129.底なし沼に注意

 熱帯林エリアの環境は特殊だ。

 暑さ以上に湿度が高く、少し歩くだけで汗が出る。

 ジメジメした空気が嫌いな人には、最悪な場所と言ってもいい。

 繁殖している木々も特殊だ。

 種類的にはマングローブだが、大きさや色が全く違う。

 風景に擬態する昆虫のように、水や地面の色に溶け込んだり、逆に目立つ色だったり。

 見ていて目が痛くなるような光景だ。


 そして何より――


「うわっ! 何このツル!」


「ミルア」


「うん。キリエ動ないで、今斬るから」


 動物やモンスターを捕食する食虫植物は、人間にも容赦なく遅いかかる。

 地面をつたるツルを踏めば、一気に動き出してターゲットを絡めとる。

 その餌食になっていたのがキリエだ。


「ふぅ~ 助かった」


「キリエ、三回目」


「うっ……気を付けてるんだけどな~」


「足りてない」


「ユイの言う通りだよ。ちゃんと足元は見ないと」


 ユイとミルアに言われて、キリエはショボンとしている。

 足元を含む周囲には、天然のトラップが山盛りだ。

 普段の調子で歩いていると簡単に引っかかる。

 俺も鑑定眼で逐一確認しながら進んでいる。


「なぁシンク、目的地ってまだなの?」


「まだまだ先だぞ」


「うぇ~ もう歩くの嫌になってきたよ」


【辛抱が足らねーな~ イノシシ女はこれだからいけねー】


「むっ! ぶら下がってるだけの人に言われたくないな!」


 何度も引っかかってキリエもイラついているな。

 そこを面白がってベルゼが煽っている。

 言い返せる余裕があるだけ、今までの環境よりはマシだな。


 俺たちは熱帯林の奥へと進んでいく。

 目的地は、エリア中央にあるという大きな沼だ。

 その沼は底なし沼で、一歩でも入れば出られなくなる。

 沼へ近づくほど、地面はぬかるみ、足を取られやすくなるのがわかる。


 しばらく進み、目的地へ近づいた頃。

 俺は彼女たちと戦闘の注意点を再確認する。


「戦いになったら沼に足をつけないこと。絡まったら抜け出せないからな」


「空中で戦えってことだよな。この靴があれば大丈夫だろ」


「吹き飛ばされたりも注意だね」


「そうそう。ミルアが言ったみたいに、吹き飛ばされて沼へ落ちたらアウトだ。そうじゃなくても、沼に引きずり降ろされるかもしれないからな。特に前衛二人は注意してくれ」


「おっけー」


「特にキリエ。勢い余って沼に突っ込まないでくれよ」


「大丈夫!」


 キリエは自信たっぷりにそう答えた。

 内心ちょっと心配だな。

 最悪の場合落ちても、浅ければ何とか抜け出せるかもしれないが……

 キリエの突進のように、勢いで深くまで潜ってしまうと、重みで動けなくなるだろう。


「もしも深くまで落ちたら、自尊覚悟で無理やり抜けるしかない。本当に気を付けてくれよ」


 残念ながら便利な魔道具も用意できなかったからな。


 さらに進み、俺たちは沼の端にたどり着く。

 水平線が見える沼を、俺たちは生まれて初めて見た。

 ここに奴がいる。

 沼地の王と呼ばれる大蛇――バジリスクが。


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もう一作新たに投稿します。

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