第13話 童貞を殺しにかかる聖女様
某日。
銀狼流の道場では、木と木がぶつかりあう乾いた音が響いていた。
「今日はここまでじゃ」
「ふぅあ〜! 今日も生き延びた……!」
俺は畳のうえに身を投げ出して、荒い息を整える。
「し、死ぬかと思ったわ……マックス、大丈夫?」
マリーが片膝をついて、心配そうに聞いてくる。
「全然、はぁ、はぁ、大丈夫、じゃない、はぁ……っ」
「そうよね……はぁ、疲れたわ」
スタスタと木刀をかたづけて道場を出ていく師匠を見送り、俺たちは本当の意味で緊張から解放された。
まったく、師匠との乱取りは命がけだ。
⌛︎⌛︎⌛︎
ーージャアア
道場に設置された風呂場で、汗を流す。
「ふあ〜」
稽古のあとの風呂は格別だ。
師匠は風呂の設備にはみょうにこだわってるので、最新のシャワーと呼ばれる、この謎の水を出す道具がすごく気持ちいい。
風呂も何十人も入れそうな大浴場もなっており、大貴族顔負けのスケールだ。
「ん、ちょっと筋肉ついて来たかもな」
くもった鏡をシャワーで流し、腕に力こぶを作って見せる。
すこしだけ膨れた。
以前より腕も太くなったし、そろそろマリーにも勝てるかもしれない。
「ああー癒されるなぁー」
風呂につかり、湯船の心地よさに身を預ける。
最高だ。
これからは風呂のためだけに、師匠の道場に来てもいいかもしれない。
「ふわぁ……なんか眠たくなってきたなぁ……」
大浴場の隅っこの落ち着くスペースにはさまり、鍛錬の疲れに休憩を必要としていた体を休めることにした。
ああ……でも、お風呂で寝ちゃダメだってマリーが言ってたような……。
ーーガララっ
「…………ん?」
なんか音が聞こえたな。
まどろむ視線を音の方へむける。
ーージャアア
「きゃっ、冷たっ、なにこれ壊れてるんじゃないの!」
聞き慣れた声が、シャワーをバシバシ叩いて文句を垂れていた。
って、嘘だろ。
「ヒ……ッ」
「ん、今なんか聞こえたような……気のせいかしら」
思わず引きつった声を出してしまった。
危ない。
完全に意識がもってかれそうになった。
これは気を抜いたら尊死だ。
というか、なんで、マリーが風呂場に?!
訳がわからない状況に混乱する。
まずいまずいまずい。
マリー、完全に裸だったぞ。
お風呂だから当たり前だけども、あれは尊すぎるって。というかえちえちすぎる。
鼻血が出てくるのを気合いで我慢しながら、マリーの「お、温かくなった♪」と可愛すぎるシャワー初体験の声を聞き届ける。
それもダメだって。
あまりにも可愛すぎるって。
いかんいかん。
邪念が下半身に集まり出してる。
マリーにそんな事考えたら絶対ダメなんだ。
邪悪に染まるまえに、俺は急いで風呂場を出ることにした。
「ふんーふふん、ふ〜ん♪」
鼻歌を歌い、ご機嫌な聖女様の背後を抜けて、絶対に彼女を見ないように出口へむかう。
もし万が一でも見てしまったら、それはもう神殿勢力の誇る最強のスキルホルダーたち『聖歌隊』が飛んできて、八つ裂きにされるくらいの大罪だ。
いや、それ以前に、尊死してしまうが。
「あとすこし……っ!」
入り口まで、あとちょっと。
そんな時、俺の心へ邪念がささやきかけてきた。
マリーの裸を見れる最後チャンスかもしれないぞ? とーー。
ダメ、ダメダメダメ。
やめるんだ、俺、絶対に振りかえるな。
俺は意志の力でおさえ込もうとしたが、もう体が言うこと聞いてくれなかった。
振り返ってしまったのだ。
その時、気がついた。
いつのまにか鼻歌が止んでいたことに。
そして、恐怖を見た。
目を見開き、顔を真っ赤にしてこっちを見ていたマリーと目があってしまったのだ。
尊さ測定器が振り切れたのを感じる。
「フッーー
「いやぁあああ! こらぁああ! マァァァァァックスぅ!」
無事死亡しかけたところで、マリーの叫びが聞こえ、不幸中の幸いにも、意識を取り戻す。
同時、湯煙のなかを猛スピードで走ってくるマリーが見えた。
彼女から目線をそらして、絶対叩かれる運命をさとり、頭を覆い隠して命を守る防戦にはいる。
「マックス! 何してんのよッ! この変態、エッチ、スケベ男! まさかこんなど変態だなんて、信じられないわ!」
「痛ッ! 痛い痛い! 話を聞いてよ、マリー! 俺は、俺は無実なんだよ……!」
裸のマリーに蹴られていると思うと、恐ろしいほどのご褒美をもらってる気になってしまう。
マリーの言う通り、俺は変態だったのか。
自己存在に疑問をいだきながら、入り口は這いずってすすむ。
「変態の話に耳はかさないわっ! あ、こら、逃げるんじゃない!」
「っ、ま、マリー、何して……うわぁあああああああ?!」
背後からマリーに持ちあげられ、抱きかかえられる。
背中にあたるコリコリ硬い感触。
ふたつのボッチを認識してしまった。
これは、アレ、なのか…………?
えっちすぎる柔らかさが、卑猥にも形を変えて背中は幸せに包まれている。
「ふふ、マックス捕まえたわ! …………っ!?」
もう俺は声すら出せなかった。
自分が何してるのか気がついたらしい聖女様も、わなわなと震え出して黙ってしまう。
「ふ、ふふ、な、ななな、なに、ま、まままままま、マックスたら、おこちゃまね……! こ、こここ、こんな事で、ど、どどどど、動揺、しちゃ、うぅ、なんてね……!」
マリーの震える声が耳元で聞こえると、彼女の抱きしめるチカラが増した。
細腕のやわやわ、すべすべの感触。
鼻腔をくすぐる格別に良い匂い。
そして、背中でさらに形を変えてむにゅむにゅしてる柔らかさの特異点。
頭で何がおこってるか理解した時。
俺は天寿をまっとうした。
ありていに言って、死亡した。
「我が人生一片の、悔い、なし……がくっ」
「わ、わわ、わたしは大人だから、別に裸を見られたくらいじゃ、ぜ、ぜぜ、全然動じないのよッ、凄いでしょマックス! ふふん! ……………………あれ? マックス? マックス! マックス!? マックスぅー?!」
マリーの叫び声だけが風呂場に響き渡ったのは、かろうじて覚えている。
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傘をかしたくらいで″荷物持ち″に惚れる″聖女様″がいるはずがない……いたっ?!〜お前らはやく結婚しろ〜 ファンタスティック小説家 @ytki0920
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