大玉こーいこい、大玉こーいこいこい

ちびまるフォイ

大玉をぶん投げるのは自粛してください

ドズン。


バカでかい音に驚いた朝。

カーテンを開けると道路に大玉が落ちていた。


運動会で使われそうなサイズの大玉は地面をめり込ませている。

すぐに工事の重機がどかそうとしたがぴくりともしない。


「まいったなぁ。これじゃ道路を封鎖しなくちゃ」

「もっと大きな重機はないのか?」

「ダメだ。これで動かないんじゃどんな重機でも無理だよ」


現場の人たちはあきらめムードで去っていった。

電動ドリルをもへし折る強固にして、どんな重機でも動かせない巨大な大玉。


人がいなくなったのを見計らってちょっと触れてみることに。


「……あれ? 軽い?」


触れてみると、まるで発泡スチロールのような、それ以上に軽い感じがした。

思い切って持ち上げると、簡単に大玉は地面を離れた。


自分はスーパーマンの生まれ変わりだったのかと思ったが、

俺を見た他の人も同じように持ち上げていた。


一番驚いていたのは作業にあたっていた工事の人だった。


「君! いたいどうやって持ち上げたんだ!?」


「いえ普通に……」


「普通ってなんだよ!? どんな重機でも動かなかったんだぞ!?」


「とりあえず触れてみてくださいよ」


すると、工事の人の手でも簡単に持ち上げられた。


「まるで何かのマジックのようだ。機械で動かせないのに人の手ではこんなに軽々と……」


「おじさん! あぶない!!」


あっけに取られているおじさんの頭上にふたつめの大玉が空から降ってきた。

大玉はドズン、と音を立てて地面に亀裂を作った。


「いったいなんなんだこれは……なにかのパーツか……!?」


人工衛星が空中分解して部品が飛来したかと思ったが、

こんなきれいな球体が落ちてくるなんて考えられない。


大玉はゴロゴロとどこかへ転がってゆく。

進路にあるあらゆる建造物を破壊しながら。


「おい止めろ!」


車をぺしゃんこにし、電柱をなぎ倒しながら大玉は転がってゆく。

なぜか人間の手で触れると大玉は質量を失ったように軽くなる。


このままでは大玉が自動で転がっていろんなものを破壊してしまう。


「空から降ってきたのだから、空に戻してやる!!」


俺は一番近くにある大玉を両手で持ち上げる。


「どりゃあああ!!」


ハンマー投げのような掛け声とともに頭上にぶん投げた。

大玉はぐんぐんと空へとあがり、見えなくなった。


「君! なんてことをしてくれたんだ! また空から落ちてくるじゃないか!」


「地上に置いているほうが危険ですよ。勝手に転がっていろんなものをなぎ倒していくじゃないですか!」


「しかしだな……」


ドズン!


話している最中にまた大玉が落ちてきた。


「そら見たことか! 上に投げたところで意味はないんだよ!」


「いや違う……空を見てください!」


俺は頭上を指差した。

空にはいくつもの大玉が打ち上がっている。


「空に投げたのは俺だけじゃなかったんだ!」


他の地区から空に投げられた大玉は、空中で他の大玉と衝突。

大玉同士の乱反射を経てまた地面へと落ちる軌道になり地面に落下する。


他の人が大玉を空に投げる理由はただひとつ。


空に不自然に開いている黒い穴だった。


「なんだあれ……ブラックホールか……!?」


この得体のしれない大玉が突然ぶち落ちてきた。

なにかの部品でもないとなると、あの異空間の穴から落ちてきたのかもしれない。


あの黒い穴に入れればもう大玉は落ちてこないと思ったのか。

まるで玉入れだ。


「えい! この! 入れ!!」


落ちてくる大玉を何度空にぶん投げても黒い穴に入る前に、他の大玉とぶつかってしまう。


「くそっ! 距離は足りているのに!!」


順番に投げ込めばいいのに、殺到するので衝突が起きてしまう。

真下から垂直に投げても他の大玉にぶつかり軌道が変わるのでどこに落ちるのかわからない。


「もう大玉を投げんでくれ!」

「大玉が空から落ちてくると思うと怖くて眠れない!」

「大玉が落ちてくるよりも転がって潰される方がまだいい!」


「何言ってるんですか! あの穴に入れば、大玉の恐怖に怯えることもなくなるんですよ!」


大玉の投てきは1日中続いたが、結局穴に至ることはなかった。


大玉を投げ込むライバルが寝静まった深夜のこと。

俺はひとり起き出して、大玉が投げられた場所へと向かった。


「おっ、あったあった」


大玉は転がったので投げられていた場所からは移動していたものの、

どういうわけか他の大玉と転がり向かう方向は同じだった。


まるで磁石にでも吸い寄せられているようだった。


大玉をひょいと持ち上げるとあたりの建物に向けてぶん投げた。

廃墟を解体する大玉クレーンのごとく、建造物は音を立てて壊れていった。


物音に驚いた人たちが外に出てくる。


「き、君! いったい何をやっているんだ!?」


「お前らが大玉を投げるせいで、俺の玉が入らないんだよ! このお邪魔虫がーー!」


「うわぁぁ! や、やめてくれぇぇ!」


大玉を穴に入れる方法はひとつ。

他の邪魔な大玉を投げ込ませなければいい。


あたりの建物を破壊し、邪魔する人をぺしゃんこにした。

大玉はひとたび人の手に渡れば凄まじい破壊力の凶器になる。


「よし、これでもう邪魔者はいないな」


他の大玉を回収して空の穴の真下へと向かう。

多くの物や人を傷つけたが、大玉を撤去できれば感謝されるにちがいない。

そして、これは尊くも必要な犠牲だったと語られるだろう。


「よし、と。いち、にぃ、さんっ!!」


大玉をぶんと空に向かって放り投げる。

重力すらないようにぐんぐんと大玉は空の穴に向う。


そして、空にぽっかり開いている黒い穴へと吸い込まれていった。


「やった! 大玉が消えたぞ!!」


やっぱりあの穴はブラックホールかなにかだったのだろう。

次々に大玉を穴に投げ込む。


地上に落ちたすべての大玉を空に返し終わった。


「はぁ、はぁ。やった。これで何もかも片付けたぞ」


すでに日も昇り始めていた。朝日が眩しい。

ひとしごと終えた達成感に浸りながら空の黒い穴を見上げる。


「ん……? なんだ?」


朝日が差し込んだことで、黒い穴の上になにか数字が並んでいるのが見えた。

よく見ようと目を細めたとき朝日がぴかぴかと点滅しだした。



【7】【7】【7】


  大当たり!!




黒い穴の上の文字が読めたときには、

空からおびただしいかずの大玉が落ちて地上をさら地に変えた。

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