二度目の初恋
河野章
二度目の初恋
夜の繁華街は人に満ち溢れていた。
駅の交差点前にある犬の石像の前には、人を避けては歩けないほどの混雑ぶりだった。
橋本悟は頭一つ分、群衆から飛び抜けて背が高かった。けれど今はその身体を縮込めるようにして、スマホを眺めている。
ジーンズに薄くゆるいシルエットのニット、金のネックレスを見につけ、金茶の伸びかけた髪は肩につく程度。今日以外は友達はおろか女にも困ったことなどなかった。
それが今は、少し肩を内側に入れて、スマホを操作している。
「って、あ──。誰も捕まんないやつ? これ」
遊び仲間を物色していた。
暗くなる前から何人かに連絡を取っていたが、暗くなった今も誰も見つからない。
知り合いがいればとやってきた駅前も、身動きできないほどの混雑で、この中から友人達を見つけるのは至難の技そうだった。
ふと、植え込みに目が止まる。
うずくまる人影。
具合でも悪いのか、と悟は近づいていった。
紺色に細いストライプのスーツを着たサラリーマンらしき男は、悟が近づく雰囲気に顔を上げた。
フレームのない眼鏡と地味な短髪の黒髪。顔立ちは比較的整ってはいるものの目立つところはなかった。色白でやけに唇に赤みがさしているのが印象的なぐらいだと悟が感じた程度だった。
「どうしたんすか?」
悟の軽い口調に男は苦笑いを浮かべてみせる。
「飲めもしないのに、飲み会に誘われてちょっと飲んだらこの有様なだけです」
「会社員の人っすよね。お疲れさんっす」
「ありがとう」
軽い口調の悟の言葉にも素直に応え、照れたように髪を掻き上げる。少し曇った眼鏡を外し、レンズをネクタイで軽く拭くとその眼は切れ長な一重で、先程よりもより深い印象を与えるようだった。
悟は男に興味を覚えた。ほんのわずかに空いていた男の隣に身を割り込ませて座り込む。
ニッと笑うと男は合わせるように微笑んできた。
「俺の方は──暇してて。ツレが誰も捕まらないんっすよ」
「へぇ……」
「お兄さん、お名前は?」
「え」
「名前。俺は悟」
悟としては流れで言外に、大丈夫ならこのまま遊びにいかないかと誘ったつもりだった。いつも同じメンバーと遊んでいてもつまらない。しかし男の方は戸惑ったようだった。
「名前は──」
男の目が泳ぐ。それどころか、カチャリと眼鏡を装着し、切れ長の目を隠してしまう。そわそわと今にも腰を上げそうだった。
「ん?」
男の目線へと合わせて悟も目線を流してみるが、その先には別に何もない。悟はあることに気づいてはっと笑った。
「お兄さん、もしかして。俺がお兄さんに絡んでどうこうしようとしてるって、思ってる?」
顔を覗き込むと、酒のせいではなくて男の顔が瞬時に赤くなるのを悟は面白く眺めた。
「な……名前は篠原です。篠原祐介……で、でも、あなたに何かされるなんてことは……」
顔を背けて、赤い顔をさらに耳まで真っ赤にして口ごもる祐介の姿に悟は可笑しそうに声を上げた。
「なになに、どうしたの。俺がキャバクラの客引きにでも見える?」
「そ、そんなことは……」
グイッと近付かせた悟の顔は、新人の俳優と言われてもおかしくないぐらい整っており、より祐介は顔を俯かせてしまう。
祐介自身、男性が恋愛の対象であることは自覚していた。だが、それを他人に悟られたことはなく、学生時代に片思いがあった程度だった。
内気な性格的にその相手に声を掛けられるでもなく、ただ見つめているだけの片思いだった。
──その片思いの相手に悟は驚くほどよく似ていた。
物怖じしない口調や態度、少し厚みのある色気のある唇や黒目がちな目元。こんなに派手なタイプではなかったけれど、チラリと横目に見る度に心臓が踊るのが分かった。
「少し酔っている……から……です」
「なんでお兄さん──あー、祐介さんだっけ。なんで俺に敬語なの?」
