山本,s question

 あの衝撃の日の次の日の放課後。

 私と山本はいつもの人二人分くらいの距離をとりながら、部室に鎮座している。……もちろん、山本は私の方をチラ見してきているわけだが。

「ねえ、山本」

「なんですか? 月本先輩。僕いま忙しいんですが」

 嘘つけ! 本読みふりしてチラ見してるだけだろっ!

「ま、まあ、少しだけ話を聞いてくれよ。山本」

 だがここは、あえて私はツッコまない。このままつっこめば山本のペースに引き込まれてしまう。

「……分かりました。少しだけですよ」

「うん!」

 良し! これであとは昨日の事を問い詰めれば良いだけだ!

「山本、き、君に質問があるんだ。……え、えーっと、君がその……昨日言っていたことについて、なんだが。……あれは本当なのか?」

 聞いた! 聞けたぞ、私! さあ、山本。どうなんだ、本当にお前は私の事が好きなのか?

「……」

「……」

「……」

「……山本?」

 山本はクラッシュしたパソコンかのように、フリーズしたままこっちを見ている。

「先輩。……僕に質問があるんですね?」

「うん、そうだ。……それで答えは?」

 な、なんなんだこの間は!? もしかして、本当は好きじゃなかった―――?

「すみません、先輩が少しだけ聞いてくれって言ったので、そこまでしか聞いてませんでした」

「少しだけってそういう意味じゃねえよっ!!」

 バカか!? バカなのか、こいつは! 少しだけと言って、本当に少しだけしか聞かないアホがどこにいるんだっ!!

「冗談ですよ、先輩。僕が本当に先輩を好きかって事ですよね?」

「そ、そうだっ! 分かってるなら……何回も言わせるな」

「……」

「……」

 謎の間が空いた。

 まただ。また来たよこの間! そんな間を開けられると、なんか恥ずかしくなってくるじゃないか!

「先輩」

「は……はい」

「俺は好きだよ、先輩のこと」

  ――――ッ!! 本当になんなんだこいつはぁ!! 急に“俺”とか言うし、ため口になるし! そんなの余計に意識しちゃうじゃないか。

「先輩。顔、赤いですよ」

「お前のせいだろっ!!」

 なんて、言えな……

「声に出てますよ、先輩」

 って、しまった。

「う、うるさいっ! そんなことより、もう一つだけ……聞かせてほしい」

「はい、いいですよ」

「その好きって言うのは、……その、付き合いたいとか、そうゆう好きなのか?」

 どうなんだ、どうなんだ山本ぉぉぉ!!

「それを答える前に、僕からも一つだけ質問して良いですか?」

「え? あ、うん。いいぞ」

 山本が私に? なんだ、なんか緊張する。

「先輩は、俺のこと名前で呼べる?」

 名前? そんなこと? そんなの楽勝じゃないかっ!

「そんなの! あたりま……え、だろ?」

「……」

 頭が重い。決して、山本の名前を忘れているだとか、恥ずかしいとかじゃない。

 じゃないけど、なんか―――

「嫌……だ」

「どうしたの? 俺のこと、名前で呼んでよ」

「……ごめん」

「え?」

「ごめん! なんか、嫌だ」

 ああ、頭が重い。さっきまで浮かれた気持ちが全部消えるくらい、頭が重い。

「そう、ですか。分かりました、月本先輩」

 いつも変わらない山本の声色が少しだけ、沈んでいる。

「僕の好きは、付き合いたいの好きです。……でも、付き合うことは出来ません」

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好きですが何か? 親愛なる隣人 @nere

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