第11話 「初めてのお仕事」②
その後もナナツキは信じられないことに全弾命中、さらに距離を有効射程ギリギリの五十メートルに伸ばしてみても全て当ててみせたのだからエンジュはもう笑うしかない。
「……まああれだ、やっぱロボットだから精密射撃は得意ってことか」
そうやって自分を納得させているエンジュをナナツキはふふん、と鼻で笑い、
「いやいや、私ロボット違うから。これが才能ってやつ? こう見えても私、優秀なので!」
歴代一位間違い無しの得意気な顔をしてきた。
ちょっとムカついたからエンジュはそれを無視して、
「はいはい次つぎ! ほら脚付きの後ろに乗って! 次は動きながらの射撃な! 止まって撃つなんてそんな状況ほとんどないから!」
「ほーん。後ろに乗ればいいのね? ま、この私にかかれば動きながらの射撃でも楽勝でしょ!」
ナナツキを後ろの荷台に乗せ、エンジュは脚付き四輪を走らせる。周囲の鉄砂漠を走り回り、あちこちに設置した瓦礫の破片を通り抜けざまに射撃していくのだ。
動きながら、という点でも難しくなるが、それに加えて標的を探さないといけないことと、鉄砂漠の嵐のように激しい起伏と不安定な荷台の上というのがさらに難易度を上げる。
「あ、あった! よーし、」
わかりやすい丘の上の破片をナナツキが早速見つけ、狙いをつける。
ちょうどそのとき、脚付き四輪も鉄屑の丘の頂上を越えた。その先は急な下り坂で、
「揺れるよ! 気ぃつけて――って、あれ?」
エンジュが声をかけたときには既にナナツキの姿は荷台にはなく、振り返ると鉄屑の斜面にひっくり返っていた。
エンジュは引き返してナナツキを回収する。
「こうなるから気をつけて、って言おうとしたんだけど、間に合わなかったわ」
「……いまのはなしね? 最初だし、ちょっと撃つことに集中しすぎただけなんだから」
ナナツキはエンジュから微妙に目線をそらしつつ言い訳がましくぶつくさ口走ってから、
「でももう大丈夫。もう今ので分かったから。要するにこれはアレね、落ないようにしなきゃいけないってことね!」
相変わらず根拠のない自信を漲らせている。
エンジュはそれを胡散臭げに眺めつつ、再び脚付き四輪を走らせた。
激しい起伏に脚付き四輪が容赦なく上下する。後ろから「そいやっ、ほいさっ」とかいう元気な掛け声。まだ無事らしい。エンジュは前方に設置しておいた破片を見つけ、今回はおまけとばかりにそばを通るルートを取った。後ろのナナツキはまだ奇声を上げながらバランスを取るのに夢中になっている。既にサボットスラグ銃の射程内に入っている。ナナツキはまだ気付かない。とうとう最接近地点に差し掛かるに至り、エンジュは思わず、
「……あの、ナナツキ?」
「ほいしょっ、なになに? とうっ、どうどう? 私まだっ、落ちてないでしょっ、ほっ」
「いや、目的間違えてないか?」
「もくっ、てきっ? あぁっ! 撃たなきゃっ」
ナナツキは慌てて銃を構える。
「今さっき、すぐそば通り過ぎたけど」
「え!? どこどこ?」
ナナツキは銃を構えたままキョロキョロと周囲を見回し、後方に遠ざかる破片をやっと見つけ、揺れる荷台に思いっきりよろめきながら見るからにめちゃくちゃな照準で発砲した。
破片から数メートル離れたところに火花が散った。
「当たらないぃっ!」
「ほら、あっちにもあるよ」
「どこどこどこどこ!?」
太鼓を連打したみたいな声を上げてナナツキは銃口を彷徨わせる。
「あった!」
左前方に破片を見つけ、狙いを定め、
脚付き四輪が跳ねる。
撃った弾は空の彼方に消えた。
「ぜんっぜん違うとこ飛んでった……」
情けない声で嘆くナナツキ。それから唐突に怒りの方向に吹っ切れて、
「っていうかっ! エンジュくんわざとでしょっ! わざとひどい道通ってるでしょっ!?」
「いやいやいや違うし! そんなことしてないって!」
八つ当たり以外の何物でもない言い掛かりにエンジュは全力で否定して、
「あ、ほら! そんなこと言ってるうちに標的通り過ぎてっちゃうよ!」
「えっ、どこどこどこどこにあるの!?」
ナナツキが見つける前に、標的は鉄屑の丘の陰に隠れてしまった。
「あぁ、見えなくなった」
「もーっ! 見つからないしっ、無理だしっ」
とうとう拗ねた。
それからナナツキは、最初の射撃の上手さがウソのように徹底的に外しまくった。派手に揺れる荷台の上から落ないようにするあまり、標的を見つけられず見つけても狙いをつけられず狙いをつけても当てられない。十周まではエンジュも数えていたが、それ以上は数えるのを諦めた。ナナツキが泣きべそをかき始めて、こいつ本当にロボットか? とエンジュが疑いを持ち始めて、辺りが薄暗くなってきた頃、やっとのことでナナツキは標的を撃ち抜くことができた。
歓声を上げてエンジュが振り返ったとき、ナナツキは鉄砂漠の上にひっくり返っていた。
ポンコツ少女と一匹山猫 熊翁 @kumaou
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