肩を指先でつつきながら悟は笑う。その無邪気な笑い声すら片思いの相手によく似ていると感じるほどに。
「いつもこんな感じなんです」
「真面目なんだねぇ」
祐介の態度がからかいやすいのか、より悟がお互いの距離を詰めて話す。
年齢もルックスも違う、真逆の二人。
祐介は膝の上で拳をグッと握りしめて、ほのかに香る悟の匂いに小さく吐息を洩らした。
「なら、さ。祐介さん、俺と今日は遊んでよ」
祐介の胸の内など全く知らぬ悟は、ゆらゆらと身体を揺らす。両手でスマホを挟むように持ち、足の間に腕を垂らすと、トンっと肩を祐介の肩へと当ててくる。
「僕と、君が……?」
触れる肩が熱かった。この人混みだ。ある程度の密着は仕方ないにしても、無防備な悟の言動に祐介はハラハラとする。
(別に、触れられるだけでこの胸の内が分かるでもないのに……)
身をどうしても小さくしてしまう祐介に、また顔を近づけて悟が話しかけてくる。
「たまにはこんなご縁も良いでしょ? それとも俺じゃ無理?」
手元ではスマホを弄びながら、悟は身をかがめてわざと上目遣いに、祐介へ確認する。
男も女も悟の顔面には弱い。これは経験からわかっていた。
予想通りに、祐介は顔を真っ赤にしながらもぎこちなく頷く。
「ううん……僕、なんかで……良ければ」
「よっしゃ。じゃあ今日のツレ、お互いにゲットってことで」
手をぱんっと合わせようと顔の横に上げると、祐介は『え?』という顔をしてから一拍置いて、はっと手を上げる。
そして、そっと押し当てられるように手が合わさった。
(すげー…手ぇ熱いし、おっそい)
悟は笑いがこみ上げる。
「面白いっすね、祐介さん」
そのまま手を捻り、握手の形へと持っていくと、覗き込んだ祐介の目尻は潤んでいて、色っぽいなと悟は思った。
騒がしい雑踏の中をすり抜けるようにしながら、悟がよく行くのだというバーへと足を運んだ。大通りから少し横道に入ったビルの三階にある、広くはないけれど洒落た店だった。
「どーも。奥の個室空いてる? 初めてのデートだしー」
冗談とは分かりながらもそんな軽い口調にも祐介の胸が弾む。
男性とのデートという語彙もだが、それが片思いの相手だった人に似ていたこと。酒も飲めず、社交的でもない自分がこんな店に居ることにも、なにもかもが祐介を緊張させる要素でしかなかった。
店内の奥にある狭い個室はカーテンで仕切られている程度のものだったが、窓際から見える街の明かりがキラキラと光っている。
「初デートって、悟くんそういう趣味あったっけ」
笑いながら店員がメニューを差し出す。
「俺はその時の気分なら誰とでもー。でもこの人は真面目さんだから口説き中」
「冗談はそこまででいいからご注文は?」
世間の人にとってはどうでもいい会話なのだろうが、祐介の胸にはどこか突き刺さる。自分だけが胸を踊らせたり、怯えたり、躊躇したり。
「俺はビールね。祐介さんは飲めないからソフトドリンクとかでいい?」
「……飲みます」
「うん? ここのメニューにソフトドリンクが……」
「お酒、飲みます。飲みたい気分になりました」
なぜか自然とそんな言葉を祐介は口にしていた。自暴自棄というのとは違ったが、一晩ぐらいの夢に身を委ねたいような気持ちが強かったのかもしれない。
「じゃあ、これを」
味など分からないまま、赤とオレンジ色が二層に分かれたカシスオレンジを指さした。
「あら」
強気の祐介に、悟はくすっと笑う。
「良いよ、飲みなよ。今日は俺がおごるし……チェイサーもね」
最後は店員へと首を傾げて見上げ頼むと、店員も笑って奥へと消えた。
「てか、本当に飲んじゃって大丈夫? 具合は?」
髪を掻き上げてから悟は祐介を見つめる。
「大丈夫、です。せっかくなんで」
「ふうん?」
