 評価してくださると、モチベが上がります。より良い小説になることでしょう。


では、次の話でお会いしましょう。

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色が溢れるこの世界、その中の僕達は無色だった たぴおかぴ @tapiokapi

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