130.バジリスク

 目の前に広がる底なし沼。

 視界はクリアで、木の一本すら生えていない。

 沼の端を跳びまわる小さなカエルが、勢い余って沼へ落ちた。

 カエルは沼から出ようと力いっぱい足を動かしているが、どんどん深く潜ってしまう。

 ずっと近くで生きてきて生物でさえ、囚われれば一巻の終わり。

 そこへ一歩でも足を踏み入れれば、二度と出られないという予感が、俺たちの脳裏によぎる。

 

「何もいないね」


「たぶん潜ってるんだろうな」


「どうやったら出てくるの?」


 ミルアの質問に対する答えは、俺の視線が物語る。


「ユイ、沼の一部を凍らせられるか?」


「うん」


「じゃあ頼む。みんなも準備しておいてくれ」


 先制攻撃ってわけじゃないけど、ちょっかいをかけてやろう。

 沼の奥に潜っているなら、引きずりださなくちゃならないからな。

 ユイは杖を構え、俺たちも武器をとる。


「フリージア」


 杖の先を沼に向け魔法陣を展開させる。

 沼の表面が膜を張るように氷、その膜が一気に広がる。

 深く潜っていたとしても、地上で異変が起これば気付くだろう。

 ついでに足場も作っておきたかった。


 沼を凍らせてからしばらく待つ。

 ターゲットは姿を現さず、緊張感が抜けてしまう。

 その僅かな気の緩みをつくように、大地がゆれ轟音が響く。


「ちょっ……」


「これって……」


「まさか――」


 何かが物凄いスピードで近づいてきている。

 全員が違和感を察し、次の行動への準備を無意識に整える。

 相手は沼の奥にいるという予想が、間違いだったと気づくには、十分すぎる振動だ。


「下だ!」


 俺は叫び、全員が空中へと駆け上がる。

 そして次の瞬間、地面が崩れて飛び出したのは、予想をはるかに上回る大きさの蛇だった。


「シンク!」


「ああ! 気を引き締めろ! あれがバジリスクだ!」


 空いた穴に注目する。

 地面がドロドロに溶け、泥のように原型を失っている。

 

 そうか。

 バジリスクは超強力な毒を体内で生成しているらしい。

 その毒を放出して、土や岩石を溶かして大地を進んできたんだ。

 情報通りならば、その毒に少しでも触れればアウト。

 一瞬で皮膚は溶かされ、全身へと浸食してしまう。


 バジリスクは体内の毒を霧状に散布。

 周囲を汚染し、自分だけのエリアを生み出す。


「もっと離れろ! 吸い込んだら終わりだ!」


 一帯が紫色の霧で覆われる。

 ユイが風の魔法で引き飛ばし、再びバジリスクの巨体が目に入る。

 大きさだけなら、ドラゴンの比にならないな。


「ミレイナさんは解毒の準備を常に! 前衛二人は毒霧に注意してくれ! バジリスクは鱗の隙間から毒を放出できるから」


「わかりました!」


「おっけー!」


「了解!」


 ハッキリ言って、バジリスク相手に前衛職の役目は薄い。

 近寄りすぎると毒霧の餌食になる。

 ユイが風の魔法を発動し続けて、上手く霧を避けながら戦うほかない。


「ユイ、俺たちがメインだ」


「うん」


 遠距離から戦える俺とユイが攻略のかなめになる。

 猛毒を躱しつつ、硬い鱗を貫通させて、毒袋を頂こう。


 

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【書籍化決定】俺だけ作れる魔道具で、ポンコツパーティーを最強に! ~ハズレスキル【鑑定眼】、実は神スキルでした~ 塩分不足 @ennbunn

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