話しているうちに飲み物が到着し、二人はグラスを手に乾杯をする。祐介は知らなかったがチェイサーとは水のようだった。
「んじゃ、この特別な出会いに」
「で、出会いに」
『乾杯!』と悟が元気に、祐介は控えめにグラスを掲げた。グラスが当たる小気味好い音がして、そのまま悟はビールをグビグビと飲む。
「んっ──は、美味い!」
「……美味しい」
祐介が注文した酒は甘く喉を少し焼くが飲みやすかった。
悟がリラックスした雰囲気で足を投げ出しソファへと背を預けるものだから、足先がテーブルの下で少し当たっている。
そんな僅かな接触にも祐介はドキドキとした。
「はい、じゃあ。お酒ひとくち飲んだら、お水も飲んでね」
茶目っ気のある表情で悟が水のグラスを掴み、祐介の横へと移動してきた。
目の前へと差し出された水のグラスを見て、祐介はため息を吐く。
「……悟くんは、面倒見が良いって言われませんか?」
「いや、──小煩いやつとは言われっかなぁ」
ソファの背へと片腕を預けて、悟はまただらりとくつろぐ。肩と肩が触れ合っていた。
「でも俺ンとこ、うっせー妹がいんだよね。それも双子。やたら甘えてくるし、細かいこと言ってくるし……それでも小さい頃から面倒みてるせいかもしんねぇ」
ビールを片手に朗らかに笑う姿は、派手な印象とは違う年相応の青年だった。
「優しいんですね。僕には兄弟がいないからちょっと羨ましい」
「兄弟なんて面倒くさいだけだって。俺なら祐介さんみたいな兄貴が欲しかったかも」
屈託のない物言いと微笑みに、祐介は自分の邪まな思いに身を削られる思いで乾いた笑いをこぼす。肩が触れただけで──淫らな欲求を覚えている自分を分かっていた。
男性との初めてのデート……らしきもの。それも学生時代に憧れていた人に似た男性。その人と二人で肩を並べて酒を飲んでいる。
「悟さんと飲んでいると……酔ってしまいそうです」
「無理しなくていいからチェイサーだけにしなよ」
「──いや、そういう意味ではなく」
祐介の言葉に悟は不思議そうに少し首を傾げてから、冗談じみた仕草で祐介の首筋に腕を回して抱きついた。
「じゃあもっと飲んじゃいなよ。俺がちゃんと送って行くから」
いきなりの体温の接触と、微かに甘く匂う香水の刺激に祐介は言葉を発することが出来なかった。
「あ、俺、祐介さんの家をまだ知らなかったんだ。じゃあホテルに行く?」
冗談とは分かっていても、それはあまりにも祐介の心を揺さぶる言葉だった。
駄目だという思いとは裏腹にかあっと身体が熱くなる。祐介はあっという間に首筋まで赤くなって、身体を硬直させた。
「わ、すっげ赤いよ祐介さん。──酔っちゃった?」
腕は放さずに、悟が顔を覗き込んでくる。駄目だ。
もう耐えられない。
「あの!」
「何?」
呑気な悟の声をかき消すように一気に祐介は告白した。
「僕ゲイなんです! だからこういうのは困ります!」
「え」
身体を縮こませて顔を隠すようにして、祐介は半場叫ぶように言ってしまった。
祐介を抱きかかえていた悟もそのままの状態で固まっていた。
(言ってしまった……今まで、誰にも言ったことのないことを、初対面の悟さんに──)
顔を上げることが出来ない。本当はほんの数秒だったのかもしれないが、祐介には何分にも感じられた。
「なんだ」
それは安堵の声だった。
「俺があんまりグイグイいくから、嫌がってんのかと。そうか、祐介さんゲイかあ」
顔綺麗だもんね、モテるでしょう、なんて付け加えられる。
腕はまだ祐介の肩へと回されたままだ。
そろそろと祐介は顔を上げた。
「嫌じゃないんですか……なんていうか、ゲイとかそういう感じの……」
「そういうの人の自由でしょ。いいんじゃない。取り敢えず俺は祐介さんのこと嫌だとは思わなかったし」
