人、探してます~2020年夏物語~

僕に才能はない

第1話

大勢の人が群がっている。

何か叫んでいる老婆や大きなフェイスガードを付けた大男など多くの人達が「乾麺コーナー」と書かれプレートの元に集まっている。彼らが必死に手に入れようとしているものはうどんやそばにラーメン、ひやむぎ。

ただのスーパーで……

                          

2020年の夏はまだ、世界中がコロナウイルスと戦っていた。日本やアメリカといった国単位だけの話でなく、アフリカ大陸・アメリカ大陸・ヨーロッパ大陸・アジア大陸・オーストラリア大陸・南極大陸の全六大陸で広まり、感染者数を追うことはできなくなっている。それがこのつまらない今だ。               

                                 外出禁止命令が出てしまった今となっては、日々家でゲームの繰り返しだ。なのに、一向にコロナウイルスが収まる気配が感じられない。テレビを見ても、ネットニュースをみてもどこかコピペしたようなありふれた情報しか目にすることは無い。


「ワクチン開発はいつか!?」「助成金はどうなる」「ウイルス発生源判明?」


そんなニュースばかりを放送するのだから、気づいたらゲームばかりをやっているのは当たり前だ。椅子に座りながらホタテ島で釣りをしているとスマフォが鳴った。画面には、たすく(ゼロ)と表記されている。嫌々ながら電話に出る。          

 「なーにたすく」

 「あのさ暇じゃね」

 「愚問。愚問中の愚問」                     

 「じゃあさ、楽しいことしね」                  

 「オンライン飲みも流石に飽きたよ」               

いつも通りの返事が返ってこない。

 「ごめんっていいよ。やろうやろう」             

 「あのさ……」

 「ん?」                         

 「解決しない?コロナ」                     

これまでたすくと2度話したことはあったが、行わないことに決めていた。にもかかわらず3度目の正直を振ってきた。

 「……」          

スマフォ越しにたすくの荒い息が聞こえる。

 「そっか。やろうか」

俺はスマフォの電源を切りベッドに投げ捨てた。そしてパソコンを起動し右上にあるデスクトップアプリをクリックする。

入力画面にIDとパスワードを入力し、『チーム<A~Z>』ルームをクリックする。

 「こちらXです」                       

愛用のヘッドフォンからは誰の応答もない。画面にIが入室しました、と表示されるが全く反応がない。

 「こちらX、X。誰か反応をお願いします」            

パソコン画面右上に「C、D、G、Yさんが入室しました」と表示される。 

黒いまっさらなパソコンの画面から、小さな声で「はい聞こえます。Yです」と聞こえてくる。それに続いて3人から返事が返って来る。

 「みんなお願いがあるんだけどいいですか?」

前髪をバサッとかきあげると暗い画面に眉間にシワを寄せた自分の顔が映っていることに気付く。

恐怖と覚悟。2つがそこにあった。          

Yが小さな声で「なんですか?」と腫れ物に触るように聞いてくる。俺が「コロ」と2文字を喋っただけで、急に叫び声が聞こえてくる。

 「やめろ!そのことには関わらないと決めたはずだろう」Dは6カ月振りに喋るというのに第一声が怒鳴り声だ。           

 「俺達は2月に決めたはずだぞ。AからZの26人揃って評決をとって決めたはずだ。このウイルスの解決に我々は関与しないと」

Cも生意気に賛同してきた。「我々は世界で数少ない超能力者集団。その存在がばれてしまったならば、世界に大きな影響を与えてしまうことは当たり前に予想される。ましてやこんなときだ」

生意気な奴が正論を言い放っているが、黙っていられずにはいられなかった。                       

 「この状況が大丈夫だと言いたいのか?」           

 「我々の生命に大きな影響はない。能力を持たない彼らの話だ」

 「だから関係ないと?」                    

 「お前も納得したから、関与しないことに賛成したのだろう」    

こいつはどこまでいっても生意気だ。Cは年下の癖に心配そうにため息をつく。                            

 「どうした?なにかあったのか」                 

 「……」                            

 「言わないならば離脱するぞ」                  

そして俺は、友人のたすくのこととその父親が死んでしまったことを話した。コロナウイルスには関与しないと決めた後の6月にたすくの家族は全員感染が確認され、父親だけが急な体調の悪化とともに死亡したこと。そしてそのことによって、たすくにPTSDが確認されていること。   

 「つまりは……友達の心が病んでいると」             

 「病んでいるっていうなよ」                   

 「でも彼は先日断わって来たんだろ。超能力を使ったコロナの解決を」

 「そうなんだけども……お願いしたい」              

 「急に意見を変えられてもな。こちらにどんな得があるんだ」 

世界が恐怖で包まれているのに不謹慎だ。日々多くの人が死んでいるニュースがテレビでは流れているのに。

 「俺達が世界にばれる危険性を冒して、そんなことする必要ない。科学

 者とかいう人間達が作っているのだろう」

違う。得があるとかそんなレベルの話ではない。      

 「そうか。なんもないなら俺は反対ということで」        

 「頼むお願いだ!」                       

 「もしかして頭下げたりしてたりするのか」画面の向こうからは、漏れ出る笑い声が聞こえる。俺は友達を、そして世界を救いたいだけなのに。

力を持った他のやつらは困った時ほど、薄情だ。

 「どうしたら協力してくれる?」                 

俺の頬は涙で濡れていた。

                      

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