いままで他人に否定されると思っていた同性愛者ということを、すんなりと受け入れられているということに、むしろ祐介の気が抜けた表情になっていた。
手に持ったカシスオレンジの氷がグラスの中でいつもより早く溶けていくような気がした。
「で……でも、誰とも恋愛をしたこともありませんし……その……あの……」
「え? 童貞? 処女? 失礼なこと言ってたらゴメン。俺、そっち系のことわっかんねーから」
「……両方……」
「あー、だから祐介さんって可愛いんだ」
なんでもないことのように笑う悟に緊張感が薄れていく。
そして、ただ今日のこの数時間でも彼に恋をしてしまった。それがこの短い時間の出会いでもあっても。
──悟が祐介の存在など忘れて、笑い話にするようなことであっても、悟の笑みにどこか救われたのは本当だった。
悟の腕の中で、ごそごそと祐介は身じろぐ。
「だから、その……可愛いとか、そういうのは……」
「へ? あ─……そっか、口説いてることになんのか、これ」
難しいな、と悟は自身もビールを口に運ぶ。ぶつぶつと口の中で何やら考え込んでいる悟を祐介はそっと盗み見た。濡れた唇が色っぽく、思わず目を伏せる。
手元が細かく震えている祐介に、悟ははっとする。
「え、あれ。……もしかしてこれもNG?」
腕を祐介の肩から軽く浮かせる。首を傾げる表情に嫌悪はなく、ただただ確認というふうに目を見開いている。
「いや、あの」
自身の人生にとっての初めてのデートで、一度きりの出来事になるかもしれなかった。
祐介は首を振った。
「──オッケー、です」
「なんだ、これは良いんだ?」
瞳を覗き込まれ再度肩を抱かれて、抱き寄せられる。先程よりも強い力に、祐介は震えた。
「面白いっすね、祐介さん」
屈託のない笑顔だった。
祐介は胸が締め付けられるのを感じた。胸の高鳴りが悟の手のひらに伝わらなければ良い。そう願いながら口を開いた。
「あ、あの!」
祐介は首元に絡みついているままの悟の手に、自分の掌を重ねた。
「失礼なことかもしれませんが、以前に好きだった人に悟さんが似ていて……その人とは声も掛けられない間柄だったんですけれど」
重ね合うお互いの体温を嫌がる様子もなく、悟は黙って祐介の言葉を聞いていた。
「だ、だから……今日はお酒を飲みました!」
急に声のトーンを上げて断言した祐介の声に悟が堪えきれないように爆笑する。
「マジ、意味わかんねーし、超おもしろいんだけど」
「おもしろいですか……?」
「変な意味じゃなくて、祐介さんをナンパしたタイミングの俺も、祐介さんもおもしろいなーって」
嫌味のない──むしろいい親に育てられた育ちのいい子のような素直な言葉に、祐介は涙が溢れそうになる。同性愛者というカミングアウトを勢いと言えど、こういうタイプの男に告白すれば、笑われるか軽蔑されるかだとずっと思っていた。
「祐介さんのこと好きだよ」
その言葉に祐介は悟の指先をそっと握りしめ、小さな声で『ありがとう』と告げた。
「僕も、悟さんと出会えて良かったです」
悟は握られた指先を見た。そしてまだ薄っすらと赤みの残る祐介の首筋を。
きゅっと指を握り返してみる。
『え?』と顔を上げる、眼鏡の奥の瞳を見つめてみる。
「うん……平気そう、かな」
ぼそりと呟くと、そっと手を解き、祐介の肩から腕を放した。
腕を離された祐介はどこか不安そうだ。
その祐介に悟はぐいっと顔を近づけて、首を傾げる。目の前で逃げられないよう手も握った。
「キスしてみます? 俺と」
祐介が目を見開いた。その表情が面白くて、また悟は笑ってしまう。
「キスって……!」
「うん、記念に? 俺、だって似てんでしょ、その初恋の彼と」
あまりに気軽に提案された内容に、祐介はクラクラとする。
それは本音を言えばしたい。してみたい。
(けれど、こんな簡単に……?)
想像してみるだけで胸が熱くなる。恋い焦がれていた、思い出の彼と似ている悟。今新たに恋した悟。彼とキス?
「あ─……やっぱ引きますよね?」
悟が残念そうに少し身を引いた。
「俺は、してみたいって思ったんだけど。そんな理由じゃ、祐介さんに失礼か」
思いがけない悟の言葉に一瞬戸惑ったが、短い間の遊びでも、酒の勢いでもいいから恋を覚えた相手と唇を重ねてみたいのは事実だった。
「悟……さん。眼を閉じて、こっちに顔を向けて下さい……」
誰かにこんな要求をするのも初めてだった。拒否されるかもしれない。
しかし悟は祐介の言葉のままに、指先を絡めながら瞼を伏せた。
高鳴る胸。整った顔立ちは祐介を拒まない。むしろ、ギュッと祐介の指を握り返してくれていた。
「……本当に、好きになってしまいそうです」
そんな囁きが消えそうになる間際にお互いの唇が重ね合わされた。
暖かな温もりと、柔らかな感触。何よりも欲望を追い立てるような初めての感覚。
祐介は悟の背に腕を廻して掻き抱き、何度も『すみません』と呟きながらその唇を貪った。だが悟もそれを嫌がるでもなく、祐介の腰を抱き、僅かに余裕の表情の笑みを浮かべながら口づけに応えた。
「──やばい、めっちゃ気持ちいい。俺も本気になっちゃうかも」
長い、長いキスだった。
お互いに求め合うように何度も唇を重ね合った。
やっと唇が離れた後に囁かれた悟の言葉に、祐介はどうしていいのか分からず、手元にあった酒を一気に飲み干した。
「あり……がとうございます。けど、そんな、希望を持たせるようなこと……」
「いい加減に言ったんじゃんないっすよ」
祐介が言い終わる前に、グラスを握る祐介の手首を悟が掴んだ。
ビクリと祐介はグラスから手を離して、悟を見た。
つい今まで、この男とキスしたのだ。祐介は改めて顔に血が上っていくのが分かった。
思わず目を伏せて、手元を見つめる。
「最初は祐介さん面白いし、新しいタイプのツレだなぁって。ただそれだけだったんだけど」
どこかまだ余裕のあるゆっくりとした口調で、悟は言う。
「ねえ、こっち見て。祐介さん。俺の目、嘘ついてるように見える?」
そろりと、祐介は目線を上げた。そこには真剣な目で自分を見つめる悟がいた。
グラスから祐介の指を離させて、悟は自分の指を絡める。指と指の間に、悟の指が入り込んできてきゅっと握られた。
「ほら、俺の指が熱いのも分かるでしょ? まだ。男同士とか……よくわかんないけど」
「本当、に?」
情けないことに、確かめる声が震えてしまった。
「本当っすよ」
悟が安請け合いとも取れる言葉を、けれど真剣な眼差しで訴える。
祐介は身を乗り出して、空いた方の腕で悟の肩を抱いた。力を込めて抱き寄せると、甘く濃密なコロンと悟の肌の匂いが混ざり、良い匂いがした。
「悟さん、好きです」
耳元で祐介は囁いた。悟も、片手でそっと背を抱いてくれる。
「俺も」
二人は間近で、もう一度顔を見合わせた。
「すげぇ、偶然の出会いになったすね」
悟が唇の間近で囁く。その声は低く、色っぽかった。
祐介はその唇に自身の唇を寄せながらささやき返す。
「僕も、こんな出会いなんて──考えたこともなかった」
二人は唇を重ね合う。
店員がラストオーダーをと顔を覗かせるまで、それは続いた。
【end】
二度目の初恋 河野章 @konoakira
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